強襲④
そしてたどり着いた教皇の間。
教城の3階、学校の体育館ほどありそうな広い空間だ。
いかにもお金がかかってそうな調度品が沢山ある空間には教皇と他にも重鎮らしきキンキラキンたちが居た。
ここに来るまでに何人もの騎士と、兵と出会い、殺してきた。
まあRPGでよくあるラスボスのいる城に乗り込んで、出会ったモンスターをバッタバッタ薙ぎ払うようなモノだ。違いは相手が人間でこちらも人間という事しかない。
あちらが玉座の間で待っていてくれたからますますRPGっぽい。
やはりこいつが転生者なのだろうか。洒落が効いているなと思いつつこちらから声をかける。
「待っててくれたのか?悪いね」
「よく来ました魔王よ。私に最後の種を届けに来てくれたのでしょう?前回に引き続きね」
そういう教皇。
前回ってなんだと思ったが、俺が一回死んだときの事か。
「前回はいいとして、最後のって何の事だ?」
「俺とお前ので最後、という事だろう」
「ほーん…?」
じゃああれか?
魔界の分は俺とアシュレイと師匠と、それにベラさんかガクさんくらいだと思ってた。
人間界は教皇と勇者グロードと、それにあれか。タラモルかギラギラ勇者のどっちか。
そして中立のジジイか。まあ納得だ。
じゃあこいつは…俺とアシュレイと、俺が持ってたのとほかにも思い当たるの全部奪っている…という事かな?難しいな。
種は全部で8個のはず。師匠がそう大魔王様に聞いたと言っていた。
全部で8個の種を集めるのだ。里見⑧犬伝だな。
集めたら何が起こるかって?さあ?
とりあえず過半数をそろえ、神を召喚すればゲームはほぼ自動的にクリアだったと思う。
というか普通はその状態になる時は領土的にもかなりの物を占めるはず。こちらの条件でもクリアしているか、クリア間近のはずだ。
ゲームクリアできる、という事は神が召喚されている今…もはや世界の情勢はどうしようもない状態になってしまっているという事になる。
そりゃそうだ。
人族は数が多く、弱い
魔族は数が少なく、強い
この二つで成り立っているバランスを壊してしまうのだ。
『人族は数が多く、強い』になってしまえば数が少ない魔族は只々やられるだけである。
おまけに兵器開発でも負けそうときたもんだ。
まあ、時間が過ぎるほど不利になるからサクッと魔王城強襲…おっと、聖教都強襲となったわけであるが。
「どうしました?さ、私に種を」
「そうだな…とりあえず死んでもらう。ツリーアロー!クワトロブル!」
奇襲は大好きだ。
魔力をふんだんに込めた木矢を4連。
取り敢えずの意味を込めて放つ。
『ズガガガガン!!』と教皇の頭、両肩と腹部に突き刺さる。
そしてそのまま後ろに吹き飛ばされる教皇。
「…あれ?」
「終わってしまったのではないか」
「いえ…さすがに…」
困惑する俺たちとニタニタする周りの教会関係者と思われる者たち。
まあ、終わってる気配はまるでない。
おかしなオーラも大きくなる一方だ
「さすがはカイト・リヒタール。矢一つとってもそこらの者とは違いますね」
「え?そう?」
「敵に褒められて喜ぶな。全く効いてないぞ」
「…そうだな」
確かに効果はないようだ。
矢が当たったはずの頭も無傷だし、衣服にも血は滲まない。ついでに吹き飛ばされて床に当たったけど埃も付いていない。さすがに掃除が行き届いてやがる…!
「さあ、戦いを始めましょう。…戦いになればよいですがね…フハハハハ!」
俺の下らん考えをよそに、教皇は火、氷、光、闇、樹、土と…6種類の魔力に包まれた。
そして火を、反対の手で氷を。口から光を、目から闇を…足から土と樹を出した。
そして背中からは6種類の色のついた触手が…アレで防いだのか。
器用な…というかあれは俺が何回かやってた、俺が俺じゃなくなってるやつの…暴走?
