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ロッソ


包囲されて5日目。


昨日早くにマークス殿がこちらに来た。

敵の天馬を蹴散らし、包囲されている状況を確認した後は地上に降り、食事をして鎧姿のまま一眠りして。


そしてリヒタールへと帰っていった。

マークス殿のおかげで鬱陶しい天馬が片付いた。

帰る時一緒に飛竜を付けたのでそちらが大魔王城に援軍を要請してもらえると思うが…騎馬の方が早いかもしれんな。まあ何とも言えないところだ。

天馬共は物凄く邪魔だったが、空を飛べん儂にはどうにもできんかったから正直助かった。


マークス殿に天馬が蹴散らされたからか、段々と敵軍の攻勢は勢いが増してきた。

こちらが防衛に追われ、城外に奇襲をかけることが難しくなってきたのだ。

伝令が援軍を連れて来るのが確実となったからか、今日の攻勢は特に酷かった。


幾ら倒しても倒してもキリが無い。

汚い襤褸を纏い、錆びた槍を持った兵が城壁に挑んでは落ちて行く様は敵ながら哀れでもあったが…


あちらも相当に疲れていたはずなのだが、内壁と外壁の間の収穫前の食料を得て元気になったらしい。あんな青い果実やニンジンより小さい大根を我先にと食べる姿は敵とは言え哀れを感じる。

嘗ての飢えた魔族を見るかのようで少し同情をするが…


…が、あれを若が見れば物凄く怒るだろうな。

若の食べ物への執着ははっきり言って異常だと思う。


食に困った暮らしをしていた訳ではない。

魔界有数の貴族の嫡男なのだ。

欲しいものは何でも与えられるとまではいわないが、それに近い所ではあった。

なのになぜ?なぜ畑なのか。

何故馬ではなく牛と豚?それに米に対する異常な情熱は???


畑を荒らす害虫をひたすら踏み潰し、害獣を一日かけて追い回したこともあった。

あの食に対する執着は一体どこから来たのだろうか。




「敵の勢いが増してきましたな」

「そうですな。ここらで一つ、空気を変えたいところです」

「ならば討ち入りましょうぞ。今宵は小月のみ。打ってつけですぞ」


ウルグエアル殿はこの戦を楽しんでおられるようだ。

それはそれで結構。

怯み、逃げるような態度をとるものよりは余程良い。


「分かり申した。シュゲイム殿と交代の時間に軍議をしましょう。出るのは我ら3人のうちの誰かですな」

「我らのではならんのか?」

「いっそ人族の方が敵の同士討ちを招きやすいやもと」

「成程…さすがロッソ殿、策士ですな」

「いや…某の案ではありませぬ」


これは副官のミルゲルと以前に討議したことだ。

相談の結果、シュゲイム殿とウルグエアル殿が出ることになった。

上手く混乱させられれば良いが、そうでなかった場合…人族の者はシュゲイム殿やリリー殿のような一部はともかく、大半の兵は貧弱なので心配である。


ウルグエアル殿が第一騎士団から100、シュゲイム殿が第二騎士団から200の兵を引き連れ、夜襲をかける。敵軍のテントは日中こちらからも見えているので数か所に火を放ちサッと帰ってくる…予定だ。


夜半に出撃するシュゲイム殿を見送り、配置に戻る。

夜はあちらも静かだ。

静寂のみが支配する世界。

それをいずれあちら側が…『うおおおお』何だ!?


「ロッソ殿、西門が!西門から敵が!」

「西門…?いかん!情報が洩れている。シュゲイム殿に引き上げ用の合図を!」


合図として花火を打ち上げる。

ひゅ~ドンドンドン!


花火は一発なら前進、2発なら停止、3連花火は撤退の合図だ。

儂らがいまシュゲイム殿に出来ることはこれ位だ。


「儂は西門に向かう。他の門も守りを固めよ!寝ている者を叩き起こせ!」

「ハッ!」


何としても。

何としてもこのヴェルケーロを、若の作った街を守る。


「どけええええい!」


たどり着いた時には門の中には敵兵が溢れていた。

残った兵たちがなんとか押しとどめようとしているが敵の勢いが激しい。


その敵兵の群れに飛び込み、斬る。殴る。投げる。

使っている武器は迷宮で得た斧だ。

迷宮産の一級品とは言っても連戦連戦で切れ味はどんどん落ちている。

最早斧というより鈍器に近い。

鈍器で斬る。敵はつぶれる。コレはコレで良し。


勿論この身とて無事ではない。

槍が、剣が、矢が当たる感覚はある。

あるが―――


―――全く何の問題も無い。


雪崩込んでくる敵を捌く。

10人出会えば10人殺し、100人出会えば100人を殺す。

襤褸を纏った使い捨ての兵も、鎧を纏った兵も、軽装騎士も重装騎士も…関係ない。


「ウオオオオオオ!」


殺す。

ただ殺す。

畑を荒らし、若の領土を荒らし、住人を殺しに来た者たちだ。

幾ら殺しても構わぬ。


「撃て!味方ごとで良い!あの化け物を撃て!」


パンパンとうるさい音が鳴る。

音の鳴るおもちゃをへし折り、それらを使っていた者もついでにへし折る。


戦っているのが誰か、何と戦っているのか分からなくなってきた。

手は血で(ぬめ)り、目の前も赤と黒に染まっている。いやに視界も悪い。

その中で、やけに煌めく剣を持った者が見えた。


「そこ…よ!この……スが貴様…して……う」


何やら言っているがその内容も分からぬ。

そ奴は速かった。

斧をかわして間合いに入って来たかと思うと剣をふるわれた。


少し痛みがあったが、なんと言う事は無い。

動かしづらい胴を回転させ、相手を捕まえる。後は同じだ。

…捕まえて思い切り握れば人間もモンスターも砕けるのだ。


「ふぬおおお!」

「うあああああ!」


念のため何度か地面に打ち付け、柔らかくなったモノを門の外へと投げ捨てる。

すると見えていた敵たちはどこかへ行ってしまったようだ。


「疲れた…」


最早立っているのか座っているのかすらわからない。

有るのはただ疲労感のみ。

ああ、このまま寝てしまいたい。


「あ…ロ…!ロッソさん!待って!いかないで!」


見るとアシュレイ様が儂にかきついている。

いや、これはアフェリス様だ。姉上によく似ていらっしゃるが瞳の色が少し違うのだ。


「ロッソさん、待って。私が、私が!」

「アフェリス様…言葉が…治った、よう、で?」

「うん。ロッソさんのおかげなの。待って、目を瞑らないで!」

「儂はもう、眠くて…なり、ませぬ。」

「待って!待って!」


待てと言われても。

もう目を開けることも億劫なのです。


儂はそのまま、眠りに落ちた。

長く連載してきましたがここに来て初めてのメインキャラの退場になります…


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[一言] 貴重な裸マント枠は無事か?
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