侵攻(される側④
アーク歴1506年 壱の月
リヒタール領
「戦争戦争、また戦争かよ!今年こそダンジョンだ!とか思ってたのに!クソ!」
「この戦が終わればと言った所でしょうか」
「何だってんだよな!こっちだって食い物なんか余ってねーっつーの!…そんなに。なあ!?」
「あちらは余程酷いのでしょうなあ」
イライラする俺といつも通りノンビリしたマークス。
ここはいつもの最前線、リヒタール領だ。
そして俺がいるのはかつて領主館の子供部屋であった所で…つまりは俺の部屋だ。
焦げていたところは奇麗に直っている。うんうん。そうじゃないとな。
今回はマークスと第一騎士団の100名がお供に。
ロッソとシュゲイム、ウルグエアルたちはお留守番という役割になった。
マークスは、というかマークスの家は古くからリヒタール家に仕え、執事をしている。
その繋がりで知り合いが物凄く多い。俺より多いのは間違いない。
んでこのクソ爺は記憶力も素晴らしい。
ジジイなのに全くボケていないようで、町の人の名前なんかもスラスラ出てくる。
リンダ婆の9人目のひ孫が結婚しただとか、カマラさんの息子の嫁が何ちゃらとか、ロラーヌさんの孫が大魔王城の採用試験に合格したとか?
そんな人間関係まで詳しく知っている。
何年も前からこの地を離れているのに詳しいものだ。
って聞くとチョコチョコ戻ってたんだと。ほーん?
「どうやって移動してたんだ?」
「おや?カイト様はご存知かと思っておりましたが…ヴェルケーロに飛竜の繁殖牧場も出来ております。貸し出しもしておりまして…」
ほーん?
またしても『ほーん?』である。
知らないうちに色んな工房が出来てるしお店も増えてるなあと思っていたが。
どうやらいつの間にやら飛竜牧場まで出来ていたらしい。
まあ俺はアカに乗せてもらうから必要ないっちゃないけど、そういうのあるならちゃんと報告してほしいよな。
「…飛竜牧場の件については報告書が届いておりますぞ?坊ちゃんのサインも有りますが…まさか記憶にないとでも?」
「エッ!?いや、そんな事ないっすよ。覚えてる。覚えてますよ!やだなあマークスちゃんったら…ははは」
「でしょうな。聡明な坊ちゃんが忘れるはずはないと思っておりますとも。」
「ナハハ…」
今回は師匠は出兵していない。
トップは伯母上だ。そして補佐についているのがベラトリクス魔王。
俺は補佐の補佐くらいの感じだ。
「かいと~女王がよんでるぞー」
「おう。行くぞマークス」
「ハッ」
会議の時間だろう。
まあ今回は気楽と言えば気楽だ。
3度目の侵攻であるが、前回とそう大差ないと聞いている。
気になるのは大砲の数だが、2年やそこらじゃそういくつも準備できまい。
ゴンゾに研究させているが、焼け焦げていたのもいくつか回収してそちらも調べている。
一番マシなのが俺が破壊しようとした奴で…台座がぶっ壊れて砲身が歪んで変なところから木が生えている大砲だ。
他のはアカがぶっ飛ばした奴だから砲身が折れたり割れたり、破損が酷い。
砲弾ももちろん回収した。
丸い、ただの丸い鉛の球だ。重くて破壊力が強いがまあそれだけである。
まあその調査の結果、ライフリングは無し、丸い砲弾で…つまりは初期の砲だ。
それ以上は俺にはわからん!
エーカー砲?とかフランキ?カルバリン?アームストロング?
何が何やらさっぱり分からん!分かるわけない!
いやまあ、分かることはある。
これが進化すると小さく軽くなって、持ち運びがしやすくなったり分解したり出来るようになるんだろう。たぶん。
んで砲弾が椎の実型になって、射程が伸びて…終いには当たると爆発するようになるんだろ?
そうだろ?合ってるよな??
