小領主たち
アーク歴1505年 壱の月
ヴェルケーロ領
領土がドーンと増えた。
カニエラル領は平和的に融合し、ウルグエアルさんは俺の部下として働くことになった。
忙しくなったし、収入もどーんと増えた。
いい感じの開発を見て他の領の領主も同じようにしてよって言ってきてる。
良いことづくめのようだが…正直ちょっとやり辛い。
ウルグエアルさんも、他のみんなも全員俺より年も上だし、上司部下の関係ではなかったがまあ同僚だ。俺の爵位は親父やその前の爺さんから代々受け継いだ伯爵位になっているので、爵位自体は俺の方が上だが、魔王軍の中での位置も国の中での位置も向こうの方が上だったはず。
それが部下になった。なってしまったのだ。
な、やり辛いでしょ?
「まあそう仰らずに」
「良いではありませんか」
「我らのような小領主は他にも沢山おりますぞ」
そんなやり辛さを感じている俺の所にまた来訪者が。
アッサガ、オニッツ、ルーベットという3人の領主。
小領主というのだろう、男爵の3人の領地は狭い。元々のヴェルケーロ領より狭いような領地を何代も前の先祖が代官として納め、そのまま何やかんやで爵位を貰って領地持ちになったらしい。
魔界にはこういう領主が沢山いるんだ、ってマークスが言ってた。
彼らは配下に入り、土地を富ませたいと。
でもウルグさんみたいに完全に配下に入って丸投げするかって言うとそうでも無くってやっぱり先祖代々の土地を渡すのには抵抗があるんだって。
そう言われてもと思うけどな。小さな土地だし…
彼らの土地の大きさは日本一小さい香川県くらいかと思ったらもっとはるかに小さい。
一つの町くらいの領地だったり、もっと小さい騎士爵だと村一個なんてこともある。
そういう少領主がいっぱいいるのだ。それをまとめる大魔王城の内政管は大変だ。
リヒタール領はいい感じの平野が延々と広がっててとても開発しきれない程だった。
まあ開発した先は人界に繋がっているのであえてしないって所もあったが。
アークトゥルス領は山あり海あり平地ありの肥沃な土地で、バランスが良くて開発のし甲斐がありそうな土地だ。
俺が大魔王様に移されたヴェルケーロ領は人が居る所こそ小さな町と村の間くらいだったが、山がその向こうにひたすら広がってさらに鉱山にダンジョンまであって開発余地は鬼のようにある。まあだから大魔王様もお前そこやれよって移したんだろうけどさ。もうちょっとさ…
「まあ宜しく。内政についてはこのマークスちゃんが何でも教えてくれると思うよ」
「「「よろしくお願いいたす」」」
「承りました」
「主らも完全にカイト殿の配下になればよいではないか。その方が気楽だぞ」
気楽に声をかけるウルグエアルさんはロッソとマークスと一緒に稽古をしている。
この人は昔俺が大魔王様に話してる所を見て怒ってた事もあったが、すぐ近くの領地がどんどん発展しているのを見て考え方を変えたのだと。そして、明らかに自分でやるより領地の発展スピードが速いのを見て…もう丸投げしちゃえばいいかと思ったと。
そうすれば武に専念できる。
オマケに配下に加えてもらえばロッソやマークスと言った一流の武人と鍛錬が出来るじゃないか!って気が付いてしまったらしい。うーむ。それは領主としてどうなんだ…?
ガツンガツン、ドゴンドゴンとものすごい音を立てて戦う3人。
シュゲイムもあいつらに混じっているときがあるが、あのリア充は戦闘力では一段どころか二~三段劣る。
奥さんが魔法を使って強化してもま負けるってところだ。
ふふん。イケメンざまあである。まあ人族の将軍は束ねる者であって先頭で敵軍を蹴散らすものじゃないからな。大して問題はないとも言えるが。
リリーはどうかというと、普通に訓練で木剣を持たせたらこのメンバーなら一番弱い。
シュゲイムと戦っても腕力でまだ押される。
ところが勇者の力を開放し、おまけに王家に伝わる聖剣なんちゃらを持たせたらあの中でも一番強くなってしまう。3対1でも危ないだろう。
だがそうすると試合では終わらない、凄惨な殺し合いになる。
まあそんなの絶対やらせないが。
「そんなわけで俺はダンジョンに行こうかと思う」
「駄目です。今年は大人しく修行なさってください」
「…俺だいぶ強くなったと思うんだけど」
領地の追加タイミングは『ギフト』にぎりぎり間に合った。
ステータスは大幅に伸び…たと思う。
「ふむ、それは私を倒してから言ってもらいましょう。さあ坊ちゃん、かかって参られよ」
「マークス殿ずるいですぞ!さあ主よ、我を倒してから戦いに赴きなさい!」
「私は坊ちゃんのしたいようにすれば…」
「駄目です!さあ、我を倒してから…」
何でこんな流れになった。
マークスは去年の大半ほったらかしにしていた内政をどうにかしろと言いたいんだろう。
それは分かるけどウルグエアルさんはノリノリで我を倒してとか言ってしまっている。
ロッソはいつも俺の味方。
うんうん、頼れるのはロッソだけだ。
じゃあ、ちょこっと行ってくら!
「と言う訳でお仕事の時間です。さあ、こちらへ」
「あ~れ~」
言い争いをしているジジイ共の横をすり抜けて出かけようとしたが当然そんな事は無理。
あえなく捕獲された俺はあっさりとマークスに引きずられていくのだった。
こういう少領主を束ねているのが魔王。配下に命じて兵を出させたものが○○魔王軍。
さらに魔王を束ねているのが大魔王(不在) 同じく兵を出させたものが大魔王軍です
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