裁判 前
アーク歴1506年 参の月
ヴェルケーロ領
裁判所は出来た。
勿論野外だ。
建物やら何やらはまだまだ先である。
とりあえずはここからここまでは裁判所にするからなって縄張りを済ませ、それから丸太で椅子を作る。とりあえずはここまで。
建物を作るのは復旧作業が終わってからになる。
この前の侵攻は領に大きなダメージを与えた。
まだ復旧も済んでいないし、これから春の作付けもしなければならない。忙しいのだ。
だからって前と全く同じに修復したりなんかはしない。
やや無軌道に拡大していた外壁と内壁の間、ここのスペースをキッチリと街づくりをしていく。
京都のように碁盤の目のような形にしてもいいかなと思うが、ヴェルケーロは山の中の領地だ。
すでに山の主(アカ)に許しを得て散々に山を削りまくっているが、こうなると崖崩れが怖い。
コンクリで固めるにしても限界がある。山頂からずーっと崩すのは無理があるし…うーむ。
それと防衛についても考えなければならない。
外壁はそれ程もたなかった。
ある程度はこうなると思っていたが、大軍の前ではほとんど役に立たなかったのだ。
壁をもっと高く厚くする、銃眼や大砲、バリスタの設置。落とし穴やら罠の設置などについても考えなければ。
でも平時に罠があると危なっかしくて仕方ない。難しいな…
エルトリッヒ方面にあるトンネルは以前よりも厳重に封印した。
でも俺はあっち側に侵攻する際に使わなくもないかなとは思う。
これだけボコボコにやられたのだ。
やられたらやり返すって昔えらい人が言ってた。
「えー、では本日の裁判をしまーす。マークス君、読み上げて」
「ハッ、本日取り上げる訴状はベロザ殿の印章を無断使用した件、復旧作業中のケンカについて、それと…
ベロザの印章ってのは酒に押してる豚の…もとい、ベロザのイケメンフェイスのハンコの事だ。
俺は最近まで知らなかったが、アイツの持ってくる酒についてるハンコはベロザのお気に入りの証である。これが入ってるのと入ってないのとで酒の値段が3倍くらい違うらしい。
おかげでそれを偽造したり無断でハンコを押したりするって事件があったんだと。
まあハンコのあるなしで3倍も値段が違うならついハンコ押しちゃってもしょうがないかもな…とか思うがこれは所謂文書偽造になるのだろう。
公文書じゃないから…私文書偽造?それかもしくは詐欺罪だなあ。
んで復旧作業中の喧嘩、これは人族と魔族の作業員が少し揉めたって事だ。
戦争で敵味方に沢山死人が出た。
死体が沢山ある、復旧作業の最中で感情が高ぶる事も有ったろう。
喧嘩になって殴り合いをしたが、幸いにも死人や後に残る大きな怪我はなかった。
俺としてはこれはもうしょうがないって風にしたいんだけど。
…以上になります」
「ベロザの印章については文書偽造と詐欺罪とだな。これでいくらくらい儲けたのか、それと本来なら民事になる事だがベロザへの慰謝料のような物も必要になるだろう」
「慰謝料ですか?」
「迷惑料でもいい。お前らだって自分の名前使って悪さされたら腹立つだろ」
「それはそうですな。叩き斬っても良いぐらいですな」
武人であるウルグエアルさんはもう軽くブチ切れてる。
シュゲイムだってそうか。うんうん、とウルグエアルさんの意見に頷いている。
アイツも王族みたいなもんだし名誉を汚されることにはすごく敏感だ。
「死刑でいいかな?」「その前に拷問が…」なんて言ってる。なんつー物騒な奴らだ。
たかが詐欺だぞ?
「詐欺だぞ、やってることは。死刑はやりすぎだろ?」
「しかし我らが名誉を傷つけられれば戦になりますぞ」
「殿の名をかたった者が悪さすればどうなさいますので」
「悪さの程度によるだろ…。いいか、今回は酒だと言って酒を売った。そこにハンコを押しただけだ
」
「はあ、それはそうです」
「これが毒薬を酒だと言って売ったならそいつは死刑だ。でもそこそこの酒を高級な酒だって言って売ったなら…まあただの詐欺だろ?相手の舌がいいならバレることだ。売り上げ全部要求する程度は当然だが殺すほどじゃなかろう」
「…なるほど?」
アカン、もう一つ納得してない。
「例えばだがシュゲイムの名を騙った悪者が強盗や殺人をしたとする」
「なんですと!」
「例えばだって。そいつへの罰は…まあ死罪かな?」
「当然です!」
「ウルグエアルの名を騙った者が街中でカツアゲしてたらどうだ?」
「死罪ですな」
どうしてこいつらはそんなに簡単に殺したがるんだ。
「…気持ち的には死罪だけど、そこはもうちょい。ちょっと1万zくらいカツアゲしただけなら罰金と鞭打ちくらいでいいんじゃないの」
「ぬう、なれば某が百叩きにしましょう。本気で殴れば…」
「殺す気マンマンじゃん!?」