表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/391

お財布事情

アーク歴1502年 参の月


ヴェルケーロ領



先月の武闘会は無事に終わった。

優勝は下馬評通りにロッソだった。


巨人族のロッソの前にあらゆる抵抗は無意味だった。

素手の戦いだが、魔法を使うことも許されていたので当然力で劣るものは魔法を使った。

だがそんなものは関係ない。


分かり切っていた物理攻撃力の高さ、当然のように備える物理防御力の高さと…意外にと言っては失礼だが、高い魔法防御力でロッソは他を圧倒。

ベロザを下して決勝に勝ち上がったシュゲイムは魔族の苦手な聖属性魔法と鍛えられた肉体を駆使

して戦ったが、攻防ともに優れ、おまけにスピードまで早いロッソの前にロクにダメージを与えられず。



最後は投げからの抑え込みでロッソが勝利した。

イケメンシュゲイムがなすすべなく押さえつけられ、色んな種類の歓声がその時上がっていた。

きっとお互いの健闘をたたえているだけだ。

そうに違いない。


しかし、ロッソの巨体に抑え込まれたら俺もどうしようもない。

今後は抑え込み30秒のルールを変えるべきか?それとも体重別にするべきか?


格闘において体重差、体格差は大きなハンデとなる。

分かってたけど魔法アリにした時点でそうでも無いかな?と思ってたんだが。

ベスト8まで勝ち残ったのはシュゲイムだけが人族で、あとは魔族の巨人種だった。

うーん。検討の余地アリだなあ。


「マークス、次からは種族別とかにするべきかな?」

「もしくは武器解禁でしょうな。そうすると死人が出そうですが」

「たかが祭りで死人なんぞ出て欲しくない」

「仰る通りですな」


という話が反省会で話された。

そしてその結果、また夏に今度は体重別でまた武闘会をすることになった。

いうて中・小と無差別級の3階級くらいまでしか分けない予定だけど。





お祭りの話はまあ置いといて。

参の月になったという事は本格的に畑と田んぼを頑張る時期になったという事だ。

人も増えたし必要になる食料も増えた。そうすると耕作面積もどばーッと増やした。

増やさざるを得ん。



具体的には田んぼと小麦畑がそれぞれ3倍に、野菜関係はトータルで5倍に、果樹園も3倍に拡張した。

ただまあ、米、小麦、野菜はともかく果樹園はいきなり増やしたってどうにもならん。将来の投資もいいところだ。

桃栗三年柿八年。リンゴとミカンは一体何年なんだ??


「若が魔力を注げばよいのでは?」

「あの量にか?」


野菜の種を持って来れば開花はさせることが出来る。

苗を売っているポットが前世に有ったが、まあ似たようなものかな?

