閑話 リリー戦記⑤
誤字脱字報告ありがとうございます。
皆さんの校正を頼りに投稿しております!?
「カイトのにおいがする!」
防衛を続けてもう何日が経っただろう。
武器弾薬も尽き、食料にも困るようになってきた時、アカ殿は突然そう言った。
そして、居ても立っても居られないといった風情で突然大魔王城の方へと飛んで行ってしまった。
突然のことに敵味方問わずぽかんとしていると、私の体に力が漲るのが分かった。
『眼』を凝らせば大魔王城の方から力が流れてきているのが視える。
この暖かでいい香りのする魔力は、カイト様だ。
カイト様が復活されたのだ。
アカ殿が去ってしまい、活気付く敵軍。
特に空軍は嬉しそうに飛び回っている。
その飛び回る空軍の中にグロード率いる部隊は居ない。
居ないを幸いと、私は溢れる力で敵の天馬兵を打ち落とす。
カイト様の復活により力を取り戻した我らに適うまい。
そう思って戦ったが、そのすぐ後に砲弾により内壁の門が破られた。
もはや時間の問題か。
力が増したところで総数が違いすぎたのだ。
門の内側には石を積んであるが、最早どうしようもあるまい…
ヴェルケーロの町を放棄することが決まったのはその直後だった。
というか、何日も前からどこの門が破られたら撤退する。ここの壁が破られた時は粘る、と相談をしていた。そして破られた門は撤退の方向で決まっていた門だ。
一番広く、頑丈な門だが…逆にそこが破られると一番穴が大きい事になる。
なのでどうにもならないだろうと判断した部分だ。
勿論、タダでは呉れてやらん。
火計を仕掛ける、すでに準備は完了していると聞いていた。
どういう風にするかは良く解らない。
ゴンゾさんがカイト様に言われた研究の中に燃える水についての研究がある。
それと火薬とをうまく組み合わせてヴェルケーロの内壁そのものを大きな檻にし…中にいる物を皆焼き尽くしてしまうと言うのだ。
そんな事をすると町が破壊されつくしてしまうという反対意見もでたが、どうせこのまま陥落され、全員で逃げても町はグチャグチャにされてしまうのだから焼いてしまった方がマシだろうと…
兵の疲労はもう限界。死者、重傷者は数え切れないほどになってしまった。
カイト様がこの状況をご覧になればどう思われるだろう。
胸が痛い。
火計については私は詳しくない。
ゴンゾさんによると、嘗てカイト様の世界で行われた火計だそうだ。
これは初期に学校の授業で教えられたそうである。
その頃は講師がカイト様だったそうだ。羨ましい。
私達移住してきたエルトリッヒの者たちは村の、田んぼの開拓に必死になっていた頃だと思うが…
この火計ではかつてカイト様がいた国のお隣の国で行われたそうだが、その内容が酷い。
恐ろしい事に自らの街をからっぽにして敵兵を招き入れ、そして油断させたところで一人残らず焼き払うのだ。
一体カイト様の世界でコーメイ?という方はどんな酷い目に遭ってこの恐ろしい計略を考え付いたのだろう。同情に堪えない。
この計略について私や義兄は知らなかったが、ゴンゾさんやベロザさんたちヴェルケーロの町に初期から居た者たちは普通に知っていた。
それだけに罠を作るのも随分と捗った。
話し合いの次の日には準備が始まり。
その次の日には準備が整って町を放棄することになった。
その日は門前で激しく抵抗し、夜になると篝火を付けたまま後方から静かに脱出する。
そして次の朝攻めに来た敵軍が無人の町に入り。
残していた酒や食料でお祭り騒ぎになったその夜…飛竜隊が門の所にユグドラシルへ続く山道の地下から湧き出す臭い油を満タンにした壺を門と言う門にバラ撒く。
そして上空から油と砂糖を混ぜてドロドロにした勿体ない液体をバラ撒いて火をつけるのだ。
何と勿体ない。
砂糖は高くて美味しいのに!
コッチじゃそう簡単に採れないのに!
だが、私にはよくわからないが砂糖を混ぜると良く火がついてなかなか消えないらしい。
ゲイン殿たちが建てた家々は殆どが木造であるが、質が良く、耐火性に優れている材木を選んである。
ので、たくさん藁を置いておいた。
よく晴れて乾燥してあったし、おまけにわざわざ干してあるのでベッドにちょうどいいだろう。
そして勿論着火にもちょうどいい。
夜間、上空からドロドロを撒いた後、着火したのは私の雷だ。
あまりに良い勢いだったので炎上せずに藁が全部飛んでいかないか心配になったが、油を含んだ藁は地面や建物に落ちると激しく燃え上がった。
アカ殿がこの光景を見ると嬉しそうにポンポンとブレスを追加しそうだなと思った。
斯くしてヴェルケーロは炎に包まれた。
町に入っていた者たちはどのくらい生き残れるだろう。
我々の都をわざわざ燃やすのだ。
出来れば全滅に近い状態になって欲しいものだ。
同刻
勇者グロード
「クソッタレ!何て火だ!」
爆発的に広がる炎とネバネバと粘つくようにしつこく燃え上がる火。
2種類の火は町じゅうにある木に、藁に燃え移った。
やたら木の家が多いし、変なところに藁を干してあるし、おかしいとは思った。
ところが、兵も指揮官も何も気にならなかったらしい。
魔族共の飯など食えるか!と言いつつ置いてあった食料を喰って酒を飲み…この有様だ。
井戸水は枯れていなかったので水をかける者もいる。それから水魔法を試す者も居る。
だが、業火はとてもそんな物では収まらず…
俺は愛鷲に乗り、上空に逃れることしかできなかった。
上空は上空で訳の分からん気流が発生し、まるで竜巻のようになっている。
いや、実際に炎の竜巻が発生しているところもある。
「やってくれやがったな…」
「グロード殿!」
「おう、無事か。俺たちはこの気流に巻き込まれないように引こう」
溜まらず生き残りの天馬部隊と合流し、俺たち後退した。
地上は…地上の事はあまり考えたくない。
街の業火はすべてを燃やし尽くさんとしているようだ。
空を飛ぶ俺たちが見上げるほどの炎が吹き上がっているのだ。
「…これでは鎮火を待つしか方法はあるまい。おい、誰か若いの。連絡に行け。ヴェルケーロは陥落、だがこちらの被害は甚大…だ」
「ハッ!」
大きな町を焼き尽くす劫火。
そしていつの間にやら門の外に置かれた岩のおかげで城壁内に居る者は脱出も出来ない。
神の名をいくら叫んだところで。
人は所詮劫火の前では灰燼に等しいのだった。
本編では眼だけ登場したキャラ、リリー編は今日で終わりです。
感想お願いします。
横山三国志の『孔明 新野を焼く』を漫画で読んだときは小学生だったと思います。
コミカルに描かれていますが、町に閉じ込めて焼き尽くすなんて今考えるとなんてひどい…と思ったら演義だからで正史にはないのかよ!?ってオチで。
どうやって倒すんだこいつらと思いつつ、そうだ火計にしよう。火計と言えば公明が…って流れで思い出したので書いて、どうだったけと調べると正史では劉備が自陣を焼いて偽装撤退をして伏兵で叩いた、という流れのようで孔明は全く絡んでないと…まあいいんだけどね。
で、カイトはそんなこと知らないしググる事もできないので孔明パネエっすのまま教えました、という流れです。まあいいか。