75層
71層からは荒野のようなステージで出て来るモンスターは全部人型だ。
懐かしい。以前にここを訪れたのがはるか昔に感じる。
ここで出るモンスターと、普通に街に住んでるオッサンたちとどう違うのかなって昔考えてた。
結論は今も出ない。
モンスターは倒せば内臓や脳漿が飛び散り、そして消える。
後に残るのはドロップ品と少しの罪悪感のみだ。
ドロップ品はお金が多いが、使っていた武器や着ていた鎧や衣服の時もある。
パンツを落とされたときもあった。
その時は罪悪感は無かった。むしろもう一度ぶち殺したいくらいだ。
出来るだけ戦わずにスルーする。
もうココまでソロで来たら色々と疲れて頭に何も入ってこない。
考えるのは70層のボスである水龍の事だ。
あんなに人間臭い、というかそこらに居そうなダンジョンボスなんているだろうか。
それに結局トドメを刺さなかったのに倒した判定になったというのも気になる。
儂の負けでいいなんて言いながら倒した?後も話が出来たほどだ。
ドロップ品…と言うか贈答品のように渡された鎧も今まで見たことがないほど良質だった。
こんな鎧は大魔王様の宝物庫にもなかったほどだ。
まあでもあれは宝物庫という名のガラクタ置き場かも知れん。
本当に必要で大事なものはあんな所には置かんだろ?俺ならマジックバッグに入れる。
大魔王様だってきっとどこかに秘蔵のムフフな品たちを保管しているに間違いないのだ。
75階層は荒野のフィールドだ。
前にここにいた中ボスは巨人だった。
結構大きかった。
5m級ってところだったか。
…でも今回は気のせいかロッソみたいな顔をしているのだ。
「ロッソにそっくりやな…」
そう思っているとロッソ型巨人(奇行種)が動き始めた。
すわ、戦いかと思っているとおもむろにこちらを向いて喋り始めたのだ。
「お待ちしておりましたぞ、若」
「え?マジでロッソ?何してんのこんなとこで?」
ここは久遠の塔、75階層、だよな??
本来この階層にいるのはボスモンスター…の筈だ。なぜロッソが。
しかも話も出来るし本人と同じような反応をしている。
「ここは久遠の塔の75階層だぞ?」
「存じております。坊ちゃんのための防人には私が選ばれたのです」
「何だよ防人って?元寇でも来るのか?」
防人ってのは九州に置かれた防衛部隊…みたいなモノ名称じゃなかったかな。
カッコいい響きだから色々使われているが、まあ昔の日本語がいちいちカッコいいのは分かる。
今の訳わからん言葉も1000年くらい経てばカッコイイに分類されるかもしれんが。
「ゲンコーが何かは存じませんが、若が一人で塔を登り、此処まで来られた。そして私がここにいるという事は…私と若が戦うという事です」
「訳が分からん…」
「これ以上は問答無用ですな。聞きたければ私を倒すことです」
「クソ…何だってんだよ!」
「行きますぞ!」
そういうやロッソは俺の前にその巨体を躍らせた。
いつもより大きな体であるが、スピード感は劣らない。いや、むしろ速い。
そしてその巨体から繰り出す拳は岩を砕き、土を穿つ。
初撃のジャンピングパンチが地面に激突すると大きなクレーターが出来ていた。直系3m、深さ1m弱って所か。㌧でもねえわ。
「おい!前より力強そうなんだけど!?」
「そのようですな…さあ。我を倒さねば、アシュレイ様は復活できませんぞ!かかってきなさい若!」
「…よー分からんがやるしかないか。」
何やら芝居がかった喋り方をするロッソ。
だが戦っている感じは楽しそうだ。
実践で使っている斧をいつの間にか取り出したかと思うと、息を吐く間もなく襲い掛かってくる。
あの巨体、重そうな斧を持ってこんなに連続攻撃が出来るとは。
「くっ…どらっ!パリィ!トリプルスラッシュ!」
魔法を使う隙も距離も無い。
斧を盾で受け流し、がら空きになった胸に三重斬を放つ。
浅い傷を作ったもののやはり巨大な体、見るからに分厚い筋肉を断ち切ることは出来ない。
「強くなられた。後は武器ですな。そろそろ斧に転向しては」
「ヤだよ重そうだし。俺には短剣が合ってる」
「左手が使えれば槍も両手剣も選べますな…90階層では体を治してもらっては如何?」
「馬鹿かお前。80でアシュレイ、90でお前を生き返らせるって決めてんだ」
「それは…そうですか。ならばなおさらここであっさりと道を譲る訳には参りませんな」
「そこはあっさり譲れよ」
「断り申す!いきますぞ!」
またロッソが襲い掛かってくる。
どうしても大振で短調になる斧の攻撃。ところが、ロッソはそこであえてタイミングをずらしたり、からぶったと思ったらその流れのまま足技を仕掛けてきたりする。
「あぶね!」
「良く避けられた。これはどうか!」
斧で打ち下ろしの攻撃。ステップで交わし、懐に入って攻撃しようとしたところで回避したはずの斧に吸い寄せられる。
「何だこれ!」
「足が来ますぞ!」
後にある斧に吸われ、ほどよく距離を放されたところで右足での蹴りが飛んでくる。
「うぐあっ!」
一応盾を蹴り脚の前に出したが、ほぼ直撃を喰らった。クソいてえ。
「うぐぐ…ヒール」
「回復している暇がありますかな?」
「うるせえ!パリィ!ヒール!ヒール!」
斧での攻撃を防ぎながら回復。
足元がふらつく。早く回復しないと。
「どんどん行きますぞ」
「おうよ!バッチこい!」
ほぼ回復したところでさらに連撃が。
調子よく回避し、弾いたところでまた吸い寄せがきた。
「甘い!アローストーム!」
「グヌッ!」
適当に撃った矢の嵐は斧に吸い寄せられてロッソの右腕に。
途端に始まる樹での拘束と、その拘束を無理やり剥がそうとするロッソとの戦い。
「隙だらけだぞ。フレアミサイル・カタパルト!」
ドゴオン!と轟音を立てて爆発。
そして樹への延焼。
「まだまだ!フレアガトリング!アロー・ペネトレイション!トリプル!おらおらおらおらあ!」
「ぐおおおお!」
右手から樹、左手から火を撃ちまくる。
まだまだ。ロッソはこの位じゃ倒せないぞ!
「おりゃああああ!参ったか!?」
「まだまだ…!」
「ドンドン追加するぞ!アロートルネード・トリプル!フレアミサイル・ダブル!」
モリモリ追加した。
バキバキに拘束されたロッソにドッカンドッカンと炎が。
爆発が何度も起こり、延焼がひどいことになる。
でも、燃えながらロッソは前に出る。
ビックリした俺は攻撃をかわし損ねて喰らう。いてて。
「いてえだろ!おりゃりゃ!」
「ぐぬ…まだまだ!」
まだ発火状態のロッソに攻撃を加える。
「もっと燃やしてやる!フレアボム!フレアミサイル!トリプルスラッシュ!ダブルインパクト!」
動けないロッソに対して益々ひどくなる延焼。
そして追加される斬撃に刺突。
終いにロッソは片膝をついた。
「いたたた…参りました」
「おう。じゃあもう止めといてやる」
謎の上から目線。
いや、勝者なのだから当然なのだ。
評価・感想・レビュー・いいね などいただけると大変励みになります。
誤字報告もよろしくお願いします。助かります。