サクサク登る
40層台は最悪な事に自然いっぱいのステージだった。
自然いっぱいいいじゃないの。
何が悪いの?って…つまり道の凸凹がすごく多くて自転車に乗っていると股間に響くのだ。
玉や棒がどうこうというのもあるが、純粋に尻が痛い。
昨日1日自転車に乗って、回復魔法でも回復しきれなかったダメージが蓄積しているようだ。
今日この自然いっぱい階層にきてすぐに尻の皮が破れた。
あまりの痛みに半泣きになりながら自転車を片付け、バッグに仕舞って厳重に尻にヒールをかけて再出発である。
清々しい気分だ。
やっぱり山は自分の足で歩くに限る。
剣と盾を持ち、飛んでくる虫たちを切り払いながら進む。
カブトムシが飛んできたので剣で切る。斬る。kill。
大して苦労もしない。
おかしい、以前はこれを盾で防ぐのに必死になっていた。
アカと二人、痛い痛いと半泣きになりながら逃げ回っていたと思うのだが。
懐かしさを感じながら進む。
身体は尻の皮が痛痒い以外は特に問題ない。
油断して一度カブトムシに直撃されたが、どうという事はなかった。うーむ。
レベルが上がるとこうなると分かっていても違和感がひどい。
HPという名のバリヤーで全身を包まれているような感覚さえあるのだ。
「まあ気にしちゃいかんな。悪いことじゃないんだし」
前世で読んだ物語では魔王を倒した勇者も姫であったり王子であったりに後ろから刺されるとあっさり死んでいた。そんなんで今更死なんやろーと思ってしまうが、この世界のHPバリヤー制度とはまた違うんだろうな。
これじゃナイフで刺されたくらいで全く死にそうにないし。
というか素人の持つナイフなんて刺さる前に弾かれるだろう。
「気を取り直して次行こ」
50層のボスであるレギオンは前回も倒した。
確か金色になっていてえらい強化されていたが…
「たのもーう!」
「ギギー!」
俺を出迎えたのは赤いカブトムシだ。
「あれ?金色どこ行った?」
あらら?
アイツ隠れてんのか?と思うが金色カブトムシは何処にも見当たらない。
「一度倒せば消える仕様なのか?まあいいか」
構わず戦闘を始める。
「アローシャワー!アローストーム!…パワーアロー!」
広範囲に矢の雨を降らせ、敵の動きを鈍らせる。
そしてボスの近くに矢の嵐を放ち、拘束したところで攻撃力の高い矢で一息に穿つ。
「ギギィー!」
赤のカブトムシはあっと言う間に消えた。
以前の苦労が嘘のようだ。
「なんだかなー。お、羽ゲット」
甲殻の羽部分を左右ゲットした。
これはアームガードやレッグガードに使うと良さそうだが、金色のよりは性能が低そうだ。
持って帰って売ろう。
50層台も変わらず。自転車は使いづらい。
しかし、何やら拍子抜けだ。
昔アカと二人で来た時はめちゃ苦労した。それが今や…
高揚感と同時に少しの悲しさ、寂しさのようなものを感じながら進む。
60層のボスはアカと一緒に来た時は象だった。
そして前回ソロで来た時はマンモスだった。
じゃあ今回は?
「たのもーう!」
「パオオオオン!」
象さんだ。
なるほど、どうやらソロ出来た時に特殊ボスが出るのは最初の回だけなのか。
だよな、そんなにホイホイ出るなら『金甲虫の甲殻』とか『毛長巨象の角槍』とかいっぱい量産されてるはずだもん。
甲虫の殻のは%上昇系のアイテムだったので俺が装備している。
槍は大きくて使いづらかったので館に置いてある。
何やら主だと認めるとちょうどいいサイズになると書いてあるが、そんな機能は発動しない。
だから使ってやらねえよ!クソっ!
そんな訳でボスの象さんを見る。
威圧感があんまりない。こんなんだっけ感しかないのだ。
「最初の時はどうやったんだっけ…?」
うーん、覚えてないなあ。
確かアカといつものようにハメ殺したんだと思うけどな。
「わからん。アローストーム!ダブル!」
矢の嵐を大量に発生させる。
そしてダメージを与え、拘束。あとはチクチクと攻撃すれば終わるだろ。
短剣で少しづつ削り、拘束がほどかれそうになれば矢を追加して拘束。
いやあ、何も出来ないような状態にしてチクチクするってサイコーですな。
特にロクなドロップも無く、普通に倒し終った。
さー次いこ、次!
60層台を登る。
もうすでにダンジョンの中で何日過ごしたか分からない。
腹が減ったら飯、眠くなったらボス部屋か階段で寝る。これだけである。
話し相手もいない。頭がおかしくなる奴もいるだろうな…
61層からは火山だ。
自転車は使えない。
何せ火山である。
溶岩石があちこちに転がり、真っ赤な溶岩が川のように流れている。
道はデコボコも多いし変に熱い所も多い。タイヤにもどう考えても良くない。
俺の尻より先に自転車がくたばる状況になっている。
なのでここも仕方なく歩いて登る。
さすがに3回目ともなると階段の方向も良く解る。
暑さ対策も前よりしっかりしているからなんとかなる。
それでもあまりの暑さにやや朦朧としながらようやく65層に到着した。
溶岩を飛ばす虎さんはものすごく楽勝だった。
どうも、火耐性も上がっているらしい。
ウッカリとTシャツ短パンに耐暑の指輪装備でボス部屋に突っ込んだが特に苦労することなく倒せた。
溶岩を一発喰らったが普通に痛いだけだったのだ。
生身の人間が喰らえばじゅーじゅー溶けそうだが…おかしいな?