宴会
戦は終わった。
少なくとも追撃戦に移っているメンバー以外はもう終わった気分になっている。
俺は今回アッチに動きコッチに動き、そしてまた戻って…本当に疲れた。
「バタバタして疲れたな」
「つかれた」
「アカもよくやってくれたよ。お前は最高の乗りも…んんっ、パートナーだ。」
「おー?何か今へんな事言ってなかったか?」
「気のせいだろ?」
ナハハ、と誤魔化しながら地上に戻る。
ベラさん率いる地上部隊はさっき敵軍のど真ん中を抜いて行った。そして降りた先では伯母上の率いる追撃部隊が出撃しようとしていた。
「伯母上、お気をつけて」
「カイト殿、見ていましたよ。あのグリフォンをもう少しで仕留められるところでした」
「そうですね。以前ここに来た時より、俺もアカも強くなったようです」
「本当に…あれから何日かしか経っていないというのにね。男子三日会わざれば、ですね」
「へへ。」
久しぶりに褒めてもらった。
もう俺を褒めてくれる人なんていない。
親父が死んでもう10年になる。
師匠は厳しいし、大魔王様は無茶振りばっかりだったし…
伯母上は母を知らない俺にとって母代わりのような存在だった。
母に褒めてもらうとはこんなに嬉しいものだったか、なんて思って照れくさい。
「気を付けて。逃げている兵ですが、何をして来るかわかりません。窮鼠猫を噛む、ですよ?」
「分かっていますよ。私やベラトリクス殿などは良い的でしょう。気を付けます」
「お気をつけて」
何だか嫌な予感がする。
良い事があった後は必ず悪いことが起きるんだ。
今までの経験上、それは間違いない。
「マークス、いるか?」
「ハッ」
「疲れているところすまないが、もう一働きしてほしい。伯母上を守ってやってくれ」
「畏まりました」
返事の声が聞こえたと思ったらマークスの気配が消えた。
アイツマジで忍者より忍者だな
その後の追撃はさほど問題なく終わったようだ。
やはり伯母上を狙った部隊がいたようだが、マークスが突然伯母上の影から現れて窮地を救ったらしい。アイツ何なのマジで。
誰々を討ち取ったとか、何やらを捕獲したという声がするが、生首を持ってくるような事は無いようだ。そんな野蛮な文化が無くてよかった。
生首腰にぶら下げて戦場走り回るとかどこの頭おかしい国の話だっての。
その後はやんややんやと宴会だ。
皆何故か酒の用意はしてあったようだ。誰も何も言わなくても酒がホイホイ出て来て兵も民も食って飲んでをしている。
「どこから出て来たんだこの酒たちは」
「戦場に赴く際にはお酒を持っていくという者が多いですよ。装備を売ってでもお酒を買うとか」
「へー?」
「カイト殿は秘蔵の酒など無いのか?ヴェルケーロの酒は出来が良いと評判だぞ?」
酔っ払ったベラさんが聞いてくるが、勿論俺だって酒の手持ちが無い訳じゃない。
無い訳じゃないけどこれが気に入るかは知らん。
「えー…?じゃあこれとかどうっすか?うちの領で作ってる奴ですけど」
袋からポイっと酒を出す。
「おお、これは!幻のベロザスペシャルではないか。それも99年もの!」
「…はい?」
何?幻の…ベロザ?何つった?
おおお、とどよめく宴会場。
本来はちょっと上等な貴族用の食堂だったはずだが、まあもう宴会場でいい。
中にいるのは酔っ払いたちだし装飾品も戦時なので最低限もいい所だ。
で、それはいいけどベロザスペシャルって何よ?
俺がポカンとしていると、マークスが教えてくれた。
「良いですか、若。いつの間にやらベロザ殿は魔界一の杜氏として名を馳せるようになりました」
「はあ?あいつが??」
「次々と意欲的な新酒を産み出し、改良に改良を重ねドンドンと新たな工夫をする。そして気に入った物だけ刻印を付けています」
「刻印?これ?」
そう言えば俺がベロザに渡される酒には全部ハンコが付いている。
これってベリスちゃんがデザインした兄貴の似顔絵スタンプじゃん?
飼ってるブタにしか見えないヒデエ顔だってアカと笑ってたやつ。
「おお、その刻印です。それこそがベロザスペシャルの証!なんという美貌!」
「…美貌?」
これが…これがかっこよく見えるのか?
俺の前には子供が芋版で作った豚のスタンプのような…なんというかイケメンとは程遠い物がある。
うーむ。
「まあいい。ほいよ」
ベロザが毎年のように押し付けて来た酒をポイポイ出す。
「おお!これはベロザ・ウィスキー!それも02年もの!」
「これはベロザ・ヴェルケーロの白!01年ものですな!こちらも評価が高い!」
「これは幻の清酒ヴェルケーロ大吟醸!05年もの!通好みの一品!」
やんややんやと大盛り上がりである。
何であいつこんな有名人になってんの?
