黙祷
情報交換もそこそこに、グロードとは別れた。
彼の情報だとやっぱり怪しいのは教国だ。
まあそれはそうだろう。
誰の目に見てもそうだと思う。
俺から見ても原作とかけ離れてるのは俺のところと教国なんだもんな。
この世界の住人だってあそことあそこはどうなってるんだって思うはずだ。
俺が独自に仕入れた情報…というか勝手に流れてくる情報でも、人間界は既にほとんどが教国の手に渡っている。宗教と『神』のコンボは力が絶大だ。
どこぞの一向門徒やどこぞの外国の戦士たちのように、神のために戦って死ねば極楽や天国やヴァルハラに行けるのだ。
そこは悩みのサッパリない酒池肉林で、処女がいっぱいいてご飯だって食べほーだいだ。
まさにこの世の天国…だけど、そこで働いてる女性たちには本当に悩みはさっぱりないのだろうか?
食われる肉は?食事の世話は誰がやるの?
うーむ。LGBTやらSDGsやら?人権団体?どこいった。
こんな時こそ元気に声上げろよと。
とりあえず、例に漏れず教国の教えでは魔族と戦って死んだ者は天国に行ける。
逆に招集に応じなかったり戦場から逃げた者はその家族まで地獄に落ちる…だそうで。
これまでも親たちは泣く泣く戦場に子供を送っていた。
ところが『神』が召喚されてからは親も本人もニッコニコで、何なら一緒に戦場に行っているらしい。
そしてジジババ世代が銃を持って大暴れするわけだ。
狂信者と相性のいい武器は色々あるが、力の無い者と銃器はとっても相性がいい。
銃を台にでも置いて、引き金を引くことが出来れば大体狙い通りに弾は出る。
引き金を引く力があれば、ある程度訓練された強者を倒すこともできてしまうのだ。
碌な事にならんだろう。
人間界にはいくつもの国があったが、そのうちのほぼ全てを教国が統治することになった。
これは神が召喚される以前の事だ。
それでも反乱の芽がいくつもあり、マリア達はせっせとその芽に水をあげていたようだが神が召喚された後は芽は全て踏み潰され、その上さらに除草剤をバラ撒かれたらしい。
そしてたくさんの狂信者が産まれた。
彼らは信仰のために侵攻するのだ。ダジャレか。
「あー、どうすっか」
「ドカーンしちゃえばいいんじゃないか?」
「うーん。とりあえずこっちはこれ以上の侵攻はなさそうだけどなあ」
ヴェルケーロを灰燼と化した甲斐はあったようだ。
生き残りの集まった敵軍陣地はまるで難民キャンプだ。
グロードに案内されて上から覗いてみたが、生気のある兵はいなかった。
味方が閉じ込められて焼かれる、その怨嗟の声を火が消えるまでずっと実況で聞いていたのだ。神を称賛する声が多数あったようだが、洗脳が切れて泣きわめく声も沢山あったらしい。
それは、外で聞く側の洗脳も覚める程のものなのだろう。
だが、いくら相手に戦意がないとはいえ攻めてきた敵を無傷で返すわけにもいかない。
一度戻ってドレーヌ領から兵を引っ張ってきてそれらにぶつけた。
生気のない軍は帰るなら放っておこうかと思ったが、さすがに無傷で武装もそのままで返すともう一度襲ってきかねないので…ガバッと襲うことにした。
やだな、一杯死傷者でるだろうなと思ったけどあっさり降伏してくれた。
なのでヴェルケーロの町の復興を手伝わせることにしたのだ。
洗脳が解かれたらしい彼らは随分と大人しくなった。エルトリッヒから移民してきたすぐのシュゲイム達と大差ないどころかこっちの方がさらに大人しいくらいだ。
ただ、年齢層がバラバラなのが気になる。
普通兵士になるのは若い男が一番多い。
10代後半から30代くらいまでのいわゆる働き盛りな感じの健康な男性が多いのだ。
エルトリッヒから避難してきた者たちも働き盛りな年齢とその子供たちが多かった。お年寄りはあんまりいなかったのだ。
ところがこの兵の集団は割と老若男女が入り混じっている。
年頃の男女もいるし、ジジババも子供も混じっている。
やっぱ宗教パワーって怖いなあと思うと同時に、ブーストの切れてしまった普通の子供やジジババたちの扱いに困るのだった。
そして一週間後。
「…ジジババだけでもさっさと送り返せないかな」
「伝手がありませんからなあ」
ヴェルケーロ丸焼き作戦人族連合軍…の残りがおおむね捕虜となり、グロード達航空部隊は引いて行った。と言うか見逃して引かせた。そして俺たちは捕虜と一緒に街の復興と再建に向けて動き出す。
ヴェルケーロ復興に向けて働き始めた俺はまずマークスを呼び寄せた。
ぶっちゃけるとアシュレイのいる西方戦線の援助に向かいたいからこっちを信頼できる誰かに代わってほしいのだ。
ベロザでももちろんいい。
でもあいつは病み上がりも良いところだし、内政の細々したところはやっぱり信頼と実績のマークスさんにお願いしたい。オナシャーッスwwwってまかせておけば全部終わるんだもん。
「じゃあとりあえずパーッと片付けて、壁の再建しといてくれ。畑は全部一回ひっくり返して混ぜ混ぜすりゃいけるだろ」
「…ハッ」
燃えた木なんかも適当に砕いて畑に突っ込んで…混ぜ混ぜする方向で。
焼き畑農業と大差ない、と割り切るしかない。処分して埋めるにしても場所に限りがあるのだ。
埋めなければならないのは敵兵と…わが軍の将兵たちの死骸だ。
さすがの俺でも死骸を畑に練り込む気にはならない。
自然界を見渡せば大体似たような事をやってるってのは分かるが、ソレはソレ、コレはコレだ。
さすがにちょっとな…
自軍の将兵たちは普通に墓場に持って行って葬式を上げる
というわけで捕虜には大きな穴を掘らせた。
そして穴のふちに捕虜を立たせて後ろからドーン…なんて酷いことはしない。
死骸が腐ってどうしようもなくなる前に穴に埋めて土をかける。
燃やす必要はない。もうすでによく燃えた死体がほとんどだからだ。見てて最悪な気分になるから見たくないが、これを見るのは領主の責務だと思って最後まで見る。
埋め終わったら捕虜たちに声をかける。
「これが、この死骸の山が君たちが信じた神の起こした奇跡だ。彼らにも親もいたし、子もいたかもしれない。愛する妻や夫がいたかもしれん…この後たとえ天国に行けるとしても残された者はどうだろう。お父さんは天国で楽しくやってると思えるだろうか。…よく考えて欲しい。辛い労働だったと思う。ご苦労だった。この後は飯を食って寝ろ。すまんが戦争がある程度収まるまでは諸君らは捕虜となる。帰ってまた攻めて来られると困るのだ。そこは分かってほしい。最後に、犠牲になった者たち皆に黙祷を捧げよう。出来れば…犠牲になった魔族にも祈ってほしいものだ。では…黙祷」
合図とともに皆で黙祷を捧げる。
あ、マークスだけは別。変なのが暴れ出さないように見張っててもらう。
こういう時ベロザは素直に黙祷しちゃうからな。
性格が捻くれてるマークスがちょうど…ん?マークスさんどうしたの?
もしかして怒っていらっしゃる??
この後久しぶりに模擬戦になった。
いい勝負だと思ったがマークスのズルい技のおかげでまたボコボコにされてしまった。
この執事強すぎやろ…
いいこと言ったのにボコボコにされたンゴ…