帰還
アーク歴1509年 伍の月
大魔王城
「かえったぞ!」「…ただいまです」
「お帰り二人とも…ゴホ…ゴホ。…んんっ。アシュレイ、ご苦労だったな」
「いいえ。どうという事はありませんでした。マリラエール様」
アシュレイと一緒にアークトゥルス城に帰って来た。
死んでいるというのは不思議なものだ。
三途の川も、エンマ大王の所にもいかなかった。
いつ死んだかも覚えていないまま、気が付いたらアシュレイが隣にいて…死んでいたと聞かされたのだ。
それにしても、死んでる間に不思議な夢を見たような気がする。
アシュレイを今は亡き皆でワイワイと応援しながら楽しんでいたのだ。
そんな楽しい夢をみていたような…
まあそれはいいか。
気が付いたら俺は生き返ってて、久遠の塔の前で。
そうこうしてたらアカが迎えに来て俺とアシュレイはアカに乗って大魔王城に。
そしたら戦時体制?とかでめっちゃバタバタしてる。
どうやら俺は半年くらい死んでようで、その間に随分世界は変わってしまったようだ。
うーむ。
まるで浦島太郎だ。
アシュレイも同じような感じだったんだろうか。
いや、アシュレイはもっと期間が長い。
10年分くらい寝てたんだから俺よりもっと酷いか。
それなのにあっさり馴染んで妻になってくれている。
強さで言えばすでに俺を追い抜いて…くそう。ちょっと悔しい気もするな。
「ふむ…で、師匠。いまどうなってんの?」
「簡単に説明してやれ…ゴホ」
「ハッ、では私から。」
そう言って前に出て来たのは宝物庫に案内してくれたザイール。
この人財務系の官僚じゃなかったっけ?
「財務官僚というのは仮の姿で中身は諜報関係の者だ」
「よろしくお願いします」
「そうか。よろしく。」
「では説明を…」
ザイールの言う所では。
俺が死んだのはベラトリクス魔王領からユグドラシルへ向かった後。
ユグドラシル王国内で農作業をしている所だったと。
うんうん。凶作の所にイナゴがいっぱい来てどうにもならなくなったから各地を回ってたんだよな。
覚えてるよ。俺の中じゃつい昨日みたいなことだったからな。
「そこでカイト様のマジックバッグが発見されました。見つかったものはそれだけです」
で、俺が死んだ事となんとかの種が解放されて所持者が人間界の教皇、ヒエルナス・エル・ラ・アウラルアになったと。
そして人間界の神が召喚されたとか。おわっとるじゃん。
ゲームではエンディングがいくつかあった。
一つ目は一定以上の領地を支配すること。8割くらいだったかな?7割かな?わかんね。
二つ目は神を召喚し、願いをかなえる事。
三つ目はダンジョンを制覇して…どうなるんだったかな…?ダンジョンをクリアするとゲームクリアなんだよね。兎に角。
アシュレイでのプレイでは当然のように領地制覇からのいわゆる惣無事令クリアだった
ある程度以上支配したら後は消化試合だからな。
ゲーム開始時のチュートリアルではあと2つのクリアについても一応触れられてたと思う。
神を召喚するのはよく分からなかったから無視してた。
ダンジョン制覇はそのうちやっとけばいいかなと思ってたんだが…100層は90層ソロクリア出来るくらいの奴らでパーティーを組んで、それで何とかようやくってくらいの鬼畜ダンジョンらしい。
で、100階層で失敗したら死ぬとか?
アホかっての。そこまでやったのに失敗したらゲームオーバーとかさあ、もうさあ…
まあそれはいいか。
「それで、神とやらは見たのか?」
「良く解りませぬ。直接は我等でも見たことはありませぬが…神が召喚された、と脳に響いてから魔族の戦士と人族の兵士にあった力の差が殆どなくなりました。武器も錆びた槍が聖剣のごとく我らに襲い掛かってくるようになり…魔法の威力も我らと大差ないか上回るほどにて。おまけに数が…」
「で、ジリ貧という訳か。」
「ハッ…」
「参ったものだな。私がダンジョンに行っている間にこんな事になるとは」
「ホントだな。俺生き返らせてる暇なんかなかったんじゃないか?ハハッ」
俺が軽口を言うとアシュレイはこちらをキッと睨んだ。
「…二度とそんなことを言うな」
「すまん」
違う。
睨んだのではなかった。
アシュレイは泣きそうな顔をしていたのだ。
やっと主人公が復活。
アシュレイ主人公のままの方がいいんじゃないか説はあります