閑話 そのころ人間界は③
突然の閑話。タイミング的にこのあたりかな~と。
アーク歴1509年 壱の月
エラキス教国領
スラサム・ガエル枢機卿の手記
壱の月壱拾伍日
ようやくだ。ようやくこの時が来た。
人間界の過半を我ら教国が占拠した。
そして集めた聖神様の魂の欠片、それに魔界に盗まれた魂の欠片を教皇様御自らが集められたのだ。
教皇様は次代の大魔王と呼ばれているカイト・リヒタールを討ち取り、先日魔界より帰還された。
魔王の元に赴き、自らの手で魔王を討つ。
まるで物語の勇者のようではないか。
初代勇者様とてこのような偉業は為されなかったはずだ。
この快挙に教国は当然、人間界全土で狂乱のような歓喜の嵐が巻き起こった。
そして歓喜はまだ終わらない。
教皇様が今度は『神』を降臨させると仰るのだ。
その儀式のために使われる部屋は『聖書の間』に決定した。
歴代教皇のみが入ることのできる部屋である。
教皇様の多くはこの部屋で一日を過ごされるという部屋。
落ち着いた環境で神と会話したい、と仰せられた。
今日一日かけ、我らの多くが部屋の清掃をお手伝いさせていただいた。
明日は我らが記念すべき日となるであろう。
壱の月壱拾陸日
「それでは私は神の元に参ります」
との言葉を言い残して教皇様が『聖書の間』に籠られて数刻のことだ。
<ヒエルナス・エル・ラ・アウラルアにより『聖神・ソラナム』が召喚されました>
突然頭の中に大魔王が死んだときと同じような『天の声』が聞こえた。
勿論、私だけではない。
聖職者たる同僚も、政治家も軍人も…市井の商人や農民にまでその声は聞こえたという。
そして再び巻き上がる歓喜の渦。
神により与えられる祝福。
我等はその栄誉に与ることができたのだ。
その一方で栄誉に与ることのできなかったものもいる。
どうやら先祖を調べると魔族との混血のようだ。
其の家の者どもはあるいは処刑され、教国から追放された。
小さな子供もいるというのに…
壱の月壱拾漆日
奇跡だ。我らは神の奇跡を目にしている。
教皇様は召喚の翌日、『聖書の間』を出られた。
その後ろには…そう、まさに神の後光を纏われていた。
神と一体化された現人神となられたことが我らにも分かったのだ。
そして、聖神様が顕現されて後。人間界は大きな変化が訪れている。
一番わかりやすいのは住人たちに起こった変化だ。
体調の悪い者も、病の者も起き上がり。
さらに健康な者はまた一段と力強く、魔力も迸る程になった。
まだ日が浅いのではっきりしないが、作物にも良い影響がありそうだ。
私の趣味で作っている草花や野菜も元気になっているように見える。
そして、さらには研究用奴隷として捕らえてある魔族の動きが鈍くなった。
成程。
聖神は我らに加護を、そして悪魔共に対する呪詛を齎すのか。
これなら私でも魔族相手に1対1で勝てるのではないか。
それほどの力を得ることができたのだ。
壱の月弐拾参日
勝てる。
今度こそ…今度こそ、穢れた魔族共を皆殺しにし、神の祝福に満ちた清浄なる世界を手に入れる。
そして我らが神こそがこの世界でただ一つの正しき神だという事を愚かな魔族共に知らしめる!
奴隷の魔族と戦った。
人族の得意とする集団での戦法、そして教会に伝わる封印術。
それらのあらゆるものを解除した、素の状態の魔族の戦士と私が戦ってみた。
私とて元は教会の戦士、そして今は修道士としての技術を修め、今も時折ダンジョンに潜り修行を続けている。
正直、始まるまでは勝てる自信はなかった。
だが、戦い始めてみると…何やらものすごい昂揚感が生まれた。
そして、実際の戦闘でも魔族の戦士を相手に五分の戦い、いや…私の方がやや優勢だっタと思う。
そして殺した。
魔族の戦士をコロしたのだ。
このわたシが。このワた、わタ死が。
壱の月弐拾玖日
侵攻の準備が整ッた。
今度こそ、我らが勝ツ
我ラが神を 神こソを崇め 魔族を殺す
皆殺しにする
魔族共を殺すのだ
魔族ノ男を、女を殺す
魔族の若者を,老人ヲ殺す
コドもヲ、赤子デあろうトも殺ス
ミナゴロシにするのダ