表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
209/391

試し戦

アーク歴1504年 玖の月


ヴェルケーロ領とカニエラル領の領境



「いいかー!これは試し戦である!でも気を抜いてるとポッコリ死んでしまうなんてこともあるからな!致命傷は避けるんだぞ!それから相手にも絶対止めを刺したりしちゃダメ!わかったか!?」

「「「おおおー!」」ぶっ殺す!」

「そこ!ぶっ殺すんじゃねえっつってんだろ!?聞いてんのか!!」


秋晴れの良い一日。

皆さんいかがお過ごしでしょうか。


さて、今日は僕たち『カイトとゆかいな仲間たち』はいつもとは一風変わった景色にいます。

麦も収穫して見晴らしの良くなった畑…を傷めないようにわざわざ雑木林を切り開いて作られた広場。その一角には観客席と思しきモノまであるのです。


石積みを重ねて作られた座席の中央には一人の麗しい美女が座っておられる。

黒髪の素敵な美女の名はマリラエール・ラ・ルアリ。

大魔王様の血を受け継ぐ魔界の有力者である。


まあ血を受け継ぐとか言い出したら俺だって混じってるみたいなんだけどね。

大魔王様ったら子だくさんだからね。しょうがないね。




色々調整した結果、武器は危なっかしいから木剣と木製の鈍器だけ。

それも出来るだけ致命傷は避ける方向で、試し戦(練習試合)をして勝ったほうに従うという事になった。

合戦の人数は300対300。


コッチはロッソを中心とした第一騎士団200とシュゲイムを中心とした人間主体の第二騎士団が100。人間兵は基本魔族兵より弱いが、第2騎士団の方にはリリーがいる。

魔眼の勇者である彼女はソロで裏ヴェルケーロダンジョンをクリアする強者で、さらに魔族特攻が付いて対魔族にはさらに3倍の力を発揮する。ハッキリ言って並みの武将なら勝負にならない。

魔王クラスじゃないときびしいだろう。


…まあぶっちゃけ師匠でも、もう負けるんじゃないか。

覚醒したアシュレイといい勝負しちゃいそう。

つまり俺なんか瞬殺されるだろう。

ちくしょう。



ウチにはそんな隠し玉がいるのだ。

負けるわけない。

向こうも本気じゃないみたいだし。


「それでは宜しいか、ウルグエアル殿!」

「こちらは何時でも良いぞ!リヒタール殿!」

「よし、者共、かかれー!」

「「「おー!」」」

「こちらもかかれい!カニエラルの力を見せてやるのだ!」

「「おー!!!」」


集団がぶつかり合う。

300という少数ではあるが、大きな体の魔族が多いので大迫力だ。


ドガン!ガゴン!ととても試し戦=練習試合だとは思えない音が響いている。

大丈夫かこれ?


終いには魔法もぶっ放している。おいおい。

俺は心配しているが隣にいるマークスは落ち着いた物だ。


魔王城から来ている審判役の師匠は一見落ち着いているようだが…


「おい、師匠暴れたがってるぞ」

「不穏な気配ですなあ」


落ち着いているようだが、よく見ると師匠の周りに陽炎のように魔力がふわりと浮かんでは消えている。

こりゃ後で特訓だとかって言い出しそうだ。


「早めに決着付けたいな」

「どうせ坊ちゃんは後で試合させられる羽目になると思いますが」

「やっぱそうかな…」


まあ俺もそう思う。


眼前の戦いは佳境に入っている。

中心部でロッソと互角に打ち合っていた竜人族の男性がついに降参した。まあロッソもいい感じで疲れてそうだからこれで撤収。

まだこちらは最終兵器リリーがいる。リリーさんの周りも敵軍が吹き飛び、うっかり近寄った味方もドッカンドッカン跳ね飛ばされてる。あぶねえなあ。


でもまあこれだけの戦いでもつい死んでしまうような粗忽者が出なくて助かる。

怪我なら即死以外はホイホイ治る回復魔法があるおかげだ。

頭部や急所はあんまり殴らないように、武具は木製だけ!これ破ったら失格!と細かく決めておいてよかった。


「よし!そこまで!双方よく頑張った!互角の勝負であった!」

「「おおー!」」

「と言う訳でウズウズしている大将!ウルグエアルとカイトの出番だぞ!」

「応!」「えー?」

「「「うおおおおお!」」」


両軍、ちょっとへばって来たところで師匠が終了を宣言した。

うんうん、良い戦いだった。

双方素晴らしかったです。まる。


さー撤収してバーベキューでも…

なーんて思ってたら俺とウルグエアルさんとが戦うんだって??

