水龍戦
久遠の塔66層
「おおおお!!!寒いいいいい!!!」
65層の中ボスを倒し、半裸のような格好で66層に踏み込むとそこは一面氷の世界。
すんげ―寒い。というか痛い。
前も同じ事をした。俺はアホかと思いながら水龍鎧セットを取り出す。
「…何で学習しないんだ俺は」
鎧を装備してふう、と一息つく。
そして氷の上で自転車に乗る。
滑りながら漕いで、こりゃいいやと思ったがすぐ走れなくなった。ギアにさした油が凍ったのだ。
「成程…こうなるのか…」
油が凍るとは盲点だった。
水滴を落としたら駄目だとは思うが、まさか注油した油分が凍ってしまうとは…これ何油なんだっけ?
「まあしょうがない。」
再度自転車を収納。
靴の裏に木で刃を作り、アイススケートをする。
そんなに上手くもないけど、下手でもない。
普通にまっすぐ滑る程度は出来る。止まるのは苦手だが。
どうせ歩いても走っても滑るのだ。
前回は気合で走ったが何回も転んで碌な目に合わなかった。
滑ってみると案外楽しい。
前世、大昔に家族でスケート場に行ったことを思い出す。あの頃は両親も元気で…やめよう。
すいすいと滑って敵は普通に撃墜していく。
相変わらず雑魚は雑魚。
レベルも上がりそうにないしドロップも期待薄なので一々チェックしない。
アカと一緒にここを通った時はそこそこ苦労した記憶がある。
樹魔法の物理ダメージ部分は普通に通るが、樹による拘束は気温が低くて難しかった事を覚えている。
それがどうか、特に何の不都合も感じずに戦えているのだ。
それどころか多くの魔物はスケートで走りながらの一撃で仕留められる。
どうやら俺のチートもいよいよ極まってきたらしい。
「ふう、スケートも疲れた」
69層から70層に移動する階段に着いた。
走るのと違って変な筋肉を使った。お尻の辺りが変に痛い。
階段の内部で飯を食って休憩するとしよう。
「あ‶ぁ~、あったまるんじゃああ…」
ポトフは少々飽きたのでトマトを炒め、ポトフの鍋に大量にぶち込んでなんちゃってミネストローネにする。具がやや大きいミネストローネだがまあその辺はどうでも良い。美味けりゃ何でもいいからな。
グツグツと煮込み、味がしみこんできたところで食う。
トマトの酸味と甘みがポトフの優しい味にうまく融合して…うまい。
温まる。たまらんなこれは。
お代わりしてパンに浸したり、小鍋に分けてご飯をぶち込んでなんちゃって雑炊にしたり。
何やかんやでいっぱい食べた。
まあ寒いとカロリー消費は多くなるって言うしな。しょうがないな。
70層のボスは水龍だ。
前回フルボッコにされて追い出されたやつだ。
「たのもーう!」
「グルル…待っておったぞ小僧…良い物を食っていたようだな…」
「バレたし。」
「何故儂の分を持ってこんのじゃ?」
「む、少し待て」
催促されるとは思っていなかった。言ってくれたら最初からやったのに…
そう思いながら鍋いっぱいのミネストローネを再び温める。
さっき一回温めたからすぐアツアツになった。
どれだけ食べるか分からんからとりあえず大きめの丼にいっぱい。スプーンは…と思いながらスプーンも付けて差し出す。
「熱いぞ」
「うむ…馳走になる」
20mは超えそうな水龍はスルスルと小さくなり、柴犬…よりは大きいな。
レトリバーくらいの大きさになり、手で器用にスプーンを持って食べる。
「ううむ…」とか「人族の料理は侮れぬ」なんてぶつくさ言いながら食べているのだ。
暫くすると丼が空になった。
「うむ、美味であった」
「おう…」
「ではやろうか」
水龍はむくむくと大きくなり、元の大きさに戻った。
