強襲②
落下はすごく怖かったが、普通に着地できた。
今の俺ならあのくらいなんともないのか。
それとも装備の性能なのか。深く考えないでおこう。
気を取り直して工場区画を探索。
鍵がかかっているが、俺達には全くの無意味だ。
ほいほいと鍵を引きちぎるマークス。
コイツ何気に脳筋だよな…
「あー、マジか」
「これが何か分かるのですかな?」
「車と飛行機だ…まあ肝心のエンジンがまだっぽいけどな」
車は台車に椅子がくっ付いている。エンジンはまだ乗って無い。
でもガソリンのタンクはある。ハンドルとギアと…ミニ四駆のほぼ完成形って感じだ。
飛行機は複葉機っぽいものがあるが…これなら鳥〇間コンテストに出てる機体の方が飛びそうってパッと見て思うような手作り感がある。
まあ、まだまだだな。よかった。…とりあえず回収っと。
バッグに次々と仕舞う。
見回りに来ている人もいたけどマークスが闇から闇に葬っている。
やっぱパネエわコイツ。
「エンジンがないな。どこかで開発していると思うのだが」
「なんだ?猿人とは」
「…蒸気機関車は乗りましたよね?あれと同じように機械でこれらを動かすのですが、その機械もどこかで開発しているはずです」
「ふむ?」
ピンと来てないジジイ。
年取ると機械類にはついていけなくなるってよく言うからな。
などと雑な偏見を抱きつつ、工場区画を見て回る。
ここに来て30分ほど。
もうどれだけの機密っぽい書類をポイポイ入手して、置いてある機械類をパクったか分からん。
工作器具に工作機械は勿論、銃に砲や車、バイク、飛行機など、制作過程と思われる品ももちろん回収だ。数日分の食料と装備しか入れてないバッグは何でも無限に入ると言っていいほどの収納力を発揮している。これで強盗すると銀行ごと持って帰れそうだ。素晴らしいな。
2時間ほどウロウロ探し回った。
ダンジョン探索しているせいか、夜中の何一つ灯りがない中でもホイホイ歩けるし字も読める。
それは2人とも同じようで…途中からは珍しそうな機械とか見つけたら持ってきてと言って別れて適当に探し始めた。
時々『ガッ』とか『キュッ』とか変な音がしているのは見張りを始末した音なのだろう。
そうこうしているうちに俺も何人か始末した。
もう殺人を嫌悪していられるような状況ではない。
何せ彼らの親玉を暗殺しに来たのだから。
そして奥の奥にある部屋。
そこにはまだ火が灯り、一人の太った男が仕事をしていた。
灯りは蝋燭じゃない、ガス灯だ。こんなモノも開発してるのか、と感心する。
夜を昼にするだけで作業効率はざっと2倍になるからな。
まあ働き手は3倍以上疲れるが。
「こんばんわ。随分仕事熱心な事だな」
「何だ…?魔族か」
「俺の名はカイト・リヒタールだ。あんたが責任者かな」
「そうだ。私が此処の責任者、オラベリオ・グラヌトゥースである」
偉そうな奴だと思ったが当たりだ。
まだそれほどの年じゃないとは思うが、態度はでかい。
書類からちらりと目を上げ、太々しい様子で名乗る。
そして再び書類に目を戻す。
それにしても仕事熱心な奴だ。
体を壊す…前に俺らに始末されるかな。
「…飛行機の設計図は見つけたがエンジンが見つからん。どこにある?」
「何故エンジンの事を…いや、カイト・リヒタールは転生者だと聞いたことがある。そのせいかな」
「まあそういう事だ。複葉機だな。プロペラとエンジンはまだ開発中なのかな?それと機銃や爆弾も開発しているのだろう?」
「ふむ…まだまだ開発途中という所ではあるがな」
そう言うとオラベリオはピクリと眉を動かしたのみで堂々と答えた。
開き直っているのだろうか。投げやりなのかもしれん。
だがこの様子。
こういうのがいると困るんだよな…
「それにしてもさすがによくご存じであるな。航空機のエンジンは第9区画で開発中だ。プロペラも同じところにある。だがな、もはや人間界全土で飛行機は開発中だぞ。魔族は早く降伏した方が良い」
「俺もそう思うがな…まあまだそこらにあった複葉機程度じゃ俺らを殺せないよ。それに教国は降伏した魔族を平等には扱わんだろう?最高に持て成しても性奴隷ってところだ。嬲り殺しに会うくらいなら刺し違えても…と考えるのはおかしいかな」
「いや…卿の言う通りだと思う。私もやりたいことはあったがここまでのようだ。さあ、始末したまえ」
「…」
「どうした」
「俺たちは獣じゃない。語り合う事の出来る人間同士だ。どうしようもないクズなら始末することは何とも思わんが、お前のように堂々とした奴は嫌いじゃない」
「だが敵だぞ。私を生かしておくと卿の不利になるだろう」
「…そう、だな」
俺は…俺は結局奴を始末できなかった。
その代わりに執務室と工場の全てを火で包んだ。
地下があるかもしれんと思ったが、マークスが土魔法で調べてそちらも処分してくれた。
肝心のエンジンと設計図はジジイが見つけてきてくれた。
ほぼ完成品のように見えるが…まあとりあえずこれくらいでいいか。
炎を目印に降りてきたアカに乗り、教城へ。
オラベリオと名乗る科学者を生かしてしまったことがどうなるか。
いや、此処で教皇を仕留めてしまえば―――彼は生きていても死んでいても大差ないだろう。
殺すしかない、何としても。
此処で仕留める。
そうすることでアシュレイも、子供も助かる。
逆にいうと此処で仕留めなければ…警戒はより酷くなる。
このメンバーで忍び込んでの暗殺が不可能となると、空襲くらいしかダメージを与える方法は無くなるのではないか。アカに乗って空から無差別に爆弾を、岩を落とし、家を焼き、城を潰す。
見張りを散々殺しておいてなんだが、無抵抗の…というか抵抗することすらできない一般人の上から爆弾の雨を降らせ、虐殺するのだ。
果たして俺にその判断が出来るだろうか。




