忍の鏡
ゴンゾの所で細い鉄の棒を作らせた。
そうしてガラス工房に戻り、棒の周りにドロドロに熱して真っ赤になったガラスを纏わりつかせて『ぶふーっ!』
なんということでしょう!そこには奇麗に膨らんだ…おっとっと、傾いた。グルグルして奇麗な円形に直して…『ふー!』膨らんだら後はタオルみたいなのとか!グルグルするのが楽になる台とか!?
…吹きガラスは普通にきれいに出来た。
言い方がおかしいかもしれないが、何の苦労も無くふつ~に出来てしまったのだ。
俺としてはもう一波乱あったりするかなと思っていたが、元々の技術が高かったみたいでアッサリと吹き、回し、最後にカンッと奇麗にはずして磨いたらはい出来上がりである。
職人たちは棒を吹くという工程だけ加わればあとは好きなようにガラスを弄り回した。そして俺の目で見ると完璧な造形を首を傾けてポイポイして次を作り始める。アカン。こいつ等もアカン子や。
ちゃんと微妙な作品も良い値段になるって事を躾けないと…
融けたガラスはぐにゃぐにゃの飴細工みたいで見た目は非常に美しかったが、すんごく暑かった。
ガッラたちは火魔法が非常に細かく調整できるようで、温度管理はバッチリな様子。
加熱も冷却も自由自在だった。
タオルもグルグルも最小限で好きなように形成が進む。
「なんだ、特に教えたり苦労したりすることがないな」
「良いではありませんか。何故残念なのです?」
「何となく。一緒に作ったった感が欲しいかなと。吹きガラスはワシが育てた、みたいな?」
「はあ…?」
マークスにはわかんねーかな、この苦労して何かを作り上げるっていう男のロマン感がさあ。
「ふふん。まあいいや。陶器の方はどうなった?」
「そちらも順調なようです」
陶器にもついでに手を出した。
というか口を出した。
白磁のような陶器が欲しかった。
美しく、均整でそれでいて薄く、華奢な感じの器を作ってみたかったのだ。
怖くて使えねえわと思われそうだが、こういうの多分人族の貴族は好きなんだよね。
元は土をこね回したもので金儲けてあっちのコメやら麦やら買い漁れば戦争なんてできないんじゃないか?と思うがどうだろ。無けりゃ奪えになりかねん野蛮さがこの世界だからな。
だがまあ最初のステップで躓き気味だ。
まず、土は何処にどんなのがあるかはわかんねえ。
磁器に必要な土と陶器に必要な土は割合が違うんだよな。
長石がどうとか粘土がどうとか。
で、釉薬がまた良く分からん。
分かるのは朝鮮から陶工を連れて来たってくらい?
なので、もっと別なものを作る。
「骨を用意してほしい」
「骨?でございますか?」
「ああ。ボーンチャイナを作ろう」
「…はあ。」
ボーンチャイナは簡単にいうと陶器の粘土に牛の骨を混ぜた物だ。骨の灰だったかな?細かいことは分からんがとにかく骨を使うと白くてきれいでおまけに強度まで上がるという不思議な品だ。
ヨーロッパ原産のはずだけど何でチャイナなんだろう?
俺にはその辺は分からんがまあフレンチトーストもアメリカンコーヒーも似たようなものである。
「という訳で牛にはこだわらん。骨の…おそらく骨の灰をいつもの粘土に混ぜ込んで焼いてみて欲しい」
「はあ…」
今度お願いしているのは日常用の陶器を作りまくっている者だ。ってかコイツ見たことある。
「お前…マリアの所の?」
「トゾオモと申します」
「ああ、成程。最近仕事はどう?」
「へえ。ご領主様のおかげで好きに作らせてもらっております」
「そりゃ大変結構」
聞いたのはそういう意味じゃないんだけど。
裏の仕事の方はどうなんだ?って聞いたんだけど?
「トゾオモの作る陶器は良い物は魔界各地の貴族や人間界の方へも売りに行っておりまして。おかげさまで大変好評をいただいております。そういう意味では誠に役に立っておりますよ」
「成程。ならいい」
マリアがフォローしている。
つまりこいつの工房で作った物の中で、普通のは民間にながして普通に売る。
よく出来たのは他領に持ち込んで売りつけ、見返りに情報や品物をゲットできるという意味だ。
素晴らしいじゃないの。良い産業を作って金を儲けて、おまけに情報までゲット。
言う事ないね。忍者の鏡だね。
そうやって褒めるとトゾオモは泣き始めた。
こんなに褒められたことないんだと。
俺は…俺はもっと褒めてやるからこういうの作ろうぜってボーンチャイナを勧めた。
無茶苦茶ヤル気になったトゾオモはぶっ倒れるまで徹夜して作業してたんだと。
いいけど…ほどほどにな。