マジかよ…
皆がベロザスペシャルに群がる中、俺はユグドラシルのお爺様の所からもらった桃味のおいしいお酒を飲んでいた。甘くて美味しいのだ。
宴会が盛り上がってきた頃、伯母上に呼び出された。
行くと代表的な領主たちが揃っている。リヒタールの代官もだ。
「何ですか?」
「これからの防衛について話し合いたいことがあります」
「はい」
「まずはカイト殿、貴方の領地で作られた武器は大変役に立ちました。そこに感謝を」
「いえいえ、なんてことは無いですよ」
俺はポンと渡して使ったのは殆どがここの兵や大魔王城所属の部隊だろうし。
「それで、あの兵器を譲ってほしいという者がおりましてですね」
「我が領にもほしい。貴様のような若造よりうまく使ってやろう」
「我に預ければ人族なぞ鎧袖一触よ」
「いいや、我によこせ小僧」
俺が俺がってゴチャゴチャ言ってる。
殆どは自分の方が上手く使えるからさっさとタダで寄越せという、人を舐め切った内容だ。
ベラさんを見ると、ニヤニヤしている。
あー、このオッサンも楽しんでるな。
はあ、メンドクサイけどしゃあない。
この業界は舐められたら終わりなのだ。
戦国大名やヤクザと一緒。
領主稼業は舐められたら骨までしゃぶられてポイされるのだ。
って事で、喧嘩を売る時間である。いや、買う時間かな?
「煩いよ。自分の事ばっかりギャーギャー言いやがって。欲しいなら自分で作ればいいだろうが」
「はあ!?」
「何がよこせだ。頭沸いてんのかクソジジイ。今すぐ人族追いかけ回して来いよ。出来ねえくせに人の作ったモンに頼ってんじゃねえよザコ」
「…あああ!今何と言った!小僧!殺されたいのか!」
「ヤレるもんなら殺ってみろ…おいマークス、手出すなよ!」
ジジイの後ろに回り込んでたマークスを制止。
何故か始まったジジイと俺のタイマン。
だがそれは一瞬でケリがついた。
ジジイのパンチをあっさり交わしてクロスカウンター一閃。
宮田君バリのパンチはジジイの顎に奇麗に決まり、そのカラカラの脳を揺らした。
後はぐにゃ~である。
起き上がれず、集中も出来ないジジイは回復魔法も使えないようだ。
まあ元々使えなかった説もある。
「よし…次!次こい次!」
「おう!我こそは…(ボコン」
「次!」
今度はガゼルパンチだ。
その次はホワイトファングで仕留める。
やっぱあの頃の一歩が一番面白かったな。
まあ今は今で迷走してるところも面白いが。
結局復帰するのか?それはそれでアリだが。
なーんて考えながらのデンプシーロールである。
そのまま伯母上とベラさんを除く全員をノックアウトした。
「伯母上とベラさんはやらないでしょ?」
「やらぬよ。ハハハ」
「お見事ですね、カイト殿」
「それでは私めが」
「いや、お前はアカンやろ」
何故かマークスもやろうとして来るので当然お断りである。
つーかお前とはいつでもできるし?みたいな?
「よし、全員聞け!俺は色々あって魔界を統一することにした!」
「なっ!」「ほう」「なんじゃと…!?」
「文句あるやつはもう一回掛かって来い!ただし負けたら文句言うな!俺の部下になれ!」
「よっしゃあ!儂が一番乗りじゃあ!」
「どっせーい!」「次は儂が」「ぬーん!」「我が」「はどーけん!」「俺様が」「サマソッ」「儂」「ヨガッ!」「この」「滅殺!」
もう最後の方は掛け声まで適当だ。
ボコボコにした領主の山がその辺に転がった。一山いくらくらいになるんじゃろ?
「…さて、お二人はどうします?」
「このままやっても良いが、立場上そうもいかん。俺はいずれまた戦場でまみえるとしよう」
「私は…いずれとは思いますがまだダメですね。アシュレイが生き返ってからにします。楽しみにしていますよ」
「はーい。代官殿は?」
「私は…わたくしは、姫様の仰せのままに動きます」
「…師匠は支援してくれるみたいですけどね。とりあえずは防衛をお願いします」
「ハッ」
用事はこの位だな。
とりあえず売られた喧嘩は買ったし、文句言いそうなのもボコった。
後はなるようになれだ。
どの道この辺りの領主に苦労してるようじゃ三魔王なんてどうにもなんない。
「じゃあ俺は帰ります。酒の上でのことなので彼らには付いて来たいものだけ来るようにと伝えておいてください。ベラさん、酒が欲しければ商人を回してくださいね。」
「おう、山積みにしておいてくれよ」
「そっちこそ金貨を山積みにしておいてくださいよ。では…帰るぞ、マークス。」
「ハハッ」
アカとマークスと、マークスの飛竜と一緒にヴェルケーロに帰った。
桃味のお酒はとても美味しかったので少し飲み過ぎたようだ。
飲み過ぎ+大暴れ、その上で空にあがると急に酔いが回ってきたのか気持ち悪くなってきた。
「うーん、なんだか気持ち悪くなってきて…吐きそうかも…オエッ」
「おい!おれの上ではくな!」
「あー無理。う、うべベベベ…」
「ギャー!」
アカに振り落とされそうになりながらゲロを撒き散らかし、何とか帰った。
下には…地上にはたぶん誰もいなかった。たぶん。
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