予感
アーク歴1505年 参の月
ヴェルケーロ領
相変わらずの日々である。
人間界の侵攻はない。おかげで魔界の皆さんは平和を享受して今日ものんびりと日向ぼっこをしつつ、春の種まきをしている。
今年のヴェルケーロ領は例年よりかなり肌寒い。
冷害とか、そういうのはまだ経験していないが…現実でもゲームでも、冷害や台風による被害みたいなのは当然起こり得る。
酷いことにならなければいいが。
中世における戦争は口減らしも兼ねている。
人間が順調に増えると食糧増産が追い付かない。
農地を一気に拡大する術も無ければ、現代のような優れた肥料も無い。
おまけに水道もろくに普及していないので水やりにも苦労する。
という訳で農地を広げても作物の出来が悪い、悪くなりやすい。
土地を手に入れても収穫量を増やすことはなかなか難しく、天候や疫病、あるいは戦争などで少しバランスが崩れると飢饉になる。
飢えたら後は奪い合いである。
衣食足りて礼節を知るというが、食い物が足りなければ礼儀もヘッタクレもない。
我が子が餓えているのに隣の人がたくさん食べていれば。
自分の土地では領民が餓えているのに隣の領地では食料が豊富なら…奪うしかないではないか。という思考なのだ。もっと量産しろ、と言うのは簡単なんだけどな…
「あーやだやだ」
「どうしましたかな?」
「マークス、今年は寒いかもしれん。貯蔵の効く麦に蕎麦や稗粟それに豆、秋冬にはカブなどの作付けを増やすように。」
「ハッ。」
「それと、いつかやろうと思って忘れていたが、救荒用の蔵を作らんとな。年貢の1割程度をためておいて…ウチは年貢はお金換算か。今年は麦や米でもいいと伝達しろ」
「ハッ…もし冷害が無ければどうなさいます?」
「何も無ければ適当に食って、炊き出ししてもいいな。なに、残った分は多少値が下がろうが春に売ればいい。それだけの事だ。どうという事は無い。」
「畏まりました」
何も無ければ良いが、何かあった時の備えは当然しておくべきだ。
むしろ今まで何もしていなかったことが問題だ。領主失格だな。
さて、災害への備えはほかに何をすべきか。
台風は来たことがないが無いとも言い切れん。
ここは海がないから津波は無いだろうが、地震はいつ来てもおかしくない。それから火山の噴火だ。
噴火自体の死者はきちんと避難出来ればそれほどないと思うが、噴煙が撒き散らかされて作物が育たなくなるだろう。
これにはどうすれば良いだろう?
火山灰でアルカリになるんだっけ?酸性だっけ?
どっちにしろ土全部入れ替えればいいんじゃないかな?どこからって話もあるし灰は続々と落ちてくるだろうし…うーむ、wikiがあればなあ…
「ううむ…畑仕事以外は何もしない領主殿だと聞いていたが凄い物だ」
「そうでしょう。坊ちゃんは時折こうして指示を出されます。何やら悩んでいると思ったら急にです。それがまたピタリとはまって怖いほどです」
「ならば今年は冷害が来るという事でしょうか?」
「その可能性は高いのでは。我らも備えましょう」
「そうですな」
…悩んでいると向こうの方で俺を褒める声が聞こえた。
褒めてくれるのは良いが、今年冷害が来るかどうかなんて知らんぞ。
俺は今の気候が寒いから冷夏になると嫌だなあって言ってるだけで…
まあお救い蔵だけは作っておこう。
後は知らん。適当にやっといてくれ。
ふぇぇ…忙しくて短いよぉ…