本業
時間切れを考慮してダンジョンから帰り、師匠に相談した。
やっぱりアカには特に武具や防御力を上げるための防具はいらないかなと言う結論に至った。
師匠に相談しても、防寒も防暑もドラゴンには必要ないだろうって事だし、ちょっとしたお守り的なアクセぐらいしか効果が無いと。
混乱や沈黙、睡眠に麻痺に気絶耐性。
それから自然回復が向上するようなアイテムやアクセサリーあたりだ。
ただし、武器…この場合爪は特定の敵に対しては効果的なんだと。
例えば俺らが苦手な火属性の敵に対して水龍の爪を付ければよいと。
なるほどなるほど。じゃあ水には?って聞くと純粋な水属性には特に効果的な属性が無いんだと。
土や雷がダメージを与えやすい属性らしい。樹は特にあんまり効果が無い。樹は特殊属性扱いのようでどれに対しても大して有利でもないって事になってる。なんとなくしってた。野菜以外に使いづらいんだもん。
「それにしてもアカに付け爪だってよ。オシャレさんだな?」
「おしゃれ?そうか?」
ネイルサロンに行って青いビームでびびびっと爪を改造するのだろうか?
な訳なかった。もっと凄かったのだ。
「引っ付いたな…ちょっと気持ち悪い」
「おれもいやだ。はがして?」
「折角付けたのだからダメに決まっているだろうが」
嫌がるアカだが師匠には勝てない。
無理矢理右手の爪に押し付けられた水龍の青い爪はアカの深紅の爪の上に重なるとその一本の爪だけ青くなった。いや爪の右半分が赤、左半分が青だ。なんかちょっと昔のヒーローみたいで…まあはっきり言うとちょっと変。
「いやあ…カッコいいぞ?」
「ホントにそうおもってるのか?」
「カッコいいですよね?師匠?」
「うむ。深海を思わせる深い蒼に燃え上がる炎のような深紅だ。またアカ殿も格好良くなったな」
「そうか?でへへ」
(チョロイ)(チョロイな)
師匠と二人、目を合わせる。
思った以上にチョロイうちのドラゴンに少し不安になるが、まあ子供は素直な方が良いってばっちゃが言ってた。
「よし、これで…あとは俺の装備もなんかほしい。良いの無いっすかね?」
「色々ありますよ、カイト様。こちらは水龍の牙を用いて作られた剣で、こちらは雷獣の尾を用いて作られた…」
ちょっと聞いてみたら宝物庫に連れて来られ、前にも顔を合わせた財務官僚のザイード氏がおすすめを紹介してくれる。うむ、強い装備だ。
だが、見事に全部高かった。
クソ!
装備が弱いとどうしても効率が下がる。
仕方ないので俺は一度領地に戻り、裏ヴェルケーロのボスである水龍がドロップした装備からどうにか武器と防具が出来ないかと鍛冶屋というかすでにウチの開発部長であるゴンゾに相談に行ったのだ。
「そりゃ出来ますぞ。」
「出来んのか…そりゃそうか。何で俺もそこに気が付かなかったんだ」
「むしろ何で声がかからないのかと不満に思っておりました」
「ご、ごめんなさい」
何のために水龍の牙や鱗が売れると思っているのかとむしろゴンゾに怒られる始末だった。
コイツには新しく開発する仕事ばっかりさせて、本業である武器や防具はほとんど作らせてなかったからな。
そりゃそうか。
俺は金に換えることばっかり考えて、自分の装備にしようなんて感覚まーったく無かったからなあ。
モンスター倒してそのドロップ加工して戦うゲームやってたじゃん。
逆鱗出ねえって言ってたのに!
最近のはヌルゲー化が進んでてすぐドロップしてつまんねえとも言ってたじゃねえか!俺!
「まあ頼む。剣と防具も一式作ってほしい。材料はどのくらいいる?これからマラソンしてくる」
「水龍の材料ならありますぞ。」
「ほー?俺たちの出したので作れるんだ?」
「いえ、別件ですな」
という事は俺とアカと師匠以外にもヴェルケーロの裏ダンジョンを攻略できる猛者がいるという事だ。ほーん。良い事聞いた。
「誰だ?ロッソか?シュゲイムか?」
「誰だと申されても。…リリー殿です」
「リリー?誰だ???」
リリー?そんなのいたっけ?
俺はてっきりロッソが兵の調練やら警備の仕事をサボって狩りに行っているのかと思っていたのだ。
まあ俺はしょっちゅう本業をサボって狩りに行ってるんですけどね!