試射②
アーク歴1503年 肆の月
ヴェルケーロ領
「帰ったぞーい」
「かえったぞー!」
「お帰りなさいませ、カイト様。アカ殿。」
リヒタール領防衛、追撃戦のほうは最後まで見てない。
俺はバタバタと後始末をして、今後の事も色々と話し合った。
取りあえずの急務としては途中まで開発していた銃器と、その技術を用いた大砲の開発である。
敵の武器を防ぐにはまず同等の武器を作り、どういう者かを知らなければならない。
『敵を知り、己を知れば百戦すれども危うからず』である。
まあ彼我の事を知ってれば必ず勝てるって意味ではない。
クッソボロ負けはしないよって意味らしいが。
銃器の開発は一応行っていた。
中世で戦争がある。となれば、現代日本人なら誰もが火縄銃の開発を考えるだろう。
銃は戦争に革命を齎したと言っても過言ではない。
では主にどの部分が革命的なのか。
威力か?それとも射程か?
答えは手軽さだ。
弓や槍を一人前に使えるようになるには子供のころから何年、何十年もの鍛錬が必要である。
だが銃を使えば素人がその鍛錬した武者を殺すことが出来る。
それも女子供でも、ちょちょいと訓練すればそれでいいってくらいなのだ。
そりゃあ弱点が多くて金もかかる。
銃の欠点を挙げればきりがない。
特に火縄銃時代は。
が、戦いは数だよ兄者。
金にモノ言わせて素人をいっぱい集め、高い銃と火薬を使わせれば…玄人の集団もあっさり倒せてしまうのだ。
という訳で応仁の乱以降、長く土地を巡って争っていた戦国時代を終わらせたのは金の力だった。
翻ってこの世界で火縄銃はどうだろう?
果たして巨人族に大して火縄銃はどれ程の効果があるのか?
魔法でエンチャントされた鎧には?
元の世界で銃が有効だったのはあくまで人間が相手だったからだ。
敵対しているのがガ○ダムのような巨大な金属の塊ならどうか?あるいはスライムのような物理攻撃が著しく効きづらいイキモノなら?ドラゴンのような強靭な鱗なら?
…上位魔族や勇者のように常に全面にシールドを張り巡らせて戦うような化け物なら。
まあ効くわけない。
せめて対物ライフルやロケットランチャーのような威力やガトリングガンのように連射できるなら兎も角、豆鉄砲では厳しいだろう。
という事で積極的に火縄銃の開発はしなかった。
そう思っていたが、大砲は城門を崩すのにかなり使えてしまうことが判明した。
正しくはエンチャントによって強化された城門部分ではなく、土を盛った城壁部分との境目が特に脆いようだ。
アレも総石垣とかにすればまた変わるんだろうけど、残念ながら土を盛ってその周りをペタペタ固めただけである。耐震性とかで言えば『0てん』間違いなしの代物だ。
とは言え土の厚みを分厚くすればただの鉄球を飛ばすだけの砲撃にはそこそこ耐えられるだろう。
やっぱり弱いのは城門か?エンチャントが効いているとは言っても限度があるようだし。
魔術的な攻撃と物理的な破壊力を絡められると厳しいだろうな。
やはり力こそパワー。
重さと速さで倍率ドン!さらにドン!なのだ。
まあ実際の所城門や城壁の防御力はともかく、壁を飛び越えて飛んでくる弾にはどうしようもない。
町の建物全部を強化するとか住民が球をバットで弾き返すなんて無理もいい所だ。と思う。若干やりかねないのもいるが。
という訳でゴンゾに相談だ。
「…という訳でこういうの作って。」
「またですか?そう言われても儂も手持ちの仕事が…」
「おねがいゴンゾちゃん!君だけが頼りなの!」
「…しょうがないですなあ」
よっしゃチョロイ!
このカイト様の美しさにかかればこんなモンよ!