まあそうなるとは思ったけど…聞いてないんですけど!?って視線を送ってみる。

が、帰ってきた言葉は冷たかった。


「そういうしきたりだ。諦めろ。勝敗は関係ないから胸を借りるつもりで挑んで来い」

「はあ…」

「ファイトですぞ坊ちゃん」

「カイト様頑張って!」


応援してくれるのは有り難いが、それならおめーら代わりに戦ってくれよと言いたい。

広場の中央、先ほどまでロッソと相手側の竜人が戦っていた場所へと移動した。


「お手柔らかにお願いしますよ」

「手加減はせんぞカイト殿!」

「双方よろしいな?はじめッ!」


お手やわらかにっつってんのに、手加減はしないとの宣言の後、槍が迫って来た。


「おわっぷ!」

「あまいですぞ!」


槍と言っても穂先にタオルみたいなのをグルグル巻きにしてあって、師匠が確認したが殆ど殺傷力は無いという事だ。


でもそいつが唸りを上げて襲ってくる。

…正確には唸りを置き去りにしそうな速度で襲ってくるのだ。


「ぬおおお!」


コッチは回避に必死である。

頭の方に来た突きをスウェーで何とかかわす。

すると続けて腹に突いてくる。慌てて盾で受け流す。流しきれずに手が痛い。くそう!


このコンビネーションを繰り返し、時には薙ぎ払いを混ぜ、上段を、続けて下段をと攻撃を続けられる。おれはもう、なんかクネクネしながら避けるカカシみたいだ。

さっぱりこちらから攻撃できるような隙が無い。


「どうしたカイト!だらしないぞ!おれさまがボーしてやろうか!」

「やんなくていい!」


アカが近くまで来て応援?ヤジを入れてくる。

控えめに言ってうるさい!今それどころじゃないでしょ!


殺傷能力はないと言っているが、どう見てもこれをまともに喰らうと致命傷だ。

普通の人間がこれを頭に喰らえば頭蓋骨が粉砕し、腹に喰らうと内臓破裂待ったなしである。


まあレベルが上がり、防御力も上がった今の俺なら…ワンチャン頭にヒビが入るくらいで何とかなるかもしれん。つまりアカン。


「ぬえええい!そこじゃああ!」


何度目かの上下のコンビネーション。

上段をスウェーではなく、潜って回避し、そのまま懐へ。

その動きを見て中段突きを横薙ぎに切り替えたウルグエアルさん。

薙ぎ払いをジャンプしてかわし、伸びてきた槍の柄を盾で受け流し…頭上から短剣で喉に一撃!


「それまで!」


おっと、つい短剣を軽く刺してしまった。

止めようと思っていたが夢中になるとつい。

つーか木製の短剣なのに竜人の鱗を貫いて軽く刺さっている。

あぶねえ所だったな。


「ふう、良い戦いでしたな、カイト殿」

「ゼーッ、はあ。あ、ありがとうございました!はーっ、はーっ。ふう…」

「「うおおおー!」」「坊ちゃんナイスファイト!」「さすが領主様!」


息が完全に上がっている俺とすました顔のウルグエアルさん。

どっちが勝ったのかわからん。というかこれはアレじゃろ。

最後手加減されてたじゃろ。


「双方良い戦いだった。カイトは…分かっているな?」

「はい。ウルグエアル殿、有難う御座いました。勉強になりました」

「なんのなんの。リヒタール殿はまだ20にもならん若者。これからもっと伸びるでしょう。…おっと、これよりはカイト様と呼ばせていただこうか。儂も手勢の一人に加えていただきますのでな。我が領ともども、よろしくお頼み申す。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」


がしっと握手をする。

正直、手加減をしてもらっていたとは思う。


あちらからすれば途中で決められるタイミングは何回も有っただろう。

俺からすれば決死の突撃だったわけだが、それすら防ぐ方法はあったのではないか。

華を持たせてもらった感が拭えないが、まあ今回の立ち合いはそもそもお互いを知るためのようなもので。ウルグエアルさんは裏表のない武人だったという事だ。


まあ正直…裏で何か企んでたり、横から奇襲されたりするんじゃないかと思ってドキドキしていたとは言わない方が良いだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] カイトはもうそこらへんの魔族の武将よりは強いんじゃないかと思ってたけどワニさん普通にカイトより強いのね… それともワニさんが魔族の中でも猛者寄りって感じなのかね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