髷
アーク歴1508年 捌の月
ヴェルケーロ領
飯を食って、最近のこちらの情報を聞いて。
まあ大した変化はなかった。
冷夏ではあるが、そうなると分かっていたので備えも作付の調整もしてある。
野菜はまあ少し出来が悪いが、豚の繁殖は普通に順調のようだ。
寒いと豚の餌や馬の餌も育ちが悪いが、まあ樹魔法を必死にかけるほどではない。余った時にホイホイっとくらいでいいだろう。
豚や牛馬はどんどん増えてすでに何頭いるか把握しきれないと。
いや、そこは把握しろよ。
特に豚は消費も早いが増えるのも早い。
まさに豚算方式に増えていっているらしく、ちょいちょい間引いてもどんどん増える。
奇形が増えると嫌なので行商に頼んで他領から購入してもらったりあちこちと交換したりしているが、そのせいかどんどん増えて増えて。
じゃあ食えばいいじゃんと言ったが、豚舎で仕事をしている連中は豚が好きで仕事をしているのであまり出荷したくない。出来れば豚に埋もれて暮らしたいと言っていると。
誰だそんな奴を飼育係にしたのは。
どこかの教室で児童に豚を育てさせて投票で児童全員が全員殺さないに投票したのに先生が殺すに投票して肉にして食べさせたという伝説の授業があったと聞くが、愛着を持って育ててしまうと殺せなくなる。
所詮肉だと思わないと、いざって時に困る。
馬を庇って武将が死んではしょうがないのだ。
俺だって俺かアカが死にそうになった時にサクッとアカを見捨てて…無理だな。
よく考えれば、と言うか考えなくても俺が無理だった。
そんな冷徹な判断できないわ。無理だわ普通に。
どこぞの猟師のように片足切り落としてアカに食べさせるかもしれん。
コイツなら片足じゃ足りないとか言い出しそうだが。
「カイト、どうした?」
「何でもない。一杯食えよ」
「おー!」
アカはすでにかなり大きくなっているが、巨人族やケンタウロスでもホイホイ入れるように作られた領主館の食堂ならなんてことはない。
足元のエサ箱でパクパク食べていたアカはいつの間にか専用のテーブルにドドーンと置かれた肉に喰らいつくようになっている。これ何の肉なんだろ?
「野生の鹿です」
「一頭分じゃ足りないかもな。エンゲル係数酷いことになりそう」
「エンゲルケイスー?とは何だ?」
「エンゲル係数ってのは家計に対する食費の割合…かな?」
「よくわからんな」
「要するに食い物に金がかかるって事だ。」
肉ばっかり食ってるからな。
野菜を食え野菜を。
昼過ぎにヴェルケーロに到着して、飯を食って。
それから書類をペラペラしながらゴロゴロしていたらマークスからシュゲイム達や商人たちがこちらに来たと連絡があった。なので少し早いが食堂で晩飯を食べながらの会議となった。
「皆久しぶりだな。元気にしてたか?」
「お久しぶりですご領主様!」
シュゲイムが代表してあいさつしてくれる。魔王様!とか言ってる奴もいてこうなんと言うか色々むずがゆい。アシュレイも奥方様!なんて言われちゃって、照れてて何とも言えん。
「早速だが会議を始めよう…エルトリッヒの方はどうなっている?」
「はっ。先日の支援のおかげで餓死者はごくわずかであったと。食料を巡っての争いはあったようですが、軽微であったようです」
「…そうか。餓死者には気の毒だが、軽微であったならそれで良いとするべきかな。あちらも酷いようだしな…」
人間界の方は酷い有様になっているようだ。
支援をした旧エルトリッヒ地方で餓死者がわずかでも出たらしい。
じゃあ全く支援をしなかった教国や帝国の方はどうなのだろうか。
リヒタールには人間界からの難民も来ているらしい。戦時中だぞ…敵の国に難民ってどうなっとるんだ。
ぶっちゃけ難民の支援等については悩みどころだ。
大人しくしてくれて将来国民になって働いてくれるなら全然問題は無い。
食料は不足気味だが、鉄道を敷いている事で塩や海産物が入ってきやすくなってきている。
コメやパンが無くても干物ならある…という状況ではある。
尤も、毎日干物だと栄養が偏りまくっていろいろ不味いとは思うが、暖かい地方ならそれほど凶作でもないし…輸送網をもっと整えたほうがいいな。
どうやらこの冷夏は人間界の何とか言う火山が噴火して、それで火山灰で気温が下がったことによるものらしい。いい迷惑だわ全く。
ゲームでこんなイベントあったっけ?毎年凶作とかやられると兵糧が無くなって侵攻にも防衛にも支障が出まくりそうだ。ハッキリ言ってクソゲー待ったなしである。
もうずいぶん昔の事なのでちゃんと覚えてないが、カイトでプレイしていた時は凶作は無かった。
と言うかすぐゲームオーバーしてそこまでたどり着けなかったとも言うが。
アシュレイでずばばばーんとプレイした時は何にも考えなくてもクリアできた。だからそんなに兵糧に困るなんてなかったと思うんだけど。もしかしたら難易度の問題だとか、火山自体がランダムイベントとかそういうのかもしれん。
強制イベントだったら何とか火山のすぐ近くの領地の奴とか一瞬で詰むしな…
「ヴェルケーロの収穫はそこそこいけそうなんだろ?」
「毎年少しづつ作付けを増やしていますので…ただ、面積当たりの収穫量は下がっています。今、育てている作物も出来は良くありません。後ほど魔王様に魔力を分けて頂ければと」
「我らの村々にもお願い申し上げる」
マークスとシュゲイムが申し訳なさそうに言うが、幾らなんでも天気の事で謝られても困る。そのくらい俺だって協力するし。
火山からの例外だが、魔界の方はそれほどひどい影響は受けていない。
何だか前より寒いかなあ?って日が増えて、暖かいのを好む作物が少し出来が悪くなっている程度。もともと冬や寒い地方に植えるような植物はそう大差ない。いや、それも少し悪いか?
元々魔界は作物の生育が悪いとされている。
その原因ははっきりとはわからないが、まあ定番を考えると魔素がどうこうって話になるんだろ。
ゲームの設定的に。
豊富な食糧と人数で個々の強さでは圧倒する魔族を倒す、と言うのが人間界のプレイヤーの戦い方の筈だが、食糧が無いのでは攻めて来られないはず。だよな?
「人間界の方は内乱が酷いらしく、エルトリッヒを多少支援したところでそれどころではないようです」
「そうらしいな。まあこっちに攻めてこないならそれでいいが。今年も多分不作で食い物ないだろうから…支援また考えておけよ。支援するかどうか、食糧の余りはどうか、今から追加で生産するかどうか…」
「ハッ」
心得ております、とばかりに頭を下げるシュゲイム。これもう食糧増産はかなり行っているようだ。
その上で俺の魔力でもっと増やしてチョンマゲってか。と脳内でボヤいてふと思ったが…『~してチョンマゲ』って何時の時代だ。おっさんか。
そういや髷結ったキャラは出てこないな。
イケメン主体にしないと売れないからかな。
某野望ゲーもメイン武将はみんなイケメンでつるっぱげにチョンマゲなんていねーし。
前回あたりでそろそろ戦いが、とか言ってましたがまだもう2話ほど挟みます。
次回は人間界がどうなっているのかを中心に…?