法
法について調べた所、今まである法律はどれもこれも酷いものだった。
魔族のは力こそ正義だったし、人族の物は権威が有れば簡単にひっくり返せるものだった。
まあ、証拠がないんだよな。
DNA鑑定くらいサクッとできるようにしたい。アレはアレで間違いもあるが、人族と魔族くらい違えばDNAで違いが出まくるはず。サルとヒトが99%同じだとか言うから、未完成もいい所の技術ならそれでも間違いかねないとは思うが。
証人や証拠が偽造できるという所もどうにかしたい。
金を積めば見てない物を見たという証人。これをさせないためにどうすればいいか。さっぱり見当がつかない。それこそ法廷で嘘をついたら9族死罪にでもするか?
…会議に会議を重ね、法を発布することになった。
と言っても何が何ってのは難しい。
大体のところでやってはいけない事を布告するだけである。
当然の事だが殺人や窃盗強盗強姦なんかは完全にアウトとして、大まかな目安も公開している。
十善戒を知っているだろうか。
仏教における十悪を否定形にして、戒律としたものだ。
・不殺生 故意に生き物を殺さない。
・不偸盗 与えられていないものを自分のものとしない。
・不邪淫 不倫など道徳に外れた関係を持たない。
・不妄語 嘘をつかない。
・不綺語 中身の無い言葉を話さない。
・不悪口 乱暴な言葉を使わない。
・不両舌 他人を仲違いさせるようなことを言わない。
・不慳貪 激しい欲をいだかない。
・不瞋恚 激しい怒りをいだかない。
・不邪見 誤った見解を持たない。
これらを基本として出来るだけ破らないようにとしている。
もちろん、破った者を即座に罰するわけではない。
少々嘘をつくなんて誰でもする。
宿題をやってないのにやっただとか。
落ちてた100円拾ったのに届けなかったとか。
40キロの道でつい70キロ出てたとか。
不味いと思ったけど妻がいるのに部下と不倫を…コレは日本でも色々アウトだ。刑務所に入るかと言えばそうじゃないけど。
上にあげた物たちは法で取り締まる範囲ではないから余計に難しい。
スピード違反も見つかったら捕まえられてキップ切られる。でも刑法かというとそうでも無い。
難しいがまあ、基本の考え方はこうってだけで全部これを法律にするって訳にもいかん。
でも、いちいち法律として明文化はしないが。
皆の精神的にはこういう風に正直で真っ当であってほしい。
と言う訳で法事の時の十善戒を思い出しながら説明する。
すると師匠とマークスは涙を流して感動し、シュゲイムやウルグエアルは惚れ惚れするようなため息を吐いた。
「よくぞあのカイトがここまで…」
「先代様に今すぐお伝えしとうございます…」
「カイト殿はすごい方だとは思っていたがこれほどとは。ううむ」
「いやあ、ここまでとは。まさに大魔王様のご遺志を継がれるお方。このウルグエアル、殿に仕えることが出来て幸せですぞ」
…どうも皆は俺が考えたと思っているようだ。
いや、俺は法事で半分寝ながらぼんやり聞いてただけなんだけど…何かこうみんなの感動がすごくて逆に申し訳ない。
だからこの十善戒を基本として、細かい量刑なんかはケースバイケースで。
出来るだけ原告が証拠を積み上げて、解りやすい形で裁判を行うように。
裁判所は何時でも市民が見学に入れるように。
って基本方針を挙げていく。
勿論何時でも入れるからって故意に汚したり壊したら罰がある。それは当然の事だ。
修理代を払うか、金が無ければ皿洗いやら開墾やらやって貰う事になるだろう。
罰については死罪と禁固刑、罰金、財産没収と労働○年、もしくは○ヶ月とある。
刑事裁判以外に民事裁判も考えないといけない。
その辺も難しいな。倫理観とかもある程度統一しないといけないしな。
日本にいる時は離婚調停なんかも大変だったと聞く。
元夫婦がいがみ合う様を見せつけられる調停員や裁判官は嫌になるだろう。
案外楽しんでるかも知らんが。
十善戒はwikiより引用しています
身内で調停員をやっている者がいましたが、離婚する夫婦がいがみ合う様ばかりで嫌になると言っていました。それを楽しめる人もいるとは思いますが…