アシュレイ戦記④
50層台は特に苦労することは無かった。
アカと以前に通った時もここは格別苦労することもなく、所謂レベル上げポイントとして使用していたのだ。『らくしょーだらくしょー!』とアカが言っていたのが耳に残っている程度である。
それにしてもアカという名前はどうにかならなかったのか。
私ならもっとカッコいい名前を付けるが…。
そう思って後ろを見る。
金色の甲虫はやはり着いて来ている。
うむ、こ奴に名前を付けるとすると…
「ヴェール?」
「ギッ!」
ヴェールとは宵闇の時間、明るく空に輝く星の名前だ。
甲虫の輝きから連想してぽつりとつぶやいた言葉に対し、金色の甲虫は分かりました!とばかりに鳴き。
その輝きを強くした。
「あ…いや。あー…、うむ。よろしく頼むヴェール」
「ギ…ピピッ!」
どこで声を出しているのかは分からないが可愛い声になった。
うむ、兎に角ペットにしてしまったようだ。参った。
さて、気を取り直して60層に挑もう。
60層のボスは何だったのだ?とカイトに聞いたことがあった。
あれはいつ聞いたのだったか…
「あっ!?」
「ピピッ?」
「ああ、いやなんでも無い。次の階層に居るのはまた特殊なボスなのだ。そう聞いたのを思い出しただけだ。そうそう。」
この階層の話は臥所で聞いたのだ。
思わず赤面してしまう。
私を生き返らせたときの話を聞いていてダンジョンの話も聞いたのだった。
肝心なところは喋れないとか言っていたが。
「ウ、ウム。では往こうか」
「ピッ!」
門を開けて中に入る。
そこにいたのは巨大な象だ。
いや、正しくは大きくて牙がある象だ。
牙があって大きいくらいしか通常ボスとの違いが私にはわからないともいえる。
そもそも、『象』というものをこのダンジョンに来るまで見たことがなかったのだ。
まあそれを言うとダンジョン内の不思議な生き物はほぼ全部初めて見たが。
カイトの世界には動物園といって、珍しい動物を集めて飼っているところがあるらしい。
見識を深めるためには悪くないと思うが、試しに戦っていいのかと聞くと誰もそんなことは考えないのだとか。
ふむ、ではなぜ態々飼うのか?見物人が沢山に来て金が取れる?不思議な仕事があるものだな…
おっと、ボス部屋に入るとやることがあった。
つい忘れていたわ。
「たのもーう!」
「ピピー!」
「パオオオン!?パ、パオ???」
「ピッ!ピピッ!」
「パオ…バオオン。パオオオオオオ!」
む…会話をしているな。
内容は良く解らないがやる気のようだ。
始めはやる気満々だったが、ヴェールを見て戸惑ったようなそぶりを見せ、そのあと二人?で何やら会話をして納得したらしい。
どうみても異種族だが、会話が成立するのか。
ボスモンスターとは随分知能が高いのだな。
60層のボス部屋に現れたモンスターは以前の物とはまず大きさが違う。
巨大な身体に巨大な牙、毛が幾分多い気がする。が、概ね同じような造形だ。
通常ボスである象?とでどこが違うのかは詳細には分からない。
分からないがまあ…
「立ち塞がるというのならば薙ぎ払うまで…参る!」
「バオオオ!」
小細工はしない。
氷の床を蹴り、直線的に攻撃を仕掛ける。
そんな私に対し、ボスは鼻を使って雪玉を飛ばしてくる。
だがなんと言う事は無い。
「ふん!」
鬼喰らいを振るい、雪玉を両断する。そしてそのまま接近し、
「でえええええい!」
頭に大剣を振り下ろす。
袈裟懸けに放った一撃はマンモスの左目から入り、鼻と右の牙を切断した。
「バ、バオオ…」
「すまんな」
その巨体がまず目に入ったが、よく見れば長い鼻も大きな耳も、毛に埋もれた瞳も愛らしい。
何やら申し訳ない事をした気がする。
「すまぬ」
「バオ…」
「ピッ…」
再度謝る。
先程の物とは違い、少し心が籠っていたように思う。
巨大なモンスターは少し嬉しそうにニヤリとした後、消え去った。
落ちていたのは巨大な槍だ。
奴の牙を彷彿とさせる、反りのある美しい白磁のような穂先である。
「槍か?いくら何でも大きすぎだが…」
カバンに入れようかと両手で抱えるように角を持つと、二回りほど縮んだ。
「ふむ、これなら重さも良いか」
ズシリと来る重量感。
槍というより矛、矛というよりは柄の長いハンマーに近いかも知れぬ。
「よし、しばらく使ってみよう。大剣をカバンにしまって…と」
少し不服そうな大剣とホッとしたような盾。
盾は次の相方である矛には満足のようだ。
「では参ろうか」
「ピピ!」
新しい武器を片手に61層へ。
さあ、サクサク進もう
カイト「あれ?俺が苦労したマンモス相手にあっさり?オマケに槍?あれ?」