魔薬
「カイト…」
師匠の亡骸を抱き、悲しみにくれる俺に誰も声をかけられない。
何時までそうしていただろう。
辛うじてアシュレイが声をかけてくる。
そうだな、いつまでもこうしていられるような状況ではないな…
「ザイール。師匠を頼む」
「ハッ」
「師匠は…師匠はいずれ俺が生き返らせる。だが、まずは戦争を終わらせよう」
どうなっているのかは分からない。
だが、現状を見ない事にはどうにもならんだろう。
そう思い、アシュレイと供に前線へ。
魔王城周辺の蒸気機関車は普通に稼働していた。
移動が速いだけで随分違うだろう。アカも小型に変形?変身?して一緒に汽車で移動だ。
そしてついてきているのはアカだけではない。
金色の虫が…ってかコイツさあ…
「所でアシュレイ?この間から居るこの虫。これ50層くらいのボスじゃなかったっけ?やたら強い奴。俺カブトムシ階苦手だったんだよなあ」
「ピピ!」
「ああ?お前アシュレイにテイムされたの?…まあよろしくな!」
「ピッ!」
「いやあ、お前らの階には苦労させられたよ。まあどっちかってーとソロで登る前の、アカと一緒に最初に登った時が一番苦労したけどな。」
「ピピ~ピッピピ…」
「おいおい、それを言うならオレもひどいめにあったぞ。」
50層初挑戦の時はひどい目にあった。
いや、そこよりちょい下のカブトムシが突然突っ込んでくるようになった階層で急に難易度が上がったんだよな。なんでいきなりってくらい急に…あの時はひどい目にあってアカと一緒に逃げ帰ったんだ。
いやあ懐かしい。
「なぜ普通にしゃべっているのだお前たちは…」
「ん?そういやそうだな」
「ピピ~」
そういえば俺虫語話せてるわ。
どうなってんだってばよ??
「私も最初の時は…いや、あまりそうでも無かったな」
「あーはい…」
出たよクソチート発言。
コイツ一人別ゲーやってるからな。
これだからチート野郎は困るってんだ。
「ま、まあアカが手伝ってたからな(ヒクヒク」
「そうだぞ。おれのおかげだぞ」
「うむ。アカにはたくさん助けてもらった。これからも頼むぞ」
「おー!まかせろ!」
「ピピ!」
「ああ、お前も頼りにしているぞ」
うんうん、仲良きことは善きかな。
でもあれ?気が付いたらアカはアシュレイの膝枕で喉をなでてもらってゴロゴロしている。まるで猫だ。
それはそうと…完全にあいつがご主人様みたいになってない…?
汽車の旅は続く。
幾ら歩くのより速い、と言っても蒸気機関車である。
前世で新幹線や飛行機で移動していた俺の目からはそう早く見えない。
アカから見てもそうだろう。
ただまあ、これから戦いになるかもって時にイラン体力使うのはアホらしい。
どうせ今まで何か月も前線放置して死んでいたのだ。まあ今更感はある。
それにしても何か身体が重い感がある。気のせいか?
「生き返ってから体が重い気がする。アシュレイは?」
「私も塔の中にいた時より少し重い気がするな。…大丈夫か?」
「何が?」
「マリラエールの事だ…その」
「薄々だけど、師匠がこうなるとは思っていた。隠してたけど体調悪そうだったし…どう見ても無理をしていたからな。お前が生き返る前も辛そうにしてたんだよな…」
「カイトの見てないところでよくセキしてたんだぞ」
「そうか…」
アカが口を挟む。
コイツは意外といろんな所を見てるからな。うーむ。
「俺の体が重いのは種が消えたからかと思ってたが、あれか?神が召喚されてなんちゃらのせいなのか?」
「分からんが、話を聞くとそのようだな。アカは何ともないのか?」
「おれ?なんともないぞ!今日は調子いいくらいだぞ!」
「そうなのか…」
ふむ。
つまりは人族にバフ、魔族にデバフがかかるとして…
アカのようなドラゴン、大きな括りだとモンスターには恐らく何の縛りも無い。
そして蒸気機関車のように機械類も影響を受けているようには思えない。
乗員はヴェルケーロの学校出身のやつだったのでそいつに聞くと、運行時間も速度も体感では特に変化が無いと。
蒸気機関車にはストップウオッチもスピードガンも無いから測る物は時計しかないが、大して変わらないようだ。何時の間にやら作られていた振り子時計、そして腕時計での確認作業である。
一応駅には壁に大きな振り子時計を付け、時刻表も作っているが…まあ大雑把で待ち時間も多いし、早く来たり遅れたりは日常茶飯事である。安全マージンはかなり取った時刻表にしてあるから少しくらい早くても問題は無いんだが、やっぱり出来るだけゆっくりにしてほしい。
線路に動物が来たりとかいろいろあるからなあ…
すこし遅れる分には、徒歩移動に比べりゃ全く比較にならないほど速いから文句は出ないんだ。
まだね。でもまあ日本のように何十秒遅れたら謝罪なんてのは馬鹿らしいと思う。
そんなことを考えていると。
「しかし、マリラエールの遺志を継ぐということは、いよいよ大魔王様だな」
「あ?誰が?」
「お前がだよ。大魔王様もそんな事言ってたぞ」
「聞いてないぞ…」
「そりゃあ死んでたからな。聞いてないだろ」
そりゃそうか。
でも最近大魔王様と何やかんやと話した気がするんだよな。
大魔王様と親父とロッソと、それと…おふ…おふくろ…?
うーん、アタマが…
「カイトはしんでたけど生きててテレビみてたぞ?オレもいっしょにみてた」
「はあ?」
「みてたぞ。カイトのかーちゃんがいっぱい話してたぞ。だいまおは色々言いたそうだったけどかーちゃんにおされて言えなかったぞ」
「あー…うん。俺もそんな夢見てた気がする」
「おれはゆめじゃなかったと思うけど…うーん、わからん。おれもいっしょにアシュレイのおうえんしてたんだぞ!」
アカが突然そんなことを言う。
そういや俺もそんな…夢?夢をみていたような。
父と母と、ロッソとそれに大魔王様や他のメンバーたちと…
だが主に母親が色々と話をしていて…ウッ…アタマガ…
「思い出そうとすると頭が痛い。お袋がアシュレイと戦ってたっけ?話してたような…どんな内容だったっけ…?」
「それは思い出さなくていい。私も忘れたい」
「そうか…?じゃあいいか?でも、うーん…痛たたた」
「ピピ!」
アシュレイのペットの金甲虫が俺の頭の上に鱗粉をバラ撒いた。
そうするとなんだか気分が楽になるような…何か急に気分が良く…!?
オラワクワクしてきたぞ!?
「痛みが消えた。ぱねえ。しかもなんかすごくスッキリする!」
「そうだ。痛みの吹っ飛んでいく粉だぞ!ウチのヴェールはすごいだろう!」
「うん。色々すごい(やばい)な」
痛みも、きっと眠気も疲労も吹っ飛んですごくハイになってなんだかとっても気持ちよ~くなれる魔法のクスリだ。アカン。これはアカン粉や。
鬼を消してはいけないのです…