「覚醒か。意識を保ったままで出来るようになるのだな」
「覚醒か、てっきり暴走かと思ってた」
「個人の持つ『種』の力を開放するとああなる。借り物の力の方もついでに覚醒するようだがな。お前も何度かああなっただろう?制御は出来てなかったようだが」
「よくご存じで」
「基本的に制御できるようなものではないと聞いたのだが…神を召喚しているから、なのかもな」
その神はどこにと言いたいが言わなくても分かった。
教皇の後ろで6種類の魔力が融合し、悍ましい何かを模している。
あれが、神か。
それにしても…
「樹は足担当かよ」
合体ロボでは主に黄色かピンクが担当する悲惨なポジションだ。
俺は赤の飛行機に乗ってヘッドパーツになったりしたい。足はちょっと…
「今それはどうでもいいだろうが…征くぞ!ウィンドブラスト!」
ジジイの放つ爆風が不意打ち気味に奴を襲う。
教皇は跳ね飛ばされるも全くダメージにならない。
「岩貫刺突獄!」
跳ね飛ばされた教皇を縮地で後ろに回ったマークスが必殺の間合いで突く。
触手のガードを弾いて腹をぶち抜いた。
やったかと思ったが、腹の大穴は自動的にふさがった。
その後も、俺が腕を切断し、ジジイが魔法で両足を消し飛ばし。マークスが心臓をぶち抜き。
3方向同時に攻撃しても同じだ。
傷をつけてもすぐに回復する。
頭を狙うとそこだけは触手によって阻まれる。
という事は頭部が弱点っぽいが、触手は打ち抜けない。
触手には武器でも魔法でも傷をつけられない。
教皇本体は攻撃が当たっているように見えるのだがすぐに回復する。
6属性の混じり合ったナニカが体を守り、小さな傷をつけても修復してしまうのだ。
触手には傷がつかないし、本体に傷をつけても治す。
何だこれ、いや、あの時の俺と同じか。
周りで見ている者たちもトランス状態に入っているのか、教皇が弾き飛ばされても全く意に介してはいない。むしろ面白そうにしているくらいだ。
「ではこちらも参りますよ」
「―――避けろ!」
教皇の手から放たれた閃光は俺のいる方に下から上へと薙ぎ払われた。
そして次には水平方向に。
俺はジジイに突き飛ばされて無事だったが、ジジイは…ジジイは右足の先と右手の肘から先を欠損していた。
「ジジイ!」「ユグドラシル王!」
「あー…これはイカン、イカンな。ハハッ」
斬られた先からビュービューと血を流しながらジジイは笑う。
「イカンイカン。やはり無理か。よいか、カイトよ…」
「ヒール!ヒール!」
「ああ、治さなくとも良い。よく聞け。ユグドラシルの王の間、その後ろに隠し扉がある」
「ああ?…ああ…」
「扉を開き、武器を取れ。そして100層を仲間とクリアし…101層を攻略するのだ。」
「101層?」
「80層単独攻略した者のみで組んだパーティーなら扉が開く。たどり着くことすら困難な地獄の門だと伝わっているが…そこで願いを叶えれば神すら斃せる。もしくは斃す力を得るだろうとされている…という訳で、マークスよ、後は頼んだ」
「…ハッ」
そういうとジジイの体は新緑色の風に包まれ、一方で顔は狂気に包まれた。
まるで総てを憎むかのような、全てを愛するかのような…狂気に。
「愚かな。たかが欠片1つで6つを集め開花させた私にかなうわけがない。」
「ウグ…ニゲロ…ハヤク…」
「…若様、参りましょう」
「でもジジイが」
ジジイの斬り飛ばされた腕も足も、もう再生している。
でも顔は苦痛に歪み、見てられない。止めないと!
そう思う俺に『バチイイイッ』と大きな音が。痛い。
…マークス?
「しっかりしなされ!お爺様の心を無駄になさるおつもりか!」
「―――ジジイの、心?」
マークスは俺を平手打ちにするとそのまま担いで逃げだした。
窓は防護魔法で強化されていたので壁をぶち破り、3階から飛び降りて中庭へ。
中庭には聖騎士団が何百と集まっていた。
それもかなり強そうな精鋭の…そのど真ん中に降りたのだ。
「アカ殿!!!!」
マークスの大音声。
遥か彼方に見えていたアカとそれを追う天馬たちが一瞬立ち止まり、アカがこちらに飛んでくる。
そしてマークスは俺を上空に放り投げ、アカは足でキャッチ。
っておい、
「マークス!」
「私は…いえ、私もここまでのようですな…ゴホ…ゴボォッ!」
「マークス!お前!」
よく見るとマークスの左肘から下がなく、服には赤い血が大量に。
そして口からは血の泡を吐いている。
「あの光から少しばかり逃げ遅れました。不覚でございます。ですが、コレで若とお揃いですな。ハハハ」
「マークス…一緒に逃げるぞ!」
「いえ…マークスめは此処でおさらばです。若と…いえ、ご当主様といた日々…楽しゅうございました。アカ殿、後は頼みますぞ」
「…じゃあな」
「マークス!マークス!おい!アカ!」
「グルル…ガアアアア!」
アカは追い付いて来た天馬騎士団にブレスを放つと最大速度で飛び始めた。
大人に成ったドラゴンが本気を出すともう同種以外では誰も追いつけない。
天馬騎士団を、教城の中から溢れる緑の風を、中庭で聖騎士団に磨り潰されそうになったマークスを蟻のように小さくしてアカは飛び去った。