対話①
空を飛んで話していると落ち着かないしアカが疲れたと言うのでとりあえず地上に降りて話をする事になった。
敵陣のすぐ近くはというわけにもいかんし、ドレーヌ領に連れてくるわけにもいかん。それに焼けた町…は色々変な臭いがするからヴェルケーロ鉱山に移動してお話しタイムだ。
鉱山部分は焼けてないし、人族の軍に略奪もされていない。
アカが重点的に守ったようだ。まあコイツの縄張りだからな。
天馬部隊も素直に付いて来た。
かなり俺ら、というか俺の事を睨んでる奴もいるが狂信的というよりは個人的な恨みがあるって感じだ。
まあしょうがない。
嘗ての戦いでは俺も天馬部隊をボコボコにしたことがある。俺というか主にアカさんが、だけど。
まあ飲む?なんて言ってテーブルを出して茶を用意する。
ちなみにアシュレイに元のマジックバッグ返してもらった。
なんかどうでもいいけどついでに集めてたモンスターの羽根や毛皮類のコレクションや、そのうちアシュレイに着せようと思っていた衣装類はなくなっているような気もするが概ね中身は変わっていない。
「まあ飲めよ。お前らもいる?」
天馬部隊の皆も、俺の後ろの飛竜部隊のも皆いらないって。
遠慮しなくていいのに。
「毒なんか入ってねえぞ?グロードは飲むだろ?」
「もらう」
「リリーは?」
「いただきます」
毒なんか入れてねーぞ、とばかりにカップを選ばせて、皆が見る前で茶を入れて飲む。
お茶っ葉はヴェルケーロじゃなくてリヒタール産だ。茶は元々亜熱帯産で寒い所じゃ微妙。
寒い山岳地帯のヴェルケーロじゃ無理なのだ。
シュゲイム達のいる平地なら大丈夫かも知れんが…どうだろ?米が採れるから大丈夫かな?
テーブルを用意して茶を出している間にアカと飛竜に餌をやって、天馬は…ニンジンくう?いらない?あ、そう?
グリフォンは?ああ、食うのか。
魔猿でよければどうぞ?
「うん、悪くない。…それで、グロードはどうしてその…洗脳に掛かっていないのだろう?」
「分からん。だが、恐らくは神を、教会を信じている者ほどおかしくなっているのではないかな。貴様の所にも人族の兵や戦士はいるだろうが、おかしくなっているような感じはあるか?」
「いや…?」
そう言われてもな?俺には良く解らん。
シュゲイム達に会ったけどいつも通りに見える。
リリーもいつも通りに見えるけど、コイツはいつもちょっとおかしい気もする。
うーん?
「リリーは何か変わった感じある?その、俺が死んでから今まで。」
「何も変わりありません。我が神はカイト様です」
ほらな。
コイツちょっと壊れてんだよ。
昔、みんなでヴェルケーロにいた時は家族や国民のために頑張ってる子だってくらいだったけど、最近疲れてきたのかちょっとおかしいんだよね。やっぱり働き過ぎはよくないな。
働き方改革だ。週休5日。
おしごとは週2日にしよう。うーん、素晴らしいな。
「えーっと、週休5日…じゃなくて。俺が死んじゃってからどんな感じだったか教えてくんない?」
「では…カイト様が亡くなられた、おそらくその瞬間からヴェルケーロの住人は全員力が少し失われました。それについてはカイト様の加護が無くなったからだと解る者には解りました。その時の弱体化は人族も魔族も関係ありませんでした」
うん、それはたぶん俺のギフトの影響だ。
解る者には解った、の所にやや引っかかるが。
俺のギフトは俺と、配下の皆に強化を与える。
領地が増え、収入が増えるほど本人も配下も強くなるという…まあチートだな。
長く生き残って領土が広くなるほど効果が高くなるチートだ。
だからゲームじゃ序盤ですぐ退場するような酷い状態になったとも言えるが。
「ふむ。それで?」
「それで、『神』を僭称する愚か者が召喚されたと『天の声』が聞こえた時、魔族の皆は弱体化し、人族は戦士も平民も力が強くなりました。でもそれだけです。特におかしな行動をとったりは…あ、一人新入りの商人が『神の声が聞こえたー!』とか言って近くの魔族に襲い掛かりました」
「ええ?大丈夫だったのソレ」
「その時近くに居たのはベロザさんでしたから…食べていたうどんがひっくり返っただけでした」
「それは…ベロザは怒っただろうな。いや、泣いたか?」
食い物の恨みは怖い。
食べかけのうどんをひっくり返されたら悲しむか怒るか、そのどちらかしかないのだ。