開戦②
戦いが始まった。
のんびりのんびりと接近していた人族軍は砲の射程にまで来るとドンドンと打ち始めた。
思ったより数が多い。やはりカバンに隠し持っていたのだろうか。
だが、今回はこちらも同様の長射程の兵器がある。
おまけに日が有ったので取りに戻って補給もした。
コレで勝てる…?いや、それはフラグだ。アカンアカン。
ドッカンドッカンと撃ち合いになり、お互いの大砲を何個かつぶしたところで砲の撃ち合いは終わったようだ。あれだけ撃てば熱もこもるしな…。まあ向こうの方が砲や人の被害ははるかに大きい。
こっちは城壁と城門の被害がそこそこ出たというところか。決して無傷ではない。
そして上空では魔王軍の誇る飛竜部隊と人族の天馬部隊が激しい争いをしている。
「えーいくそ!」
「鬱陶しいなこいつ等!」
俺も一応ちょこっと参戦したが、俺が出ると鷲獅子も出てきてそいつらに追い回されることになった。
鷲獅子は飛竜より撃たれ弱いが、直線速度、旋回速度に優れる。
上昇能力も高い。
アカは火龍である。
成熟したドラゴンは飛竜の完全上位互換だがアカはまだ子供。人間で言うなら小学生くらいだろう。
飛竜と比べると火力ははるかに高いが、移動速度は大差ない。
つまりは鷲獅子に比べると速度でかなり劣る。
「うっとーしい!」
アカが切れ気味にブレスを放つもアッサリと避けられる。
「フレアミサイル!…くそ!」
追尾性能を持つミサイルを放つと空中に何かを撒いてそれに着弾して避けられる。
チャフか?いや、チャフはミサイルを攪乱するだけなんだっけ?
まあ追尾を防げるなら何でもいいんだ。向こうの用意の良さを褒め…褒めてる場合じゃないか。
それにしても、あんな物まであるのか。
俺はもってねえぞ!あわわ
「ストーンミサイル!」
「おわ!ツリーアロー!・ダブル!」
言わんこっちゃねえ。
飛んできた石弾をなんとか木矢で防ぐ。
今回の奴らはかなり精鋭のようだ。
前回はブレス一発で散り散りになってくれたからな…
「えーい!アカ!撃ちまくれ!」
「おー!がおおん!ぎゃおおん!ぬほーん!…ゴッホン!」
ゴッホン?は咽せただけだ。
アカはまだまだ仔龍だから連発はきつい。と言いつつ連発させた。
勿論その効果はある。
「そこお!アロートルネード・ダブル!」
突然のブレス連打に驚いたペガサスが3体固まる。
そういう所に範囲魔法を撃ちこむのは最高だ。
敵の動きを誘導して一気にボコる。サイッコーやな!
「アルサ!オルバ!…おのれ!よくも!」
グリフォンライダーが迫ってくる。
その手にはギラギラと光る長剣を…あかん。あいつだいぶ強そうだぞ?
上段から斬り下ろす長剣。
まともに受け止めるとやばいな。力負けしそう。
だがここは空中。そして俺より機動力の遥かに高いアカに乗っているのだ。
「アカ!下!」
「おー!」
ガキン!と俺の短剣に長剣が当たった瞬間、ワザと弾かれて下方に逃げる。
「おかえしだ!フレアミサイル!」
「ウオーターバブル!ストーンバレット!」
火弾は水泡に包まれる。
魔力は俺の方が強そうだが、火と水の相性の悪さがある。
アッサリと消化した後、追撃の攻撃がこちらにそのまま襲い来る。
「避けろアカ!」
「まかせろ!」
激しい上下動を繰り返しながら土弾を回避し、直接攻撃をかわす。
「ストーンミサイル!バレット!」
「ツリーアロー・シャワー!…うお!あぶねえ!」
土のミサイルは木矢の雨を降らせて迎撃したが、土の弾丸はすり抜けてくる。
危うく土弾を水龍鎧の籠手で防ぎ、一度距離を取る。
「ほう、良くかわしたものだな。名を名乗れ!」
「カイト・リヒタールだ!お前は?」
「グロード・エルタラーレ!覚えておくがよい」
「え?グロード…?」
「む?」
その名を聞いて俺は少し狼狽えた。
狼狽えた様子が伝わったのだろう、訝し気な表情をしている。
勇者グロード。
人間サイドで最強に近い騎士、だったはず。
アシュレイでプレイしてるとき、配下が戦場でコイツに出会うと敗戦、もしくは武将が戦死する事もある。
でもまあアシュレイならフルボッコにしてた。
まあアシュレイはしょうがない。
クソチート野郎だからな…
それはそうと、あいつ騎兵だったと思うけどなんでグリフォンになんて乗ってんだ?
