群体
アーク歴1502年 伍の月
ヴェルケーロ領
「師匠ちわーっす!」
「ちわー!」
「よく来たなカイトよ。最近の貴様の所は祭りだなんだと羨まし「じゃあダンジョン行ってきまーす!」おい待て!話の途中だぞ!私も…ズルいぞー!」
待ちませーん。
最近の師匠は小言が多いのだ。
年取るとやーねえ、小皺と小言ばっかり増えて…なんて言えば血を見るどころじゃないだろうから絶対に言わないけど。
という訳で尊敬する?師匠を華麗にスルーして久遠の塔50層へ。
前回はこの50層のボス部屋でフルボッコにされ、『身代わりの護符』を使って脱出した。
身代わりの護符は1枚1000万近くするクソぼったくり価格だ。
ゲームだとダンジョンで死亡しても次のターン何もできないだけだった。
死亡じゃなくって怪我で寝込んでるって扱いだったんだろうな。
んで、護符があればその1か月分のお休みを回避できるのだ。
ただ1ターン休みを回避するために1000万は高いので、ダンジョンに突っ込んで死んだらリセットするユーザーは多かっただろう。まあ俺もそうだった。
でもコッチじゃそうはいかん。
ダンジョンで死んだら1ターン休みなんて生ぬるいもんじゃないだろう。
恐らく永遠にお休みになるはずだ。
という訳でアカの分と合わせて2枚、2000万を支払って身代わりの護符を購入し、俺は50層に来た。
装備は前回と変わっていない。
変わったのはレベルと『ギフト』による補正だけ。さあ、これでどうなるか。
「こんどはまとめてもやす!」
「頼むぞ、アカ!」
俺も強くなったとは思うが、なんせ相性が悪い。
もっと強い装備やスキルがあれば、と思うが今買えそうなのはこれが限界。
これ以上高い装備を買おうとしたら借金地獄に陥るだろう。
なので、是非。良い装備がドロップしてほしい!
「行くぞおお!」
「おー!」
目を$マークに変え、俺はボスに挑む。
ボスは当然前回と変わらず変わらず、群体だ。
真ん中に一人偉そうな赤みを帯びたカブトムシもいるが、アレを倒しても第二第三のカブトムシが現れる。
あいつは全体に指示を出しているが、近代の軍隊でいう所の将軍だ。
中世では軍の大将を討ち取ると大混乱になって軍は崩壊する。
日本でいうと桶狭間の戦いがいい例である。
近代の軍ではそれを防ぐためにトップが倒れればNo.2が、No.2が倒れればNo.3が、という風に指揮権の引き継ぎがなされる。
この虫野郎どもは生意気にも人間様が苦心して築き上げた近代軍隊と同様の指揮権の委譲を使いこなしているのだ。
「どりゃああ!くらえ!」
アカの火球がトップになっているカブトムシとその周囲を討ち取る。
一瞬だが、固まる群体。
「そこっ!アローストーム・ダブル!」
群体の中央を火球が通り過ぎ、回避するために左右に分かれた虫たち。
その左右の群れに矢の嵐が襲い掛かる。
「「ギギイイイ!」」
「よし、今だ!」
「くらえ!(ドンッ がおーん!(ボンッ」
「フレイムミサイル!」
矢の嵐に頭を抑えられ、動けなくなる虫の群れ。
そこに左側にはアカの火球が連発され、右側には俺の火魔法が襲い掛かる。
再び大爆発。
だが、上手く連携して爆発から逃れた虫たちがこちらに襲い掛かってくる。動きはスムーズなので2番目の司令塔は仕留めそこなったようだ。
「来るぞ!防御!」
「ふん!」
シールドに隠れる俺、アカは目を瞑ってブンブン腕を振り回す。
「いててて!」
「おりゃおりゃりゃ!」
すごく痛い。
腕に縛り付けてある盾は何発も体当たりを喰らってズレていくし、盾に隠れ切れてない体には虫がガンガン当たる。装備のおかげで貫通して体に刺さったりはしないが、衝撃が凄い。
防弾チョッキがあると銃が肉に喰い込まないけど肋骨はやっぱり折れる、ってのと同じ感じだ。
肉を貫通し、骨を砕こうかという衝撃を受け止めるてしまうのだから…やっぱり俺の体重じゃあふっ飛ばされそうになる。
一方のアカは鱗が硬いから目だけ避ければ問題ない。でもやっぱり衝撃は痛くて後ろにズルズル下がっている。
「見えたぞ!そこだ!フレイムボルト!」
すれ違いざまに一際目立つ個体がいた。
何故か昇格した個体は目を引くのだ。勲章でも追加されているのだろうか。
狙いを定め、司令塔に向かって火矢を放つ。
「ギッ!」
「当たった!今だぞアカ!」
「まかせろ!」
上手く当たった火矢により司令塔カブトムシが落下。
そして指揮権委譲の際に一瞬固まる群体。今こそチャンス!
「おらおらららー!」
「どっせーい!」
2番目の司令塔を俺が倒し、アカはまた群れを減らした。
もう群れは最初の半分くらいになったか。
既に指揮権は3番目に委譲され、群体として動いているが弱体化は明らかだ。
よし、後は消化試合だ。
サブタイのルビは群体(軍隊)って感じに振りたいんだけどやり方が良く解らない。