思い出す
アーク歴1509年 玖の月
大魔王城
今年の収穫は『まあまあ』だったようだ。
冷害にイナゴにと、ここ数年の収穫は酷かった。
去年はどうだったか。
収穫の時期は…
「ああ、ロクに覚えてないと思った」
「カイト様?どうなさいました?」
昨年の秋から冬にかけての事を思い出した。
朝から晩までイナゴを追い回して焼き討ちにし、イナゴを片付けた後は毎日ヘロヘロになるまで作物に魔力を分けていたのだ。
魔界に住む人々の胃袋は儂が育てた(ドヤア って訳ではないが、ヘロヘロに疲れ果てて何も考えられなくなっていたのだな。それで、気が付いたら死んでいたわけだ。
それを思い出し、執務室で独りごつ。
するとマリアに聞きとがめられた。
「いや、何でも。去年の今頃はどうだったかなと思っただけだ」
「ああ…昨年のカイト様は大変お忙しそうでした。収穫も悪い見通しでその上にイナゴが来ておりまして」
「だよな。あっちこっちにイナゴ対策に出かけて虫追い回してさ。それで…」
それで、どうなったか。
俺はユグドラシルに行き、そしてアカと別れ。
別れてから…
「そうだ、腕輪がない」
唐突に思い出した。
そう言えば致命傷を防ぐ腕輪を手に入れて、それを付けていたはずだ。
なのに死んだ。アイテムが作動しなかったのか?それとも…
「蘇生された時には喪っておられました。つまりカイト様は二度死んだのです」
「2度死んだ?」
「一度目の致命傷を腕輪が防ぎ、無かったことになったのにそのままもう一撃喰らったのでしょう。」
「…そうか。」
「我らの同胞が見た時には首から胴が離れていたそうです。それと、腕輪の残骸が…」
言われて首をさする。
傷一つない。
しかし、首から胴が離れるのか、胴から首が離れるのか…まあ如何でも良いな。
「…所で思い出したことがある」
「ハッ」
「俺の死んだ時の事だ。一人は仮面をつけていたが、もう一人は顔を晒していた。長めの銀髪、眼鏡をかけて涼しげな顔立ちだった」
「…はい。」
「状況から見て教皇だと思うのだが。すまんが姿絵か何かを探してくれないか?」
「人族の街に入っている者もいます。すぐに用意させましょう」
「頼む。それと…そのメガネが仮面の男に向かって何とか王とか言っていたな。~~王と言う称号を持つ者をリストアップしてくれ」
「はい…そちらはすぐにでも」
俺は死んでたから知らないが。
俺が死んだ直後に、教皇に覇王の種が譲渡されたらしい。
時系列的にそこは間違いないようだ。リリーもそう言ってたし。
「つーかなんなのリリー。ちょー怖いんだけど」
リリーは俺が死んだ瞬間のギフトの消失を感じ取り、そして次の瞬間の天の声を聴き…教皇が俺を殺したと理解した。次の瞬間には教国に殴り込みをしようと動き出したようだ。
幸いにも?シュゲイムたちが止めたみたいだけど…
大暴れして大変だったらしい。
そしてそのテンションのまま訓練に励み、防衛戦に出て相手の人族兵を何万、将を何十人もぶった切ったようだ。
怖いことこの上ない。
怒らせればその力がさらに3倍になってこちらに向かってくるのだ。
くわばらくわばら…?
「リリーさんは忠誠度も高く、素晴らしい人材ではありませんか」
「高すぎて怖い。忠誠と言うより信仰を感じるよ」
「それは…そうですね。私たちも少し怖いと感じる時も有ります。」
「だろ?やっぱりそうだよなあ」
マリアたちもそう感じていたか。
正直、ベロザたちヴェルケーロの住人やシュゲイムたちのように同じタイミングでエルトリッヒから移って来た人たちと比べてもちょっと異様なんだよな。忠誠度が高すぎると言うか…もはや神に縋る狂信者のように見える。
正直怖い。
愛憎は裏返しとも言う。
アレがいつかひっくり返って敵にならないかなって心配があるのだ。
めちゃくちゃ強くて、3倍の速度で俺を憎みまくるおっそろしい敵になる。
止めて、お願いだから。
「ですがおかげで聖神の影響を受けなかったと…いえ、美味しい部分だけ受けられたと感じます。カイト様のギフトも復活したので向かうところ敵なしでしょう。アシュレイ様でも相当危ないかと」
「じゃあ俺なんて足元にも及ばないじゃん。ハハッ」
マリアと二人で苦笑いだ。
俺とアシュレイは元々俺よりアシュレイの方がだいぶ強く、彼女が死んでいる期間に逆転したが…俺が死んでいた期間でアッサリもう一度逆転した。
つまり。
昔はアシュレイ>>俺
一度アシュレイが死んで生き返った時は俺>>>アシュレイ
俺が死ぬ直前は俺>アシュレイ
そして今アシュレイ>>>俺…となった。
怖いから鑑定しない。
と言うか、うっすら思っていたが鑑定技能はゲームっぽくてすげーと思ったが、実際の所あんまり役に立たない。
ステータスを幾らあげても、気を抜いたところで鋭利な刃物に首を刺されたら…いや、ド素人なら行けるかも知れん。何なら、傷一つ着かないかも。
ある程度の強者でもヒールが間に合えば行けるな。
だが、それなり以上の強者に首落とされたらどうにもならん。あの時のように。
と言う事はあいつは相当強い奴だ。また絞れたな。
油断しないためにもきちんと護衛を連れ、独りでフラフラしない。
当然の事で最低限の警戒だ。
…つーか前は平和ボケしすぎたわ。
かいと は おもいだす の とくぎ を つかった!