閑話 その頃人間界は②
少し短めです。
教国は世界地図の左側をほぼ全部制圧したということです。
アーク歴1508年 捌の月
エラキス教国領
スラサム・ガエル枢機卿
「勝ちました!我らの勝ちです!これで南大陸は全て抑えましたぞ!」
「やりましたな」「おお…!」「さすがは団長殿!」
どよめく室内。
伝令の報告によると第37回南大陸遠征師団は見事にやり遂げたようだ。
一昨年の敗戦後、幾人もの不良枢機卿や騎士団員を更迭、あるいは処刑した。
処刑の理由は何でもいい。
世に不正を全くしていない貴族などいないのだ。その事が良くわかるような処罰が続いた。
そして、贅肉が落ちすっかり軽くなった我が国の方針は教皇様が決めて下さった。
『戦力を増す魔界に対抗するにはまずは人間界を統一することだ』との教皇様の出された指針に従い各国を制圧して力を付けることにしたのだ。
まず手始めに、隣国であった帝国はその旨を伝達すると…彼らは驚くほどあっさりと我ら教国に降った。
続けて北にあるタラモル国は王が死に、混乱の渦中にあったのでであったのでこちらも簡単に配下にすることができた。。
そして昨年、火山の対応に追われるマーイョリスを平和的に併呑。
さらには今回、南大陸のアスピディスケとヒュドラェを。
残るは南大陸からさらに東方、クルキス諸島を超えた先にあるゾズマ王国と…自由同盟連合のみだ。
自由同盟連合には忌々しい魔族共が食料を渡しているという情報が入っている。
タラモル方面からちょっかいをかけているようだが、本格的な戦闘には至っていない。
教皇様は魔族どもの食糧支援を撒き餌だろうと仰る。
植えた民衆を支援するといった一見して『良きこと』の裏に、そこに住む人族を懐柔し、そして食料を奪いに来る『悪者』と戦わせようとする策だと。
餌を撒き、それに喰らいついた我等を同じ人間に襲い掛かる外道として倒すための策略だろうと。
脳がゴブリンの魔族共にそのような事を考えられるとは思えぬが、どうもカイト・リヒタールとやらは策謀に長けた人物のようだ。
女を使って勢力を拡大し、さらには職人共に新たな開発をさせているらしい。
完成するまで不眠不休で働かせるのだとか…恐ろしい事をするものだ。
我等はそのような事はしない。
教皇様はどこからか手に入れられた書物を基に今まで考えられなかった事を為された。
その書物には今までの常識では考えられない程の恐ろしい兵器や、一転して家庭の主婦が便利に使う道具などが記されている。
さらにはこの凶作を乗り切るための策まで…なんとすごい書物なのか。
これがもし、悍ましい魔族どもの手に渡ればどうなるか…そう考えるだけで身震いがする。
敵に渡れば恐ろしいが、味方に付ければこれほど頼りになる事は無い。
神への信仰心の篤い教皇様が使うとなればなおさらだ。
「南大陸を制圧した軍はそのまま現地を治め、早急に船を増産するように。ゾズマもこのまま制圧しましょう。それから、南大陸は恐らく凶作の影響は少ないでしょう。食料を出来るだけ手配してください。尤も、住民の不満が出ない程度にお願いしますよ。降伏した以上、彼らも私たちと同じく神の元に平等なのですからね」
「ハハッ!」
教皇様の発言にホウッ…とあちこちから息が漏れる。
やはり教皇様はお優しい。
並みの国家なら制圧した地方の事など食料庫か、あるいは新たの所有者の欲望を撒き散らかす便所として使用するだろう。
それを支配下におさめた者を同じ民だと。
何と素晴らしい。
やはりこの世界は神の元に統一されるべきだ。
そして魔族共を皆殺しにし、かつて奪われた我らの聖地を取り返すのだ。
奪われた我らの聖地=大魔王城のあるところです。