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アシュレイ戦記⑧


久遠の塔 80層



ついに訪れた80層。

カイトはここで大事な人に再会したらしい。

戦いの様子はあまり教えてもらえないが、激しい戦いだったようだ。

言葉少なに語ったカイトから激戦を感じた。


カイトやマリラエール様、母上に…そしてロッソに聞いた話を総合すると、私の場合は父上が現れるのではないかと思う。だが、それなら父上は蘇生することが出来ないという事に…意味が分からぬ。

なぜそういう風な構造になったのだろうか。


「たのもー!」


考えていても仕方がない。

扉を壊すほどの勢いで開け放つ。


「もう少し大人しく入って来なさい…それではレディに成れないよ」

「かも知れませんがカイトの妻にはなりました」

「おお、そうだったね…父親としては嬉しいような悲しいような」

「喜んでくださいよ父上」

「ううむ…おめでとう、アシュレイ」

「ありがとうございます」


逡巡の後に不承不承、という形でお祝いの言葉を貰った。

まあ仕方ない。父上の中では私はまだまだ小さな子供なのだろう。

まあ、私もすこ~し早かったかなとは思う。

魔族の結婚は人族より少し遅いのが普通だ。

30歳以降が適齢期になるだろう。そう思うと…


「やはり、少し早いですかね?」

「そう思うがな。カイト君だって…彼はエルフの血が濃く出ているからまだまだ成長期だろう?」

「そうですね。何年も私より年上の筈なのですがまだ背は同じくらいです」


カイトはいま幾つになったのだったか。

えーと…20歳は過ぎているのかな?死んでいなければ25歳くらいか?私は27歳になっているはずだ。途中で何年か抜けているから…


「まあ元気でやっているなら良かった」

「元気じゃあありませんよ。私が死んだと思ったら次はカイトが死んじゃったのですよ?」

「そうだがね。私としては娘の顔を見れただけで満足さ。出来れば孫の顔も見たかったが」

「それは…父上を蹴散らしてから母上に見せるとしましょう」

「ハハッ。そりゃいい。さあ、来たまえ。魔王の力を存分に見せてやろう」

「参ります!」


ロッソの時とやることは同じだ。

突き、払い、叩きつける。

父上はそれを受け、躱し、そして反撃をしてくる。

その一撃一撃が速く、重い。巨人族のロッソよりはさすがに劣るが、何というかズシリと来る。


そして、攻撃の種類が実に多彩だ。

持っている剣を使って斬り、突き、そして槍を奪おうと、あるいは槍を切断しようとする。

そしてそれを防ごうと思えば素手での突きや投げ。

かと思えば魔法攻撃に魔法によるフェイント…


さすがは父上。

なんと言うか総合力が高い。

ロッソは殆ど魔力を使わず、体術で戦っていた。

それはいい。あれほど高いレベルの体術は他に見たことがない程だ。

パワーと技術の融合、それも素晴らしく高いレベルで。


だが父上は違う。

躱し、逸らし、そして受け止めざるを得ないような場合は魔力の盾(マジックシールド)を使う。

そして私の隙をついて剣を、魔法を自在に操る。

しかし基本は受けだ。

上手く捌いてからの反撃というパターンが多い気がするが。


「アシュレイ、私は所詮幻だ。手加減なんてしなくても良いのだよ?」

「…それは私の台詞ではありませんか?…父上は剣士なのでしょう?もっと攻撃的なのだと思いましたが」

「うーん、それはどうかな。僕らのパーティーでは、僕は剣士、ガンドルフが盾役、妻たちが弓と回復を…という事になっていたけど」

「そうですね」

「ガンドルフが大人しく盾役ばかりしていたと思うかい?あの妻たちが後ろで大人しく弓やヒーラーをやっていたとでも?」

「…そうですね」


とても思えない。

カイトだってやたらと前に出たがっていた。

あの弱い頃でもだ。

それが、あの叔父上や母上が…叔母上だけは大人しい方だったと信じたいが…

私はうっすらと伯母上の記憶がある。

カイトを妊娠している時は実に優しそうな顔をしていたものだ。

あの方は戦いになってもまるで聖母のように…「そうではないよ」


「…ですか。」

「そもそも、大人しい姫君ならユグドラシルで大人しくしていただろう?あ、ママには言わないでね」

「どうしましょうか?ふふっ」

「おいおい…全く、悪い子にはお仕置きが必要だな」

「では、悪い父上にもお仕置きを致しましょう」


そうしてまた戦いは再開する。

不思議な事に私は父上と肩を並べるほどの強さを得ていたようだ。

ロッソといい父上といい、何やら身体が大きくなっている気がするが…そういう秘術でもあるのだろうか。出来れば私にもその術を教えてもらいたい。カイトも背が小さいと悩んでいたからな。まあ、今は私と同じかやや大きいくらいで…凛々しくなっていると思う。


「隙あり!」

「ぐっ!」


戦っている最中にカイトの事を思い出し、思わず気が弛んだようだ。

その隙を突かれ、斬られる。

皮一枚で危うく避けるも、追撃の回し蹴りはまともに喰らってしまった。

ボキリと音が鳴る。折れたか?


