幕間 その頃舞台裏では②
「ううむ…これは戦いと呼ぶべきか?」
「これを戦いとするならどうみても義母の方が優勢だがな。見ろあのアシュレイの疲れた顔を」
「応援する方も死んでおりますな…」
母上とアシュレイの戦いは酷いものだった。
というか戦い?はまだ続いている。
アシュレイは母上に押されて何もできない。
いや、何もできないという事は無いか。
適当に手を抜いて戦いながら話す。
あくまでメインはお話である。
その中でアシュレイは、『ハイ』と『はぁ』と『そうですね』の3種類を繰り返すマシーンになっているのだ。戦いに集中したいけどそうもさせてくれないというところか。
まさか夜のアレを義理の母親に見られていたとはもう集中なんかできるわけない。
羞恥どころの騒ぎではないのだ。
さらに俺の応援までしていたらしい。俺も死にそう。
というか、普通そこは気を効かせてみないようにするべきだと思うの!
生きてても同居してても、見てみぬ振りしないと!
「百歩譲って観てても見てなかった体にするべきじゃないのか…」
「ううむ…なんというか、表現に困る」
「と言うかここでどうやってそういうの見るんですか?」
「この不思議なテレビは誰も塔に挑戦していない場合は下界の様子も映すのだ。時の実力者たちの様子を見ることが出来る。先日までは大魔王様がイヤイヤ執務をしている姿ばかりが「おい!リヒタールの!」…失礼」
親父の説明にうんうん、と頷いていた大魔王様だが、『イヤイヤ執務をしている姿ばかり…』の下りはさすがに不味かったらしい。
「これは失礼した。ゴホン、大魔王様存命のうちは殆どは大魔王様が頑張っておられる姿が中心であったがな。時にはお前も映っていたぞ」
「へー。チャンネル変えたりとかは出来ないの?」
「出来ん。固定された映像と音声だけだ。妻はお前が偶に映ると物凄い勢いで奇声を上げ…もとい、大きな声で応援していた」
ああ、何か想像できる。
色々勘弁してほしい。
「儂が死んでこっちに来てからは各国の者が映っていたがな。覇王の種を手に入れてからはお主が中心となった。それが、お主が死んでからは教皇が中心になったのだよ」
「で、今アシュレイが挑戦しているからアシュレイばっかりって事なんですか?」
「塔に単独で挑むものがあれば其の者ばかりを映すようになる。お主の時も映っていたぞ。両親やロッソが応援して…うるさかったものだ」
「「申し訳ありません…」」
親父とロッソが一緒に謝っている。
そういや二人とは塔で戦った。ロッソはアシュレイとも戦ったのだ。
「話が変わりますが、俺の時は親父とロッソと戦いましたよね?で、アシュレイの時はロッソと伯父上と母上でしょう?これどういう基準で相手が選ばれてるんですか?」
「さあ?登っている者に縁が近い物が選ばれるようだが…儂にも分からん」
「僕の場合は呼ばれるかなと思ったけどね。カイトの時もガンドルフだったし」
「むしろ呼ばれなかったら笑うか同情するかで悩むところだったな。ガハハ!」
「ハハハ…」
引きつる伯父上の顔。
親父の渾身の冗談は全く笑えなかった。
死別した自分の娘と対面出来る機会がすぐそこまで来てて、アッサリとスルーしたらどうだったろう。
悲しいとかつらいとか、そういう次元だろうか。
アシュレイだって次は父上に会える!と思って進んできたのに知らないオッサンだったら…
まあ知らないオッサンでも知ってるオッサンだったとしても、どっちもお互い気まずいだろうだけどな。
それはそれ、これはこれだ。
「ああ、時間切れか。長い戦い…戦い?だったな?」
誰が言ったか。
時間切れを知らせるブザーが鳴り響く。
テレビの向こうで母上が『私の負けでーす』と言っている。
それを受けてかどうかは分からないが、決着がついた判定になったか。母上はさらさらと砂になっているようだ。
「これ、時間切れになるとどうなるのですか?」
「儂も見たことがないが…80層以上だと大概守護者の方が時間前に負けを認めて終わる。知り合いのケースが多いからな…70層以下だと出直しだ。ただ、あまりにも真面目に戦わないと強制的に戦わされるのだ。その場合は事故が起きやすいから適度に戦うことが多い」
「はあ」
「今回は強制的に戦わされないようにするため適度に戦っていたのだろうな…まあ儂は思いっきり暴れてお前に負けたわけだが。ガハハ」
「そこは手抜いてくれよ。かわいい姪の命がかかってたんだぞ」
アシュレイが生き返るかどうかだったんだから、そこは手を抜いてくれてもいいだろうに。
じとりとみている叔父上が何とも言えない気分にさせてくれる一幕だった。