気を取り直して俺も闘いモードのスイッチを入れる。
「よし…今度こそ俺はお前を倒し、80層のボスも倒す」
「その意気や良し。かかって参れ」
「応!いくぞ!パワーアロー!アロー・ペネトレイション!」
攻撃力の高い矢と貫通性能を持つ矢をぶっ放す。
前回の戦いで学習したのは相手が目が良い事。
大量の矢に必殺のつもりで紛れ込ませた本命はあっさり見抜かれた。
だから…力でゴリ押す。
何としてもゴリ押させてもらう。
そう思い、放った二本の矢。
双方とも魔力を多めに詰め込んであるので無効とはいかなかったが、それでもダメージの効きはイマイチっぽい。でも前回とはだいぶ違う。
予想外の事が起これば動揺するが、これは所謂想定の範囲内だ。
物理攻撃が効き辛い、矢が通り辛いなんてことは前回ので解ってる。
だから心配ない。ゴリ押す。
訳の分からんほど増えた魔力で…一気にゴリ押す。
「アロー・ストーム!トルネード!フレイム・キャノン!ミサイル!カタパルト!」
「ぐおおおお!貴様、こんな無理矢理…いてて!いてえ!ちょ、いたたた」
全弾ぶっぱする。
何かやられる前に殺る。
攻撃は最大の防御なのだ。
「おらおらおらおらおらあああ!」
「あ、いで!ほげ!」
「まだまだあああ!こいつも喰らえ!」
『ドン!ドドドドン!!!』と言う音とともに撃ち出される大砲。
MPも無くなってしまえとばかりにタコ殴りにし、さらには改良して散弾から鉄球から撃ちまくる。
一撃一撃はあんまり効いてないようだったが、数があれば徐々にダメージは通る。
1ダメしかなくても5000発も殴れば魔王だって倒せるのだ。
「ハァ…ハァ…参ったする?」
「ま、参った。儂の負けでいい。」
「じゃあなんかドロップアイテムをよこ…ください」
「む、しょうがない奴め…うまい汁の礼もある。ほれ、これをやろう」
そう言って水龍鎧をポイっと落として行った。
でもこれほとんど同じの持ってる奴じゃん?って顔をしていると。
「同じではない、それはヴェルケーロのボスが落とした鱗を加工した物だろう。これは儂の自ら産み出したものだぞ」
「はあ…どれどれ」
鑑定で見てみる。
真・水龍鎧
DEF+550
水 火 氷属性耐性◎
物理 土 光 闇属性耐性○
保温性能◎
装備制限 Lv1000
…確かに良い。
以前の鎧より防御力が上がり、耐性も圧倒的に多い。
着てみたがバッチリ冷暖房も完備している。
これは良い。すごく良い物を貰った。
「すげーいい。ついでに盾とカブトもない?」
「ないわ!さっさと次に行け!」
「うひ!ごめんなさい!あと、ありがとおおおぉぉぉ!」
ボス部屋に無駄に声をエコーさせながら俺は71階層に移動した。
「…早う先に行ってお主の縁者に会うがよい」
水龍は何かを言っていた。
何を言っているのか、俺にはよく聞き取れなかった。
一般的な自動車のエンジンオイルは-40度くらいで凍るみたいです。ググった結果ですので間違ってたら失礼。
カイトが注してあるのを何に想定すべきか悩みましたが、鉱油と石灰やら石鹸を混ぜ混ぜしたグリスくらいならあるだろうなと。そのグリスは-20度くらいで凍るようです。
一面氷の世界を何度に設定するか悩みましたが‐20度くらいはあるんじゃないかと。
という訳で凍ります。
‐20度で駄目なら北海道並みと想定したヴェルケーロでも一番厳しい時期は越せないんじゃないかと思いますが、そもそも豪雪地帯の大雪やアイスバーンのツルツル滑る地面で試作品の自転車を試していません。さらに言えば冬場も鍛冶屋の中はそれなりに暖房が効いているので…つまり作ったカイトとゴンゾがこういう運用を想定していなかったという事で…。