黒の戦士
相手との差を少しでも埋める。
もうすでにこちらの有利は全くない。どうにか侵攻は防げたけど、本気を出されるとどうなるか。
もうなりふり構っていられないだろう。
というわけでゴンゾのところに。
「ゴンゾいるかー?」
「はいはい。今度は何ですかいのう」
「敵の大砲みた?アシュレイが言うにはグルグル弾が回ってたって」
「破壊されたのは見ましたが、確かに内部がおかしな形になっておりましたな…我らも同様の工夫は試してみようかと」
既に試していたか。
さすがゴンゾだ。言われる前に動く。部下の鏡である。
「そうか。もう試してたか。さすがゴンゾだ」
「ハッ」
「…あれライフリングって言ってな、グルグル回すことで空気抵抗を一定にしてまっすぐ飛ばす…か何かそういう働きがあるはずだ」
「ほう」
「とりあえず分解して試してみてくれよ」
「畏まりましたですじゃ」
「うん、でさあ。それよりさあ…」
これからの敵の兵器の進化について考えていたことを話す。
恐らくは地球の兵器の進化をなぞるはずだ。
長射程、高威力化は当然として、後は移動である。
「動く?蒸気機関車ですかい?」
「それはもうアッチにもあるらしい。つーことは次は車だ」
「くるま?馬車ですか?」
「そうじゃなくってこう…」
下手な絵を描いて説明する。
4輪でオーソドックスな形の乗用車だ。
だがそれはどうでも良い。問題はこれが内燃機関を搭載して石油で動き、100㎞以上の速度を出せるようになること。ミニ4駆見たいな絵を描く。ざっくりしてんな我ながら。
んで、そいつに大砲を積んで移動できるようにする。裸じゃ中に撃たれたら困るから装甲を固める。どんな足場でもイケるように4輪ではなくキャタピラを装備すればあっと言う間に戦車の出来上がりだ。
「戦う車ですか…若の故郷ではこんなものが…」
「そう。んで次が…」
「まだあるんですかい?」
次は船、そして航空機だ。
俺の故郷はとんでもない物騒な国になるがまあそれはいい。実際そうだったし今もそうなのだ。
戦艦はぶっちゃけ今やってる技術の延長だ。
櫂ではなくスクリューで運動する。すでにそれに着手している。
その為のエンジンは…まあとりあえずは蒸気機関でいいか。
外輪船を作ってもいいが、あんなもの経由しなくても最初からスクリューでいいだろう。
蒸気機関でスクリューを回す船に大砲を乗っける。もう立派な戦艦の出来上がりだ。
この世界は海が少なくて陸地が多いから船は移動用に使うだけであんまり戦力として見ていないかもしれないが、沿岸にはやはり町が多いし上陸して橋頭保を作って兵士をピストン輸送して…ってするにはやはり船が有効だ。そして船から砲撃されると近寄れなくて厳しい。
ああいや、この世界じゃ別か。
飛竜でひょーいっと行くとか、アシュレイみたいなぶっ飛んでる奴が一人いれば…
海の上を船まで走ってぶん殴れば終わるな。
足が沈む前に反対の足を~理論で。何なら俺も運んでもらえそう。
2人だと……ッッ さすがに沈むな…ッッ!とか言いながら。
そして何より航空機だ。
動力部分は車のエンジンの延長…遠い延長ではあるがやってることは大体同じだ。
石油を燃やしてピストンを動かし、グルグルとクランクを回して動力を得る。
その力でタイヤを回すかプロペラを回すかの違いである。
問題は揚力を得るための飛行機の設計だ。さーっぱりわからん。それに操縦についてもどうやったら右に曲がって左に曲がってするのか。何かドームみたいなところを作って風の実験するんじゃなかったかな。
その為には風を産み出す装置を作る必要がある。
風を産み出すと言えば…扇風機?そんなんでいいのか?
分からんがその辺でどうにかするしかない。
魔界に石油が出るところはある。ガクさんの所とドレーヌの所から出て来るのだ。
つーか石油の精製からか。
湧き出る原油を蒸留して分けるんだよな。
…軽油とガソリンと重油と…ガス??アスファルト?コールタール?アカン分からん。
分からんことをわからんまま、思いつくままゴンゾに説明する。
ゴンゾはとりあえず全部メモする。部下もいるのでみんなでメモってもらう。そしてそこからは丸投げ。
ひどい?俺だって忙しいんだ。
ああ、大事なことを忘れてた。電気だ。
発電もやってることは大体同じシステムだ。
デカい窯でお湯を沸かして風車を回して針金まいたコイルと磁石を…発電してどうすんだ?
とりあえず電灯にしたり、エンジン回して工作機械を動かしたり?テレビやパソコンに…ある訳ねえわ。
それから電気自動車とか、エアコンとか、うーん?あと何が有ったっけ?
エンジンの代わりにモーターを動かして回転運動をさせることで熱を出したり冷やしたり、それから動かしたりイロイロできる。イロイロの中身が色々ありすぎて説明に困る。
「…とまあ俺の知識ではわからんことはいっぱいあるのだ」
「ふーむ。油に火をつけてピストンを回すですか…」
「うむ。蒸気機関とはまた違う。内燃機関だな。それにはまず合金が必要になる。丈夫で圧力に耐えて、そして重くては動かん。動きづらい。軽く、薄くても破れない事が条件だ。」
「穴が開いたら爆発しますからのう」
「そうだな。穴が開いても爆発しないような仕掛けも必要だ。車が出来て、何らかの異常があって事故が起きる。事故を防ぐのは難しいが、事故が起きると必ず大爆発したら困るからな…」
「それは厳しいですな…そして電気…」
「そうそう。俺のいた世界だと電気でほとんど何でもやってた。電気自体はほら…これこれ」
下手くそな雷魔法をバチッと。
「これの力でモノを動かすんだけど…」
「むむう…」
「あとは油圧計とか、圧力計とか。蒸気機関の窯がやべえってなるの分かるだろ?アレをもっと一目でわかるように秤を付けるんだよ」
「ああ、それは便利そうですな」
「だろ?それで…」
「ふむむむ…」
「あと…」
「うぬぬ…」
要求は多い。
だが、ゴンゾなら。
ゴンゾなら、(丸投げしても)やってくれるはずだ!
「まあライフリングや今ある程度形になってるモノは部下に任せて、内燃機関の開発に乗り出してほしい。部下何人雇ってもいいけど信頼できそうなのにしてね!頼んだぞ!じゃ!」
「カイト様!?」
こっそりと忍び足で部下の元に近づき、有無を言わせず仕事を放り投げて足早に去る。
部下がどれほど苦労しようと知ったことではない。丸投げこそジャスティス!
これぞ真の黒の戦士よ!
コールタールは石炭を乾溜した時に採れます。カイトは石油と石炭がごちゃごちゃになる程度の知識量ですってことです。多分普通はごちゃごちゃだと思うんですよね。例によって普通の範囲が曖昧過ぎますが…