侵攻(される側⑤
「今回の侵攻なんですけど、飢饉で口減らしって側面もあるかも知れませんね」
「飢えた者を戦で殺して食い扶持を確保するという事か?人族とはそこまでするのか?」
会議はまだ続く。
敵が来るまでは暇なのだ。
布陣してしまえばあとはすることがない。
なのに兵を解散させるわけにもいかないから、無駄飯くらいの集団が出来上がる。
しょうがないから畑でも作らせようかしら。って今はそうじゃない。会議だった。
「えーっと、冷害が来ると思って対策が出来てれば色々やれることもあると思いますが…何もしていなければただ食べ物がなくて飢えるだけですからね。追い込まれてる人が暴動したり自国内で盗んだりする前に『軍に入って活躍すれば出世間違いなし』とか?その間の飯は面倒見る!とか言ったらご飯代だけで兵が出来上がるんじゃ?」
「それは…酷い練度になりそうだな」
「あー、そこはそうでしょうねえ」
そこらの山賊より酷い練度の兵が出来そうだ。
でもまあ昔の軍なんてそんなモンだったんじゃないか。と思っているけど。
「まあいい。で、距離はどのくらいだ?それと問題の砲はどのくらいあった?」
「飛竜隊の確認では、先頭は歩兵で3日程度の距離、砲は10以上はあったようです」
「…まあそうなるだろうな。マトモな頭の持ち主なら砲を多くする」
「でしょうね…あ、伯母上。ウチの領でも大砲をコピーしてみました。城壁の上に配置してみても?」
「ええ、それは勿論。そうね、出来れば一度試射してもらいたいわ」
「それは俺も見たい」「私も興味あります」
俺も俺も、となったので会議は中断して城壁の上へ。
これだけトップの人材がいれば土魔法の使い手くらい当然いる。
城壁の上に移動しながら片手間で説明しつつ、手伝ってもらって台座を配置し、落ちないように樹でクッションも作り…
「じゃあ打ちまーす!もう少し離れて~耳塞いで、口あけてー。いくよー」
ドガーン!
何やかんやで見物人が沢山いる中、砲弾は爆音とともに弾が発射され、的にしようと500mほどの距離に置いた戸板を大きく飛び越えた。
一応狙ったけどあんな小さいモン当たるわけねーべ。
「まあやっぱり外れたなあ。あ、皆さん大丈夫ですか?耳が聞こえない人?」
「キンキン耳鳴りはするが大丈夫だ。」
「耳を塞ぐ理由は今のでわかったが、口を開けるのはなぜだ?」
「さあ?俺も何となくそう聞いた気がするんですけど…目もつぶった方が良いんじゃなかったっけ?でも目つぶったら見えないし??」
やんややんやと質問の嵐。
撃ってみたいという人に撃たせてみたが、まあ当然戸板には当たらない。
あんまり1台を連射するのもアレなので何個か大砲を出し、皆に試射させる。
まあ当然だけどどれも当たらなかった。
むしろド素人が適当に撃って当たるわけがない。そう思っている。
「もうよかろう。会議室に戻るぞ」
「「応」」
もう少しやりたそうにしている者もいたが、練習は後でも出来る。とりあえずは会議だ。
「それにしてもすごい迫力だった」
「音がうるさいのは何とかならんのか」
「それより全く的に当たらなかったぞ」
「命中力は低いですよ。砲の形状は勿論ですが、火薬の量も質も、弾の大きさや重さも影響します。どれも一定にするのは難しいですし…まあ今の所は試作品ですからね」
興奮冷めやらぬ中、やんややんやと感想を言い合う。
会議の結果、今持ってる大砲は防備に提供することになった。
まあそれはいい。
伯母ちゃんと師匠の所から出向しているオズワルドさんが後で金払ってくれるっていうし。
連れてきた兵は砲の扱いにそこそこ慣れている者たちなので、彼らをうまく使ってほしいものだ。
ただまあ、注意してほしいことはある。
まずは相手の大砲は前回より改良されている可能性が高いという事だ。
まさか航空機まで出てくるとは思えないが、大砲は質、量ともに大幅にアップしていてもおかしくない。
なので、向こうの方が射程の方が長いかもしれない事。
それと、人相手に打つには当たんねえ大きな鉄球なんかより、小石がいっぱいとかの方が沢山の人に当たるし全体のダメージは大きい。でも射程は短くなるだろう、なんてことなどを説明。
それと、結局は砲を砲で狙うより、飛竜で砲を蹴散らした方が効率的かもしれんと。
それには皆が同意していた。
だって戸板と砲ならたぶん大きさそんなに変わんないけど、全然当たらなかったし。
狙って当てるなら魔法で石でも飛ばした方がはるかに良いんじゃないかって言われてたし。
撃った本人たちは必死に狙っても当たらない感が良く解ったと思う。
難しいんだよ実際。小さな大砲狙うなんて。
そして向こうが狙うのは城壁、城門、城内のどれかでいい。
ハッキリした戦果は得難いが、城壁だって数撃ちゃ崩れるだろう。
城門に当たればラッキー、城内は敵が大混乱する。
圧倒的にあちらの方が気が楽だ。
もし砲だけを前において、撃ち合いしろと言われたらこちらの方がはるかに被害が大きくなる。
砲と砲兵だけを狙って撃つとか無理だし。
だが、砲兵だけを前に出してくるなら歩兵で砲兵を蹴散らし、奪うだけでいい。
だから当然それを防ぐための周りに兵が要る。
という事はまあまあ適当に撃っても相手の歩兵に被害はきちんと出るという事だ。
じゃあまあいいか。
根本的に砲撃から身を守ろうとしたら、上空から砲撃の妨害をしたり、あるいは城壁を高くするとか、結界を張るなりして防衛したり。
あるいは騎士団の突撃で周りの兵ごと蹴散らすのもやはり有効だろう。
まさに砲火をかいくぐっての戦いになるが…敵が大砲部隊だけを押し出してくるならそれが一番いいけどな。まあそんなアホはおるまい。
まあでも、いくら飢えててやけくそで攻めてくるからって、向こうも何も考えてないはずがない。
彼らなりの勝算があるはずだ。
前回はたぶん実験のために来てたからあっさり引いたと思うが、今回は本気の侵攻に思える。
なら少々の事では退かないんじゃないか。
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