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破壊

アーク歴1506年 壱の月


ヴェルケーロ領



「ぬああああああああ!」


誰かが叫んでいる。

右腕からは樹を生やし、肘までの左腕は黒き炎を次々と生み出す。

叫び声は深く、重い。


無防備に声を聞いたニンゲンはそれだけで失神するほどの魔力が込められ。

遠目に見た者も恐怖の余りに金縛りにあった。

彼の前に立ち塞がる者凡てが樹に捕らえられ、次の瞬間黒き炎で焼き尽くされた。


この光景を、俺は見たことがある。

誰なのか、顔は良く分からない。

でも以前にも大体同じようなのを見た。


門に攻め寄ってくるものは悉く樹に捕らえられ、その木を舐めるように走る黒炎で焼かれ、一つの黒い柱になった。

門の中と外が黒柱で満たされた頃、その怪物は門の外へと出て行った。


あれは何だろう、なんて呑気な事は思わない。


そうか、アレは俺か。

前にリヒタールで同じような事があったとき、ロッソが変な反応をして師匠も困り顔だった。

ああ、今やっと腑に落ちた。


何でこうなったかは分からないが、俺がアレに乗っ取られて。

んで俺は弾き出されたって事か。


妙に納得しながら後をふわふわと着いて行く。気分は浮遊霊か背後霊ってところだ。

そして城壁の外を見て愕然とする。



俺の、俺の果樹園が…


西門の外は果樹園だった。

それが、未だ青い果実まで捥ぎ取られたどころじゃない。樹ごと切り倒されている。

燃料にするにしても、もっと他に!すぐそこの山に木があるだろうが!


『何てことすんだこのクソ共が!』

「ぬがあああ!」


あ、俺が怒ったら『俺』も怒った。大暴れしている。

ちゃうねん。いや、違わないけどちゃうねん!


あいつが暴れたら益々畑がぐちゃぐちゃになる。

止めて!何とか止めて!


その時ギラギラする剣を持ったやつが立ち塞がった。


「そこな異形よ!この聖炎の勇者ヴァルクトゥルス様が貴様を成敗してくれよう」


あー、あのギラギラ野郎は勇者か。

じゃああの光は聖剣か?何か嫌な感じの光り方だと思った。

同じ聖剣でもリリーが使ってる剣はそんな嫌な感じはしないんだけどな。

やっぱり敵意とかそういうのが関係しているんだろうか?


そうこう感じているうちに勇者君は『俺』に向かって突撃。

樹を放つ俺。

切り裂く勇者。

…やばくね?と思ったら『俺』は聖剣でざっくり切られた。


『痛った…?痛くないわ?ありゃ?』


見ると袈裟斬りに斬られ、鎖骨はどう見てもやられているはずの『俺』の方も全く意に介さず。

身体を斬ったままの剣を素手で掴み、そのまま勇者君を消し炭にした。


「う、うわあああ!」「勇者様が!」

「に、逃げろ!」「こら!逃げるな!逃げる者は撃つぞ!」


敵はもう軍隊の体をなしていない。

兵は我先に逃げ、それを統率するための将も腰が引けている。

逃げるな、前に出ろと口では言っているが自分はしっかり後ろにさがっている。

どうにもならない状況だ。


『うわあ…圧倒的じゃないか、我が…我が俺は?』


背後霊のような状態で見ている俺も名台詞でもボヤいてないとどうにもならんくらい強い。

もうずっとコレでいいんじゃないか?

そう思っていると、『俺』は門も燃やし、果樹園も火の海にしようとしている。


『あ、だめだめ、それはダメよ?待って?ストップ!ステイ!?』


あー、アカンアカン。

こらあきまへんで!俺の果樹園が!


『こら!俺!そろそろ止めろ!』


門を燃やし、果樹園を焼き。

敵軍が逃げていった方向に火をばら撒き、樹で作った槍の雨を何千何万と降らせた。


…そして最後には壁内の方を向いた


『おい!何やってんだ!止めろよ!おい!』


あろうことか壁に向かって火を放つ。

まだ怪我人は居ないようだが、このままじゃ。


『おいこら!止めろって!』


そうすると師匠とアフェリスが現れ、俺を止め始めた。


「カイト!よさぬか!」

「カイト、もうやめて」

『そうだぞ!やめろ!』

「もっともやせ!ぎゃははは!」

『アカは黙っとけ!』


ウチのアホドラゴンは『俺』が出してる火を見て興奮している。

もっとやれじゃねえだろアホ!


俺はアカの頭にポカポカと拳骨を降らせる。

一寸不思議そうな顔をしているが、何の痛手も感じないようだ。

すいませんね、躾のなってない犬で…


師匠もアフェリスもアカを全無視して俺を止めようとしている。

師匠は水魔法を身に纏い、俺に抱き着いて必死に宥めているようだ。

アフェリスは自身の火魔法で俺の出す火を抑え込んでいる。あんな魔法の使い方出来たんだな。

火魔法って燃やす一方かと思ってたがあんな使い方も出来るのだ。


そうこうする間に俺の出す火は師匠に火傷を負わせながら小さくなってゆく。

体感時間でおよそ10分。

師匠とアフェリスによって『俺』は鎮火され、背後霊のようにハラハラしながら状況を見ていた俺の意識も吸い込まれるように無くなったのだった。


<カイト・リヒタールが聖王の種を獲得しました。魔王、聖王どちらの種も獲得したので魔王の種は覇王の種進化しました。>

<カイト・リヒタールが覇王の種開花条件その1『敵国の種保持者を殺す、若しくは捕虜にする』を満たしました。>

<おめでとうございます。カイト・リヒタールの覇王の種は開花しました>



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