アシュレイ戦記②
アーク歴1509年 壱の月
アークトゥルス魔王領
アシュレイ・アークトゥルス
私とアカはペアで95層まで到達していた。
90層のボスはまた人型だった。大きさはそれほどでもないが、とにかく強かった。
どことなく見たことのあるような顔だったが
それをカイトに言うと『そろそろネタ切れなんだな。まあ俺にはもう関係ねえけど』と言っていたものだ。あいつの言う事は意味が分からない事が多い。
さて、ソレはそうとして。
私はカイトを蘇らせる。その為に何としても80層を攻略しなければならない。
80層のボスは巨人だった。
アカがカイトと一緒に行った時は叔父上のような姿をしていたと言っていたが、私がアカとペアで80層に到達したときは父上のお姿をしていた。母上がベタ惚れだった父上の姿だ。懐かしかったが、動きは単調そのもので正直似ても似つかないものだった。
「よし…では行こうか。」
独り言つ。
久遠の塔にソロで登るのは初めてだ。
そもそもダンジョンに独りで入るのが初めてか。
そう考えると私は甘やかされていたのだな。
カイトが使っていたバッグはユグドラシルで回収されたので私が引き続き使っていく。
…死んだ、と天の声で言っていたらしいが、死体は回収されていない。
異変を感じたユグドラシルの兵が駆け付けた時にはマジックバッグのみがポツンと落ちていたそうだ。
それだけなら生死不明、というところだが『種』の継承者にはしっかりと声が聞こえていたらしい。
―――カイトが死に、エラキス教国の教皇がその『種』を継承したのだ、と。
そうして私はカイトの死を受け入れられずにここに来ている。
こんな覚悟の決まっていない状態でいいのだろうか。
良いも悪いも無い。
私が出来ることは…行けるところまで行く。それだけだ。
2週間待ってもカイトは帰ってこなかった。
今までいくら忙しそうにしていても2週間も帰ってこないという事は無かったのにだ。
次第に領民たちの中にもカイトが死んだと受け入れられているのだろうか。戸惑いを隠せない者が多いようだが。
私の心もカイトの死を受け入れる、かと思えばそうでも無い。まだまだ信じられない思いでいっぱいだ。
だが、そうも言ってはいられない。
「よし…」
この2週間、新調したマジックバッグの整理とカイトの分のマジックバッグも整理した。
両方持っていくことにしたが奴のバッグに入らないものが多すぎる。整理と準備でずいぶん時間を食ってしまった。
そして城の宝物庫から武器防具を調達した。
カイトのマジックバッグに入っていた防具もそのまま借りる。
龍皮のコートなんかはバッグに入っていなかったので使えないが、殆どの装備は中に入ったままだ。
まあ、95層までクリアした私の装備の方が高性能だったりもするが。
白龍帝のブーツの紐をしっかりと締める。
炎姫鎧を装備し、手には宝物庫で最も値段の高い宝剣、鬼喰らいを。左手には念のためにカイトの使っていた盾を固定してみる。どことなく剣と盾が嫌がっているような気もするが、まあ気のせいだろう。
ふん!と魔力を一度込めると素直になった気がする。
うん、上手く使えそうだ。
奴も片手で苦労していたからな…このよくわからないヒモが上手く腕と盾を固定してくれているので体験を両手持ちでも運用できる。
おまけに魔力を流すと思う方向に盾が大きくなったり小さくなったりする。
なかなか便利だな。この盾、私が貰ってもいいだろうか?
『上手くおねだりしたら上げる』なんて言い出しそうだ。
アイツは本当にそんな下らない事を言うのが好きで…くそ、思い出したら悲しくなって進めなくなるじゃないか。
「じゃあ行こうか」
「早くいきなさい!何なのさっきから!」
「おお!母上居たのですか!?」
「居るわよさっきから!早く行ってカイトを生き返らせてきなさい!分かったわね!」
「はい。では出発いたします」
いやあ怒られた。
そうだな、鏡に向かって装備のチェックを何回もしていたからな。
母上にも気付かずに。心配されても仕方ない。
アレが心配だったかはともかくとして。
「あ…あの、姉上」
「お、アフェリス。行ってくるからな!期待していろよ!」
「はい…姉上、か、カイトが80層で生き返らなくても、その、焦らないでくださいね。90層か、それより上で生き返る、はず。です。」
「そうなのか?じゃあ80層では強くしてもらおうかな。ぬっふっふ」
「ダメです。きっちり貯めておいてください…ではご武運を」
「おう!まかせておけ!」
貯める?妙なことをいう奴だ。
だがまあ、アイツの言う事は当たっているのだろう。恐らくあの言い方だと…私は下手をすれば100層を一人で攻略しなけらばならないだろうな。
カイトの盾は昔父親が使っていた魔人グラムルの盾、グラムルさんはカイトのご先祖様で鬼族です。
それに鬼喰らいの剣を合わせたので相性は最悪。
普通なら喧嘩をするところなのにアシュレイが『ギロッ』と睨んだらお互い仲良くなった…とそういうことです。