ってまあ冗談は置いといて。
ゴンゾは以前に殆ど銃を完成させていた。
鹵獲したフリントロック式の銃を見た後で真似して一丁作っていたのだ。
それなりにまっすぐ飛ぶものが出来ていて、それを俺のカバンに放り込んだままにしていたのだ。
リヒタール領主館で師匠と伯母さんに見せたやつだ。
火薬については実は問題ない。
炭はそこら辺にいくつもあるし、ここには火山で硫黄も腐るほどある。
で、肝心の硝石は農家の必需品である堆肥を作っているスペースの奥の方に実は硝石丘も作ってあり…ヴェルケーロに引っ越してきてから今までず~っと作り続けていた。
これだけはいざ必要になってから作っても何年もかかるから、そのうち使うかも、使う日が来なければいいなと思いつつずーっとやってた。
硝石そのものが掘れれば楽だったのだが、俺が硝石が含まれる鉱石はこれっていうのも知らないし…
そもそも硝石がどれで何ってのもよく知らない。
ゴンゾが知ってるのは硝石そのもの、俺が知ってるのはラノベで読んだ作り方。
混ぜ合わせて硝石抽出完了と言う訳だ。
という訳で黒色火薬は今すぐにでも作れる状況になっている。
本当はこんなモン使う気はなかったんだけど。相手が使ってくるならしょうがない。
つーかこのままいくとウランを濃縮する方法なんかも研究した方が良くなるのか?
うーん、さすがにいくら転生者でもそんなモン知らないと思うし、知っててもやらないとは思うが…
まあ良いか。
所詮は大砲にライフリングすらないような技術力だ。
前世で大砲から核兵器まで何百年かかったと思ってんだ。
いくらクソチート野郎がいても基礎科学ぜーんぶすっ飛ばしてそんなモン出来るワケねえ。と思いたい。
「うんうん。という訳でゴンゾちゃん、がんばってね!」
「はあ…」
という訳でゴンゾはあっと言う間に大砲を作った。
いわゆるライフリングの施されていない滑空砲である。
んで、土台はとりあえず土を盛って、火薬の調合も前にチョコチョコっとやっていたので…
「発射しますぞ」
「おう!」
俺らは退避。
タマを入れ、導線に着火。
暫く待つとドンッ!という音と共に前にカッ飛んで行く弾とボンッと後ろに飛んで行く砲身。あちゃあ…
「…うわあ」
「…しまったのう」
山に向かって飛んでった弾はともかく、砲身の方が心配だ。
「やっぱり土台はちゃんと作んなきゃだめだな」
「そうですな。銃と同じ程度と考えた儂がアホでしたわい」
やっつけの土台は木でホイホイと組んでその上にポンと砲を置いただけだった。
うむ、さすがに無理だったか。こんなモンでいいかなと思ったんだけどな…
とりあえず砲身は表面に傷が入っただけでどうという事は無いと。
まあよかった。
「向こうの奴らが使ってたのは車輪を付けて支えつけて…こんな感じにしてたぞ」
地面に絵を描いて説明する。
「ほうほう。なるほど、摩擦で勢いを消せますな」
「あー、ちゃんと固定しないところもミソなのか。」
なるほどなあ。
よく考えて作ってあるもんだ。
…何も考えずに固定も無しでぶっ放した俺らの大砲は後ろにスッ飛んで行ったからな…
「真後ろに立つのは厳禁だな」
「ちゃんと土台を作っても危ないですからのう」
バックなんちゃらで近くにいた兵が怪我したとか?聞いたことある。
アレはバズーカか?ダメだ分からん。
とりあえずは君子危うきに近寄らずである(違
よく知りませんでしたが、バズーカではなくミサイルランチャーあるいはロケットランチャーと呼称するようです。後ろに火が出るのはバックブラストと言うらしいですね。
カイトは詳しい名前なんか知らないのでバズーカがドーンすると後ろに火がぶわーする、ってくらいの感覚です。大砲の試射時もその事を知っているので念のため横から見ています
それと、大砲から核兵器まで何百年~のくだりですが、正解を知ってれば作れるだろうなとは思います。ただし実験に失敗して研究所や工場が『○○研究所跡』になる可能性も…