木箱に土と種を入れてある物に魔力を注ぎ、カイト印の苗を作る。

それを売る…なんてことはしない。領民にはタダであげる。

だっていっぱい取れたら税になるわけなんだから苗の段階で金取ってもしょうがない。


行商人もさすがに苗を買おうとはしない。

運んでる最中に痛んじゃうし、土ごと運ぶ必要があるから結構重いのだ。


でまあ、領主館の近くなら果樹園にも畑にも、時々見回ってやばいと思う所には魔力をぶっかける。

問題はちょっと散歩程度で見回りに行けないようなところだ。

麓の村の田んぼくらいなら兎も角、飛び地になっている元ドレーヌ公爵領の方なんてちょっと視察に行こうと思ってもなかなか行けない。代官を呼びつけるのもどうかと思うし。


その点では祭りのようなイベントは悪くない。

遠方からも来やすいし、呼ぶ理由にもなる。

木々の調子が悪くてもどうしてもすぐに処置しないといけないなんてことはそう滅多にないし。

とは言っても…


「飛び地の作物もたまに見に行きたいな」

「そうですな。出来栄えをわざわざ見に来ていただいたとなれば領民も励みになるでしょう」

「そうだといいけど」


前世の俺なら上司が作業の途中で見に来たら怒られないか心配になること間違いない。

あー、でもいい出来だって褒められれば素直にうれしいか。

頑張ろうって気にもなるかもしれん。

うん、そういう事か。


「ちょいちょい領内を巡回してもいいかもな…でもそうすると帰ってきたら書類が積まれてそう」

「ありそうですな。目に浮かびますな」


俺の目にも浮かぶよ。

そう考えると出かけるのも嫌になる。


「でもまあ、視察は重要だ。という事は、やはり文官を育てるべきだという結論に至るなあ」

「学校の方は順調だと思いますが」


初年度に開いた学校のおかげでヴェルケーロ村の識字率は一時100%に迫った。

ところが流民が増え、あっと言う間に50%を切った。

この世界の識字率は約25%程度だ。


シュゲイムたちと一緒に避難してきたのは若い、手に職を持った者や軍人が多かった。

彼らの7割程度は読み書きが出来たが、問題はリヒタールからの流民だ。

あっちの方は本物の流民だ。

識字率は25%を下回っていた。


俺がリヒタールにいた時代に学校作ろうと計画はしてたんだけどね。どうもその後の代官がぶっ潰したみたいで…ホントあいつ死ねよ。って多分死んだわ。


「うーむ、文官も足りんが農民も商人も、職人も足りんな」

「そうですな。食料ももっと増産して輸出できるようにしたいものです」


俺たちはもう食い物で悩まなくていい生活に慣れている。

慣れてしまっているのだ。


ヴェルケーロの民はどうかわからないが、リヒタールの民もそうだ。

平野が多く、食料生産量が多い。

気候も暖かく、様々な作物を作れる。そして川もあり海もある。

海の近くなので当然海産物も豊富に獲れて…くそ、あらゆる面でヴェルケーロよりいい!


まあ…だから奪いあい、戦争になるんだけどね。

その点で言えばド田舎で誰も興味を示さないような土地の方が安全ともいえる。


「今のヴェルケーロは非常に裕福な土地として注目されております。おまけに鉱山もありますので十分侵略の的になりますな…」

「なんでだよ!ド田舎じゃないか!」

「これも若の功績にて…貧乏で吹けば飛ぶような領地より、裕福で他者が羨む領地の方が良いではありませんか」

「まあそうなんだけどさあ」


そうだな。

裕福で皆が幸福に暮らせる領地を目指す。

為政者としては当然の事である。

おまけに俺の場合はそうすることで『ギフト』によりパワーアップすることができ、目的に近づけるのだ。まさにwin-winである。


「まあ話を戻すけど。流民はもっと受け入れて。んで戻りたくないくらい裕福なところを見せつければいいと思う」

「はい」

「そうするとアホなのも寄ってくるだろうから警備は厳重に。マリア、忍者部隊の方も人数増やして。これからは領内にももう少し手を入れた方がよくなると思う」

「はい。お任せを」

「予算については何時でもいいから言って来い」

「ありがとうございます」


我がリヒタール社の金銭面の管理方法はいわゆる中世の領主様システムだ。

領内の税や公務員の給料が出たり入ったりするところと、俺のお小遣いはごっちゃごちゃになっている。


さらには軍事費や工場やらダムの建設費用も俺のお財布から出たり入ったりするという…トンデモ経営なのだ。まあ小さい会社なら今も社長の通帳から全部出たり入ったりしてるとは思うけど。

一つの会社の社長なんてモンじゃなくて、領主というのは例えば大阪府やら愛知県のトップの通帳に県の予算が出たり入ったり…このシステムどうにか変更しないとな。でもどうやればいいんだろ?


別の通帳を作って俺に給料を振り込む形にすればいいのか?

その場合、俺は身軽になるが…領が破産しそうなときは誰が首を括ればいいのか?

そもそもその体制に移行するときはどうやればいいのか?

俺の今持ってる財産とみんなのためのお金の線引きはどこで???

もう訳がわからんわ。

どうすればいいんでしょうね?

何か大きな革命を起こしてシステムを変えないとダメだと思いますが…その場合反発が凄い事になってもう一度革命が起きそうです。

やっぱり誰かに天下統一させてそいつに不満を集中させて乗っ取るというやり方が正しいのでは。



評価・感想・レビュー・いいね などいただけると大変励みになります。

誤字報告もよろしくお願いします。助かります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 後書きに秀吉かよ! もしくは…と(検閲済み)イロイロ名前がブワッと 出ていました。 読んで楽しませていただいています。 ありがとうございます。
[一言] ヴェルケーロ領を他勢力に奪わせて奪還したときにドサクサに紛れて改革するとか 災害復興時に、でもいいけど 寿命に物言わせて百年スパンの改革が一番平和だけど
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