覚醒
師匠視点です
アーク歴1506年 壱の月
ヴェルケーロ領
マリラエール・ラ・ルアリ
待てと言っているのにカイトはどんどん先に行ってしまった。
私の騎乗している飛竜とて魔界でも選りすぐりの飛竜であるが、子供とは言えドラゴンに比べるとさすがに速度は劣る。
先ほどまで隣を飛んでいたカイトは町から上がる煙を見て我慢が出来なかったようだ。
アイツは大人びているようで全く子供のままなのだ。
「カイト殿!待たれよ!カイト殿!」
「良い、行かせてやれ…ギザルム、貴様らもだ。私を置いて先に行け」
「…ハッ。ラーナ、貴様の隊はマリラエール様の元に残れ。残りの者は先行するぞ」
「「ハッ!」」
3名を置いて先行する飛竜隊。
私も急ぎたいが、もう体が付いて行かない。
「情けない事だ…」
「姫様、御身が一番でございますよ」
「ラーナよ、私はもう無理だ。自分でもわかる…私が亡き後はカイトに仕えろ。大魔王様はもともと奴を指名していた。大魔王城の私の机と、このカバンの中に遺書がある。すまない、こんな役をやらせて…」
「姫様…」
私の体はもともと病を得ていた。
大量に魔力を使うとその病は一気に進行し…やがては死に至る病だ。
そして、大魔王様の『種』を継承したことにより病は加速した。
とはいえ、『種』の継承後にここまで大きな戦いも無く、魔物との戦いも此処近年は殆どなかった。
それゆえ今まで永らえていたが…
大魔王様に聞いたが、カイトの知る歴史では私は登場しなかったらしい。
つまり私は恐らく、大魔王様が亡くなる前、戦いが始まる前にに死んでいたのだろう。
何故まだ命があるのか。
それは分からないが…私のこの、先の短い命でも恐らくは出来ることがあるのだろう。
あるいは、為すべきことが…
「ああ、やはりか…」
ようやく町の全貌が見えてきた。
以前訪れた際に見た、外壁と内壁。
数千のモンスターが攻めて来ても備えさえ十分なら破られそうになかった堀のある外壁。
それが破られている。
そして外壁よりさらに強靭な内壁。
これほどの備えが必要なのかと首を傾げた壁も一部の門に敵が侵入しているようだ。
やはり防衛の人数が、そして指揮をする者が足りないのか。
カイトはその門の近くにいる。
倒れているあの巨人族は…ロッソ殿!?
ああ、彼ほどの者でも圧倒的に数に優る相手には…
「しかし…カイトだけでも脱出させねば」
この状況だ。
もう街が陥ちるのは避けられないだろう。
カイトは住民を見捨てるなどという事は出来ない。
大魔王様の後継者であるカイトだけでも、何とか。首根っこをひっ掴んででも何とか脱出させて。
そうして人族の侵攻を抑えて平和を…
「な、何!?」
突然辺りに溢れ出す魔力。
そして周囲に溢れる炎。
何らかの魔力が混じり合った、この感覚は…これは以前にリヒタールで…
「いかん!カイト!」
あれこそは『種』の真の力は神の欠片の覚醒。
大魔王様が無くなる間際に聞いた。
アレはいずれこの世界、魔界と人界の全てに破滅を齎す。
悍ましい神の力の―――