強襲①
「よし…じゃあ二人とも、世話になった」
「ハッ」「光栄でございます」
日も落ちてすっかり暗くなった。
小屋を出て忍者部隊の二人に声をかけ、さあ出発だ!
「出発するぞ」
「おー」
「ご武運を…」
ふわり、と宙に浮き上がった。
そしてそのまま垂直に上昇して目的の教都までまっすぐに。
夜だし、方向は俺にはさっぱり分からない。
そこは忍者部隊の二人に事前にあっちの山の向こう側です!って聞いてたからまあ大丈夫だろ。
分からなくなれば街道の上空を飛べばいいが、それはそれで目立つから出来れば人が出来るだけいない方向に、妙な結界なんかにぶち当たらないような方向に。
「寒いな」
「かなりの高度ですからな…1000m程でしょうか」
「そりゃ寒いはずだ」
地球だと気温は100mごとに1度くらい下がるので地上より10度ほど寒い計算になる。
ここは南方だからまだ暖かい地域だが、さすがに秋の終わりにもなるとかなり寒くなってきている。
オマケにそれよりさらに10度低いって事だ。そりゃ寒い。
そして何より、かなりの速度で進んでいるので風がビュービュー当たってそっちが辛い。
酷い吹雪の中を歩いているような気分になる。
雪がなくて乾燥した空気だから余計に寒い。
「水龍鎧着てなかったらもっと酷いんだろうな」
「凍って動けなくなるのではないですかな。ハハハ」
「儂の外套に入るか?」
「だいじょーぶだいじょーぶ」
火魔法で温めようとするけど上手くできない。
あれ?あれ?って感じで色々試すと水の方が上手く使えた。なんだこりゃ?
「あれ?ウオータードーム?」
水の…泡の空間でアカごと覆う。
移動速度と連動して動く泡は空気を遮断し、高速で飛行するのに形を変えない。
これがシャボン玉なら風で一瞬で割れそうだが…丈夫なものだ。
「風を受けないだけで暖かです。良いですな。」
「…火は下手になったのだろう?」
「うん…なんでだろ?」
「借り物の力を失ったからよ。お前の本当の力は樹のみ。火はアシュレイに借り受けていたが…奪われたのではなかったのか?」
「ああ…それで今は水、か。」
アシュレイの種を受け継いで火魔法を覚え、そして奪われて力を失い…師匠の種を貰って水、か。
なるほど。
女の力でどうこう、ってのは割と的を得ているのだな。…ハハ。
「まあそう落ち込むようなものでもない。むしろ気付いていると思っていた。確かに樹と火は相性がいいが、水だっていいぞ。使い方をよく知れば火より良いかもな」
「そうかなあ」
「そうだとも」
それっきりジジイは黙ってしまった。
マークスはこちらを気にしつつも何も言わない。
アカは背中で色々話しているのも気にしているようなしてないような感じだ。
しょうがないからいろいろ考える。
樹と水なら…拘束して水で溺れさせるとか。
それから…樹を育てやすくできるかもな。
後は…うーん?
樹と火の組み合わせでは捕まえて燃やすって使い方しかしなかった。と言うかそれが便利すぎて他の方法を思いつかなかった。
成程、水は色々と使い勝手がよさそうである。だがパッと思いつかない。
ウオーターカッターとか?スパスパ切れそうなイメージだけどあれって柔らかいのは切れるけど鉄塊みたいなのは切れないんだよな。だから人間は切れても大砲は切れないと思う。研磨剤みたいな細かい粒を入れないとダメなんじゃなかったっけな…どうやって入れるんだ??
とりあえず俺が使えるかは練習あるのみだとは思うが。
師匠から受け継いだ力、どうにかうまく使わないと…
あれこれ練習している間に教都上空に着いた。
上空から偵察した感じ、報告を受けた地図と照らし合わせてそれほど大きな違いはない。
違いがあるのは工場区画くらいで一番大きな建物である教城はそのままだ。
嫌な予感は消えない。と言うかだんだん強くなる。
こりゃあ、止めた方が良いかもな…
「うーん。ヤな感じするな。今回は偵察だけにして帰らないか」
「そうしたいのは山々ですが…」
「…じゃあ軍事工場だけ襲って帰るとか、そういうのにしない?」
「そうすれば今後夜間奇襲が猶更難しくなるな」
「ああ…」
そうだよな。
そりゃそうなんだよ。
襲われるかもと思うと大事なものを隠すだろう。
暗殺についても、警戒してないから成功率が高いとも言える。
いくら気配を消しているとはいえ、上空にドラゴンが知れっと侵入しても夜間なら気付かれていない。
警戒してりゃ今頃大騒ぎになるはずだ。
結局の所ハイリスクハイリターンなのだ。
今ならその賭けが成立する。
次回からはハイリスクローリターンになってしまうだろう。
やはり、やるしかないのか。
「やるしかない…か。駄目なら脱出してやり直しだ。その場合は出来るだけ武器庫から新兵器を強奪して、工場を爆破しまくろう。あ、これ爆弾ね」
そう言って手榴弾を渡す。
手榴弾と言うか焙烙玉と言うか。
着火機構があるだけでぶっちゃけ中身は焙烙玉だ。
まあ俺には違いがよくわからないが、導火線があるのが焙烙玉なんじゃないか。なんとなく。
もう一つ、火薬と石油を混ぜ混ぜした危なっかしい物体もある。
こちらの方が建物や工場の破壊には向いていると思うのでそっちも渡す。
これはほぼ火炎瓶である。危ない。
「こっちのビンは火をつけて投げるか、燃えてるところに放り込んだら火がいっぱい出るから…後は勝手に延焼してくれると思う。うーん、今からでも上空から嫌がらせにこいつらばら撒くだけにしないか?」
「ならば、これらをばら撒いて混乱している所に突っ込めばどうですかな」
「敵が逃げる時間を与えそうだが…」
軍議は続く。
今はまだ深夜1時ごろか。
これから夜明けまでまだまだ時間はある。
今は状況確認をしている所だが…まあ実際の所、夜だしかなり降りてはきたがまだ上空からじゃよく見えんと言うのはある。
お城の位置は上空からでも大変わかりやすい。
だってそこだけ明るいんだもん。
この世界は夜になると暗くなるのが常識だ。
正確に言えば、照明が発達していない時代は、である。
そして上空からでも感じられるほど強大な敵の気配一つがある。
他は雑魚いっぱいって感じで、これと言って特に感知できるものではない。
かなり降りてきたのであちらからもアカと俺たちの気配を察知出来ているかもしれんが、今のところ静かだからセーフなのかな?
一つ感じる強大な気配は魔力とはまた違う、独特の気配だ…これが恐らく降臨した神。
あるいは神を宿した教皇だ。
目標は神ではない。
…あくまで教皇だ。
神は召喚した教皇を斃せば消える、はず。
「よし…じゃあ…」
「アカ殿、あちらの方へ。まずは工場区画に忍び込みましょう」
「破壊工作など久しぶりだ」
「我らは降りるのでアカ殿は上空で待機しておいてくだされ。では行きますぞ!」
そう言ってマークスは俺の襟首をつかみ、ヒョイっとアカの上から降りた。当然ジジイも。
「え!?あ!?ああああぁぁぁぁ…」
「お静かに!」
必死に口を噤む。
大魔王様からもらったスパルナのマントはしっかりと効果があったようで大空を滑空し、勢いを弱めた。
俺と一緒に飛んだマークスは着地の際に地面を柔らかくして難なく着地。抱えられてた俺も無事。
ジジイは自前で風を起こしてふわりと着地。何なのコイツら。
バカなの?死ぬの!?