戦艦大和に積んである砲はすごい大きくて何キロも飛んだとか??どうやって当てるんじゃろ?と思うが敵の射程の外からモリモリ撃てばそのうち当たれば倒せる。
船だからこちらは当たらないように離れながら打つとか…そういう事も出来るな。
汚い。さすが大人汚い。
「どうかしたかな?カイト殿」
「いえ、何でもありませんベラトリクス様」
「殿、くらいで良いよ。私と君とはそう立場に違いは無い」
「はい」
ボンヤリとまた考え事をしていた。
ベラトリクス魔王は俺に悪い感情が無いようで、そこは助かる。
ドレーヌのオッサンと領地も近いし仲もいいみたいだ。
そこからいろいろ話を聞いているらしいが。まあ仲良くしてくれるなら悪いことは無い。
「…揃いましたね。では相手の状況を報告してください」
「ハッ。敵は4か国の連合軍のようです。アルスハイル帝国、ウェズン共和国、エラキス教国、そして自由同盟連合の4か国ですな」
会議をするメンバーはアークトゥルス女王こと伯母上と、ベラトリクス魔王、それに俺と援軍に来てくれた有力諸侯が3名、それと今のリヒタールの代官をしているオズワルド殿。こちらは師匠の所の部下らしい。ほーん?そう言えば大魔王城で見たことあるような??
んで報告をしてくれているのはそのオズワルド殿だ。
「主導しているのは?またエラキスか?」
「そのようであります。」
「敵軍の数は分かるか?」
「アルスハイル帝国が約3万、ウェズン共和国が2万、エラキス教国が2万、自由同盟連合が5千と言った所です」
「こないだも攻めてきたってのに元気だなあ」
総勢7万5千か。
前回も5万くらいはいた。まあ大砲バンバン撃って駄目ならさっさと帰ったって感じだったからそんなに被害は無かったのかも?
でもそれにしても遠征はお金がかかるはずなんだけどなあ。
人的被害も…かなりあったとは思うけどね。
魔族と違って人族は数が多い。
人族の特徴は寿命が短く魔力や腕力は平均的だが、何せ増えるのが早い。
世代交代のサイクルが早いからドンドン増えて、ちょっと弱らせてもすぐまた復活する。
翻って魔族はどうか。
魔族とひとくくりに言っても様々な種族がある。
ゴブリンなんかは繁殖力旺盛だが、弱い。魔力も腕力も弱い。寿命も短い。
オーガは強い。腕力がすごく強く、魔力は弱い。繁殖力はそこそこ強く寿命はふつう。
純粋な魔族はすごく強い。魔力も腕力も強い。繁殖力は弱く、寿命は長い。
…とまあこういう特徴の種族が色々だ。
一概に比べらんないよなあ。
んでその分まとまりが弱く、集団行動をとり辛い。
足が速いのと遅いの、一緒に走らせたら纏まり辛いでしょ?
逆にいうと人族はそれほど身体能力に差が無い。そして数が多い。
勿論魔族から見ると、だ。
元人間からすると身体能力には個人差がめちゃくちゃ大きいように思うが。
「うーん?サイクルが早いからですかね?」
「ん?世代交代のサイクルか?まあ、そうではなく単純に前回、前々回と追撃であまり仕留められなかったからだろう。どうも頭のかなり良いのがあちらにいるようだ。追いかけていた部隊がいくつか駄目にされたと聞いている…ですよね?アークトゥルス女王?」
俺の質問に答えてくれたベラトリクス魔王…ベラさん。
そして伯母さんの方を見ると苦々しい顔をしている。
「そうだ。追撃したところで落とし罠にはめられただとか、囲まれて危なかったとか。地面が爆発したとかも聞いている。それでも何千かは討ち取ったのだがな」
「あちらは数は多いですからね」
「前回までは2か国同時に攻めてきていたが、今回は4か国だ。向こうも必死なのだろう」
そんなに必死にならなくても。
何ならあいつ等同士で戦えよと。
「どうも、あちらの教皇がかなりしつこいらしいな…迷惑な事だ」
「教皇が…面倒な事ばっかりしてくれますね」
「全くだ。まあ今回は飢饉の影響がかなり酷いらしい。魔界の方でも不作で苦しんでいる所もあるようだし…」
「ある程度支援しますとは言いたいですけど、ウチだってそんなに余っては無いですよ?」
「俺の所よりはマシなんじゃないかと思うがな。まあ我が領とて周りよりはマシという所だが…」
はぁ。とため息をつく。
見れば他の領主たちも疲れた顔だ。
そうだよな。冷害で食料確保に必死にならなきゃいけない時期に何で戦争なんかやってんだろってなるよな。まあ俺もそう思うわ。馬鹿らしいってな。
魔族ちゃんまた攻められてる…
って訳で忙しくてカイトはダンジョンに行けません。ちくしょー!