「うぐぐ…いたたた」

「おっと、大丈夫かい?アシュレイ」

「はい。どういう訳か傷はすぐに治ります」


シュワシュワと泡をたてるように回復する頬の傷。

胴に喰らった蹴りも同じようにすぐに何事も無くなる。

もう骨もくっついたかな?


何時の頃からだろうか。

ある程度レベルが上がった所で私は少々傷を負っても何ともなくなった。

その次には多少の事では傷を負わなくなったが…


「カイトが言うには私は『クソチート野郎』だそうです」

「何だそのクソチートとは?野郎は男を指す言葉だから誤用だというのは分かるが」

「とんでもないズルをしているくらい強い…らしいですよ」

「ほう?まあ確かにそうだとは思うがな。まだレベルは1000も行っていないだろう?それで巨人化して強化されている私と互角だからな」


レベル?私はいま630ほどだ。1000などまだまだ先ではないか。

それに…巨人化?とは?


「まさか気付いていなかったのかい?パパは何だか大きいなーとか思わなかった?ロッソ君の時は?」

「ロッソは元々大きかったではありませんか」

「いやそうだけど…パパは?」

「父上は偉大です」

「んふっ!?」


思ったままを言うと父上は変な声を出した。

そして照れたように頭をポリポリと掻いた。そんなにおかしなことを言ったか?


「えーと…父上は元々大きかったです?」

「あー…分かった分かった。帰ったら父上が褒めていたとでも言いなさい」

「はい???」


父上は恥ずかしそうにしている。

何だかおかしな空気になってしまった。


「続きを参ります」

「来い!」


突き、払い、薙ぐ。

父上の方は相変わらずのカウンター狙いだ。

カウンターに対して恐れて縮こまってはいけない。

大胆に、繊細に。


「そこっ!」


素早く突き、素早く戻す。

蝶のように舞い、蜂のように刺すとはカイトの言葉だ。

今のところどちらかというと父上がそれを実践し、私はイノシシのように向かっているが…あの動きを真似ればよいのだ。


真似をしてみよう。

そう思うと、すぐに似た動きができるようになった。

昔から、そういうつもりで見るとすぐ真似をできる。


すぐに似たスタイルの魔剣士と魔槍使いが戦うような状況になった。

そうなると私の方がリーチも長く、力も強い。劣るのは魔力だけだ。


「グッ…まだまだ!」

「ハッ!せやあっ!スパイラルピアース!」

「ぐっ!シールドッ!」

「貫けぇっ!」


素早い突きが左腕を薄くとらえ、戻したところで強力な突きでマジックシールドを貫く。

槍は剣を叩き落とし、素手になった父上に槍を向ける。


「まだまだ…といいたいところだが、こうなったか…まあ良い。」

「父上!?」


サラサラと足元や指先が砂に変わっていく父上。

何故。

まだ戦っている途中だというのに!まだまだ二人とも楽しんでいたところなのに!


「ふう。是非もない。…アシュレイ。今の私とほぼ互角なら魔王をやっていた私より強いという事だ」

「はい…?」

「まあいい。カイトはココでは多分蘇れない。…90層を攻略しなさい。そうすれば恐らく復活できる。駄目なら100層だ」

「100層ですか…」

「そうだ。そこの金色の虫に聞きなさい。ヴェールだったかな?」

「ピッ!」


隅に隠れていたヴェールが私たちの前に来て返事をしている。

こ奴も階層ボスだったと思うのだが…ペットとしての役割以外に何が出来るのだろう。

父上はこ奴に聞けと言っているが…


「アシュレイをよく補佐してやってほしい。」

「ピピ!」

「アシュレイは困った時にはそこのヴェール君に尋ねるように。これでも塔を束ねし者の一柱だ。『久遠の塔』のシステムについてはそこらのだれよりも詳しいのだ」

「ピッ!」


むふーん、と鼻息が洩れそうなほど胸を張っている。

だが所詮は虫。

体の真ん中ら辺にある神経節をブスッとしたら倒せるはず。


つまり胸を張るというのはは弱点をさらけ出す行為だ。お勧めできない。

カイトが何かの本で読んだと言っていた知識だからアテにならないかもしれんが。


私の視線を受けてヴェールは胸を庇うように後ろへ去った。

やらないって。ちょっと押してみようかと思っただけだ。


「ふむ、ではさらばだ。ヴェールくん、後は宜しく」

「ピッ!」

「では父上、いずれまたお逢いしましょう」

「ああ、楽しみにしておく…」


こうして父上は砂になった。

ロッソの時と同じく一掴みをバッグに入れた。


そうこうしているうちに私の前には3種類の宝珠が現れた。


「ピピッ!」

「ん?こちらへ来いというのか。あの宝珠は?」

「ピッ!」


だがそれをスルーして次の階層に進むように促すヴェール。


「あれを取ってはならんのか?」

「ピピ~」


ふむ、ダメらしい。

私の時はここで生き返ったらしいが、カイトを復活させるにはここで宝珠の取得は禁止なのだと…ルールが良く解らないな。


「まあ良い、進もう」

「ピッ!」


こうして私たちは父の元を去り。

81層へと進むのだった。

カイトの時とは違う理由は後述…の予定です。

何時になるかはやや未定ですが。

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