対話②
最近ちょっと情緒不安定だと俺の中で判明したリリーさんに話を聞く。
聞いてるんだけどやっぱりあれれ??と思う時がある。
まあ戦いの後だからな、情緒不安定にもなる…とそう思いたい。
「それから、カイト様がお隠れになられましたが、アシュレイ様が必ずカイト様を復活するだろうから防備を固めようという話になりました。」
「敵が攻めて来ると思ったんだな」
「敵からすれば千載一遇のチャンスだと、義兄が…カイト様が亡くなられたのをチャンスだと…あのクソ兄が…」
「お、おう」
リリーからどす黒いオーラが出ている。
おかしい、勇者なのに何だこの禍々しい周囲に呪いを撒き散らかすようなオーラは。
なんか息苦しいんだけど。
俺って神様じゃなかったの?神様に呪いぶっかけないで?
「リリーさん?ちょっと落ち着いて?…んで続きは?」
「はい。防御を固め、非戦闘員を後方へ輸送しました。鉄道は開戦まで普通に動いていましたので。」
「鉄道?空から少し見えたが、やはりこちらにも汽車が走っているのか?」
「ああ…人間界もか。なあ、お前らの所で色々変な発明したりしてるのいるだろ?そいつ誰だ?いろいろ情報交換したいんだけど」
人間界にも転生者かそれに近い者がいる。
そいつが恐らく目下の敵だ。
仲良くできるならそれに越したことはないが…無理そうなんだけどな。
「さあなあ?ただ、教会の方からいろんなものが広まってきている。教会の重要人物のだれかだと思うが…」
「やっぱり教国関係かな。じゃあ情報交換は厳しいかもな」
「だろうな。死んでたから知らないかも知れんが、今や教国の支配下に入る国はどんどん増えている。人間界は教国がほぼすべてを支配していると言って良い。今やこの世界で教国の支配下に入っていないのは中立を貫いて碌なモノが無いユグドラシルと魔界くらいだ。」
「…そうか」
いつかは帝国か教国辺りが勢力を強めるだろうと思っていたが、思ったより早い。
それにしても碌なモノが無いとは失敬な、と言いたいがユグドラシルは確かになんも無い。
弓と見目麗しいエルフの男女くらいしか取り柄がない。
まあ、それを欲しがる奴はたくさんいると思うが、この世界には幸いなことになんても言う事聞かなきゃいけなくなる便利な奴隷紋は無い。
だから、少なくとも魔族と同程度くらいの力のあるエルフを金持ってるだけの貴族が性奴隷になんてするのはかなり難しい、と思うんだけどな。力で縛れなきゃいろんな方法でいう事聞かせるってのも出来るけどそこまで言い出すとキリが無い。逃げられるのに逃げないってのまで俺らがどうにもできないし。
どこぞの企業戦士と奴隷労働だって紙一重みたいなものだし。
「人間界は…いやまあ、ハッキリ言うとエラキス教国はユグドラシル支配に乗り出すのか?魔界はまあ攻められてるのは分かるが」
「俺にも分からん。人族にもエルフと取引したり、友好的な関係の国はいくらでもある。普通はそいつらが反対すると思うが…見てのとおりマトモじゃないのもいるからな」
様子がおかしいなと思っていたが、丁度いいタイミングでグロードが連れてきていた天馬部隊の一人が暴れ出した。
あーあ、って感じでグロードが取り押さえて言うには、信仰の強い者ほど暴走して連携が取れなくなるらしい。だから信仰心の薄いのを選抜してチームにしていたらしいが、それでも限度がある。
その暴れだした天馬乗りは最近補充した人員だそうだ。
なぜ補充が必要になったかは聞かない。聞くだけお互い気まずくなることは間違いないからな…
そもそも魔族と人族は憎しみや恨みの連鎖が綿々と続いている。
大魔王様の治世が始まり、1000年の間に随分と両者の敵対関係は崩れ、世界は平和になったと思ったらこのザマだ。何かきっかけがあれば崩壊するほどの見せかけの平和だったという事になる。
やっぱり種族間の問題は時間だけでは解決しないのだ。難しい。
「それで…マトモじゃない人族を見てるグロードはどう思う?俺としてはサクッと戦を止めたい。こんな戦いで何も得られはしない。折角長い間の休戦で忘れられてた両者の啀み合いが酷くなるだけだと思うんだけどな」
「俺だって止めたいさ。だが、俺だけじゃ教皇やそれに神なんてとんでもないのを止められるはずがない。そうだろ?」
「そうだな…って訳で俺との話し合いに応じた訳だ。」
「そういう事だ」
つまりはコイツは俺に教皇を、神を討てと言いたい訳だ。
教皇が種を集めて神を召喚したわけで、神を討つか、あるいは教皇を斃せばこのおかしな洗脳は終わるはずだ。推論ばっかりだけどまあそうなる。問題は…
「ってか神って倒せるの?」
「問題はそこだ」
そうだよね。
そこなんだよね。