帰宅銭湯
アーク歴1504年 陸の月
ヴェルケーロ領
「領主様!帰ってこられたので!」
「おう…ただいま」
久しぶりに領に帰った。
と言うか帰る羽目になった。
色々準備して言ったつもりだったが60層で危うく死ぬところだった。
ドンドン強くなるだろう敵。
どう考えても70層、そして80層の鬼のような(比喩ではない)強さを攻略できるとは思えない。
70層の水龍には全く相手にされずに放り出されたくらいだし…
うーん、いつ死ぬか分からんからこれからはちゃんと腕輪を付けておこう。
でも一個しかないからな。こういうアイテム使えない奴なんだよな俺は…
アシュレイを生き返らせるぞ!って意気込んでいった割に70層で帰って来た。
そんなわけでコソコソと帰ったのにすぐバレた。
解せぬ。
こそこそ帰ってきた俺だが、やけくそで久々に街を歩く。
住民たちは大歓迎である。
色んな店や通りがかったオッちゃんオバちゃんから野菜やら布やら肉やらを山のように…バッグに仕舞ったけど、山のように頂いてしまった。
「たっだいま~」
「お帰りなさいませ。駄目だったというのに元気ですな」
「おう。60層のボスは何とか倒したがな。やはり無理だった。気落ちしていたが領民たちが色々くれたから嬉しくなってきたのだ」
ここに来た当初はもともといた領民たちは目が荒んでいた。
子供に満足に食べさせられず、着る物もロクにない。
住居は隙間風が吹き…まあ昔ながらの魔族の暮らしですと言えばそうなんだが。
働いても少しも改善されない暮らしに苛立つ若者ともう諦めた中年たち。
それが今や、なんと言う事でしょう。
沢山の収穫物と工場で生産される衣服。
家だって昔の家とは大違い。
壁を2重にするだけで随分違うのだ。
壁と壁の間には断熱材を入れる。
だが、断熱材は何を選べばいいのか良く解らん。ウレタン?なんちゃらウール??うーん???
とりあえず腐らなさそうなものを入れてのなんちゃって3層構造だ。
それでも穴の開いた板切れが一枚あるだけの壁とは随分違う。
そうすると住民たちの荒んで殺気を放つような目つきは鳴りを潜め。
温和な魔族本来の?ニコニコとした…オーガやトロルたちだ。
うんまあ、言ってて違和感はある。
あるんだけどな。
「坊ちゃんの居られない間に色々ありました」
「おう、報告を」
「夜にはカラッゾ殿が参られる予定です。とりあえずはそれまでに風呂でも如何ですかな?」
「素晴らしい提案だな。じゃあ銭湯の方行ってくるわ」
「行ってらっしゃいませ」
町の銭湯へ向かう。
言うてリヒタールの湯1号館は領主館から出たら徒歩1分である。
近い。
考え事をする間もなく銭湯に付き、おいすーと声をかけるだけで顔パスで入浴開始。
昼間なので誰もいない。
初夏だが、ここはやはりまだ少し涼しい。
領民は収穫に建築にと忙しく働いている。
そんな中、昼間っから一人で銭湯を楽しむ。
うむ、領主とはすばらしいイキモノである。
ほへえ~と風呂を堪能する。
いや、ゆっくりしていてはイカン。
予習復習をするのだ。
まずは道中。
思ったよりソロは疲れた。
敵が出ない階段で寝れば、問題はない。だがやっぱり一人じゃ寂しいな。無人島に漂着したりしたら飯や水が確保できても孤独でおかしくなるんじゃないか。
それから、もう少し移動手段をどうにかしたい。出来ればバイクが欲しい。
まあエンジンの開発からになるし、ガソリンは…むりくせえな。
ゴンゾにお願いしてみてもさすがに無理だろうなあ。
となると馬に乗るのは多分アウトだろうし、自転車か。
タイヤがどうにか出来れば何の問題も無く作れそうだが…
次に、ダンジョンのモンスターについてだ。
雑魚は全く問題なかった。
たぶんこれからも同じで、問題が出て来るとすればボスモンスターくらいだろう。
60層のマンモスは何とか倒せた。
かなり危なかったがな。
でも50層の金カブトに60層のマンモス。
其々明らかにパワーアップしている。
70層のボスは水龍だった。
どうにもならなかった。火力不足がなあ…
「まあとりあえずは火力だな」
「龍は手ごわかったですの?」
「うん。あの水龍は今の俺じゃ…うぇええ!?」
そこにいたのは辛うじてタオルで大事なところだけ隠した状態の…半裸のマリア。
ちょ!ちょま!
「ちょま!」
「あら、逃げなくても良いではありませんか。今なら誰も邪魔は入りませんよ?どこまでもお楽しみできます」
「どこまでも!?」
「そう、どこまでも…ですよ」
ゴックン、とツバを飲み込んでしまう。
思わず視線がマリアの豊かな上のほうや引き締まったりプルンとしてたりする下のほうを彷徨うが、あちらの方は俺の視線ぐらいは分かっているだろうになにやら『ふふっ』と笑っているだけだ。
ふー、だめだ。落ち着け。落ち着け俺の一部。おちつ…
「ダメッ!エッチなのはいけないと思いますっ!」
落ち着かない一部のおかげで走りづらいが、何とか早足で風呂から逃げ出したのだった。