「…お前騎兵じゃなかったのか?」
「ほう、良く知っているな。確かに騎兵だったがな…一昨年の侵攻でお前に空軍がボロボロにされ、砲が破壊されただろう。それで俺にグリフォンライダーになるようにと命が下ったのだ」
「なんだと…」
つまり俺のせい。
過去の俺のせいで現在の俺が苦労する…くそう!俺の馬鹿!
ちらりと周囲を伺うと、ギロンヌ殿たちもいい勝負をしているが押しきれてもいない。
そしてワイバーンもペガサスもへばってきている。
「ふう。まあ今日はここら辺までかな…」
「なに?」
「仕方ないだろう。お前らのペガサスもうちのワイバーンもヘタってきてるんだし」
「ぬ…」
「ギロンヌ殿!撤退するぞ!」
「…応!!」
「待てよ。撤退すると言って、俺たちがそう自由にさせると思うか?」
「思うよ…それ!」
懐から出したのは花火。それをグロードの上に向かって投げつける。
「どこに向かって投げて「…アカ!アレ!」
「おー!」
アカにブレスを吐かせ、俺もついでに矢をグロードに撃つ。
どうせあたらん。牽制用だ。
「礫か?どこに投げて…ぬお!」
花火を気にしながら矢を弾くグロード。
そしてその直後、かなり至近距離で爆発した花火。
ドオオオオン!と、ものすごい音だ。
空気がビリビリと振動し、繊細なペガサスは狂乱して乗り手を振り落としそうになる。
グリフォンはそれほどでもないがかなりビックリしている。羽ばたきも怪しい。
ワイバーンは…アカンビックリして目回してる。
アカは?
大丈夫だ。問題なさそう。
コイツは普段から爆発に慣れてるからな。
…普段から爆発に慣れてるって、冷静に考えたらどうなってんだうちの領地は。
「がはは!た~まや~!」
それどころか爆発を見て急に元気になり、ドッカンドッカンとブレスを撃つ始末。
まあグロードには防がれているが。
「お、おのれ魔族め!しずまれ、しずまれリシャウル!」
「おいアカ、遊ぶな。下がるぞ」
「おー!」
「じゃーなグロード!今回は引き分けって事にしといてやらあ!」
かなり不利な状況、たぶん続けてたらやられてた。
でも言ったモン勝ちよ!って事で引き分け宣言。
グロードの悔しそうな顔ったらないぜ。いい気味だ!
混乱する天馬隊を尻目に、アカを先頭に陣形を組んでフラフラしている飛竜隊を引き連れ、一度戻った。どうやら地上の方も一進一退のようだ。
俺はあっさり引き分けって事にしたけど、この戦は長引きそうだな…
補足です
マジックバッグは小中大とあり、小は術者のInt×1kg、中で×3kg、大は×5kg程度を想定しています。カイトは魔術師タイプでInt高めです。
カイトの場合Lv100でInt500程度、アシュレイのバッグは中なので1500kgほど入ります。
この世界だとLv1000を超える者はトップクラスの強さですが、その状態のカイトだとInt5000を超えて15㌧入ります。
マジックバッグ大は国宝級で、国に一つあるかって程度です。
つまり概ねこの辺りがこの世界のマジックバッグの限界値という事です。
大砲の重さは?と言うとこれはハッキリしないのですが何トンクラスの物が多いようです。
おまけに弾が重く…つまりカイトが心配するほど人族はマジックバッグで大砲を運べません。
グロードはレベル高めの万能型ですがInt2500程と考えています。
つまりはカイトが自覚無しチート野郎ってことが判明してしまっただけ。
今のところ描写はしていませんが小領主たちはカイトが物資をどんどん倉庫にポイポイするところを見て『ええ…?コイツ何なの…?やっぱリヒタールどっかおかしいわ』って思ってます。
そのうち閑話的なのを書いてもいいかなと思っていますが…