高効率
ドレーヌ公爵領はてんやわんやでひっくり返っている。
領主が怪我しているから、という訳ではない。
あのオッサンは元々何もしてなかったからな。
俺と偶に会う事が有るが、ラーメンの次はカレーだとか言って香辛料を作っている話を聞いたりするだけで政治的な話や軍事の話をしたことがない。
それにしてもラーメン沼の次はカレー沼か。
カレーだって底なし沼だ。
ベースとなるソースも何種類もあるし、具材だってこだわり始めるとキリが無い。
ラーメンの鶏がらスープがちょっと余った時に試しにカレーとやらを作ってみようで始めたようだが…そこから完全に沼にハマったようだ。
そしてカレーには米、とばかりに米づくりにも興味を示してシュゲイムと仲良くなったり、南方の香辛料を輸入するからって商人と交渉しているうちに仲良くなって一緒に香辛料を品種改良しようと育て…
くっ、このコミュ強め。爆発しろ!
…という訳で?難民キャンプにはカレーの香りが充満している。
つーか鉄道があるんだからドレーヌ領の外なんて中途半端なところに居ないで、もっと後方に下がればいいのに。と思ったけどアークトゥルス城も戦場になってるし大魔王城には山があっていけないから…ここら辺くらいしかないのか。
しょうがないな。
避難には鉄道を使ったので敵軍は置いてけぼりに出来たはず。
それに、火計が上手くいってればかなりの大軍を倒せたはずだし糧食も奪えただろうと。
そんなこんなでドレーヌ領の外側に大急ぎで防衛のために壁を建設している。
壁を作るのは避難してきたヴェルケーロの民が中心となって…こいつらは何故か壁作り慣れてるからな。
毎年、借り入れが終わってから本格的な冬が来る前に壁を作るという良く解らん作業を繰り返しているのだ。
「ちょっと戦場跡見てくる。アカ、行くぞ」
「カイト様!お供します!」
「俺も」「私も!」「僕も!」
という訳で飛竜隊と一緒にヴェルケーロの様子を見に行くことになった。
すぐ近くまで来なくても、焦げ臭いにおいが漂ってきた。
油の混じったようなにおいだけど…肉の焼けたような、毛の焼けたような…嫌なにおいも混じっている。
「うわあ、こりゃあ酷いな」
「臭いぞ」
「うーん、此処をまたきれいにして整備して…うーん…」
街は奇麗さっぱり燃えてしまった。
焼け残っているのは壁の他には大浴場と鍛冶場と窯くらいか。
後は殆ど木造だからな…やっぱりどう考えても火事に弱いんだよな。
耐火性が高いとか言っても所詮は木材だ。
限度があるわ。
もう全部埋めて新しく立て直した方が早いんじゃないかってくらいあちこち焦げたり焼け落ちたりだ。
元々山ばっかりで木がいっぱいあった事。
俺の魔法のせいで?おかげで?木がほぼ幾らでもと言った状態で使い放題であった事。
土属性の魔法使いは壁やら堀やら採掘やらが忙しくて家にまで手が回らなかった事…などから、ヴェルケーロは昔の日本家屋のように木造がいっぱいだった。
耐火性、耐水性がどうしても必要なところ以外はほぼ全部木造家屋だったからなあ。
これが自分たちで火をつけたから火計ワッショイだが、忍び込んで火を付けられる側だったとしたら…恐ろしいな。
何時か考えたアカが寝ゲップしてブレス誤爆した場合にも大変なことになっただろう。
危ない所だった。
町の跡地を通り過ぎ、少し行くとテントが見えた。
外壁のさらに外部分だ。
また壁に囲まれたところで火でもつけられたら困るから後方にキャンプしているのかな。
テントの数は大した数じゃないが…
「カイト様、前方に敵影」
「お…グリフォンか。んー?あいつグロードじゃないか?」
前から来るのは大鷲と天馬の混成部隊だ。
とは言え…後ろに居る天馬部隊はともかくとして一番前に居るグロードにはそれほど敵意は感じられない。
「ようグロード。久しぶりだな。どうだ?このクソみたいな殺し合いの螺旋は?」
「最悪だよ」
「そーだろ。俺なんて飢饉でみんなが食うモンないから困ると思って走り回ってたら暗殺されちゃったんだぜ。ハハッ」
「フフ…。いや、スマン。怒るなお嬢ちゃん」
「あー、ゴメンなリリー。怒らなくていいからな。コイツとは軽い知り合いだ」
後でリリーが怒っているのを感じる。
俺が殺されたって所を嗤ったように見えたのかもしれない。
「…お前が言っていたことは分かったよ。確かに魔族が何かして、それで戦争を仕掛けてきているってワケじゃあなさそうだ。まあ、それを調べたばっかりに俺は教会の中じゃ浮いてるがな」
「勇者なのに浮いてんのか?いいザマだ…とも言えんがな。俺だって慕う者もいればそうでも無いのも居る。そういう自由があるのが人間で個性だと思うがな…お前の足元の軍はどうだ?」
「ヘッ。生き返ったばっかりなのによく知ってるな。それがおかしなことによ、妙に浮かれちまって…頭のおかしな奴ばっかりだぜ。味方がバンバン頭吹っ飛んでんのに嬉しそうに笑って突撃しやがって。変に士気も高いし、と思ったら武芸は素人みたいなモンだし。昔会った事のある、良い技持ってた奴なんかもトチ狂ったみたいに突撃ばっかりだったしよ…」
「ふむ」
「挙句にあの見るからに怪しい藁いっぱいの町に何の躊躇もなく乗り込んで、毒見もせずにおいてある酒パカパカ飲んで寝てるところに火攻めだ。どうにかなっちまってんじゃねえのか」
『毒見も無しで酒を飲むなら火攻めじゃなくて毒殺で良かったか…』なんて後ろで呟いているリリーが少し怖い。恐らくだけどこれが神の力の一端なのだ。
魔族の力を下げ、人族の力を上げる。
そしてその上で一般兵から恐怖を取り去り、弱体化した魔族に突っ込ませる。
効率の良い攻めが出来るだろう。
味方の兵の命など屁とも思っていない…クソみたいな効率の良さだ。
ゲーム的に言うと戦力が上がって士気が限界突破して、ってことを考えたのです。
士気が限界突破したらどうなるだろうと思ったらたどり着いたところが全軍総死兵化でした。なんかおかしいとは思ったけど書き始めるとまあこれでいいかと…