災厄の日
領地への伝令にサルンを送り出し。
さあ、これからいよいよ出陣だ。
「あれ?アフェリスはそう言えば出陣しないのですか?」
「ええ、ちょっとね…」
「ふーん??」
アシュレイの妹のアフェリス、あいつも俺の2個下ということはもう大人の仲間入りをしようかという年だ。
ゲームでどうだったかは覚えていないが、あのアシュレイの妹なのだ。
それなりに戦力になる程度には成長しているだろう。
だが、その妹姫は出陣しないと。
何やらちょっと大変?らしい。
まあアホリスが一人増えたって大差ないな。
「ふーん、まあ…」
まあ体調悪いならいいんちゃう?
と部活にこない後輩に対する緩い先輩のような感じ。
出陣すると言っても、ほとんど主役は師匠や伯母さん。
俺やその他の武将は添え物にすぎないだろう。いまさら添加物が一個増えてもな。
そんな訳で見たことある魔族の人たちに挨拶しつつ進軍開始である。
これから戦争だと気負っても仕方がない。
俺はどうせ手伝い戦なのだ。気楽に行こうと言いたいところだが…
「気楽なもんだと言いたいが…な…」
「そうですな。辛いものがありますな」
ロッソも俺も、当然リヒタール出身の兵たちも。
今まさにアークトゥルス城に避難してきている民の顔に見覚えがある人がたくさんいる。
その避難してきている人の群れをまるで逆行するように軍は進む。
すでに時系列で言えばリヒタール領に敵が訪れてから1か月近くたっている。
今すれ違っている民はリヒタールからアークトゥルスへの道中にある村々から避難している民らしい。
素早くヴェルケーロに避難してきたものは、初めから逃げる気満々で用意してきていた者たちだ。
だから荷物の準備もよく出来ていて、服装や顔も小奇麗だったし元気もあった。
でも今逃げてきている者はどうか。
よく見れば魔族と人族の混血の者が多い。
まあ自分たちは大丈夫だと思っていたのか、それとも逃げても魔族に迫害されるかもと思ったのか。
魔族は今のところそれほど迫害や避難をしていないが、攻めてきている人族は奪い取る気マンマンの奴らだ。あいつらはぶっちゃけ相手が魔族でも人族でも関係ない。
金を持っていれば奪うし、男は奴隷にするか殺すし、女は犯して売るか、嬲り殺しだ。
まあ戦場のならいであるな。相手が何族かは大差ないのかもしれない。
何処の軍も、何時の時代も戦争とはそう言ったモノである。
だから警告したのに…と思う心と、許せないと怒る心がある。
でも落ち着け。あくまで冷静に。氷の心を持て。
そう前世の書物で読んでいた。そうだろ?
「ぐぬぬ…許せん!」
「全くです。酷いにも程がある!」
アカン。
師匠も伯母さんも激おこだった。
「落ち着いて。怒りに任せていれば思わぬ怪我をすることもありますよ」
「分かっている。分かっているがな。」
道々には泣いている子供や怪我をしているのかうずくまっている大人もいる。
酷いものには優先的に治癒魔法をかけているはずなので、これよりもっと重傷で苦しんでいる者もいるはずなのだ。おのれ…いや、いかんいかん。平常心、平常心だ。
そう思いつつ、懐かしい道を通る。
何だか全体に少しづつ足が速くなっている。
みんなこの光景を見て冷静でいられないのだ。
いかんいかん、これが魔族の悪い所だ。
直情的で冷静な判断が出来ない。
そういう所を狡猾な人族に突かれていつも大きな犠牲を出しているのだ。
「落ち着いて…冷静に…」
「分かっている。分かっているぞカイト」
援軍に行こうか行かないでおこうか、なんて考えはいつの間にやら消えていた。
呪文のように落ち着けを繰り返しているが、気が付けば俺もどんどん軍勢を追い抜いて前へ前へ。
ダメだ、冷静になろうと思うが足が止められない。 (馬の)
「どうどう。落ち着け。落ち着けディープ。」
痩せ馬は今や魔界有数と呼べるほどの立派な馬になった。
俺の調教術のおかげだ。
いや、俺が育てた野菜のおかげかもしれん。
まあ総合すると俺のおかげだ。
この名馬はワシが育てた(ドヤァ
この感じなら今年の有馬もぶっちぎりよ。
だから落ち着け。掛かっていたらスタミナを浪費するぞ。
でもいい感じで掛かったらスピードも伸びて丁度良くなるらしい。
何ならこのまま先頭に言ってぶっちぎっても良いのではないか。
よし、このまま…
「こら!落ち着かんかカイト!」
「はっ。師匠?」
焦る心に操られ、いつの間にやら軍勢のほぼ最前まで来ていたようだ。
師匠に止められて手綱を引き、顔を上げると。
そこにあったものは。
嘗て住んでいた町の燃えている姿と、
その前にいるニヤニヤした顔の人族の軍勢、
それと城門の上に並べられた子供の首だった。
「ぬああああああああ!」
誰かが叫んでいる。
右腕からは樹を生やし、肘までの左腕は黒き炎を次々と生み出す。
叫び声は深く、重い。
無防備に声を聞いたニンゲンはそれだけで失神するほどの魔力が込められ。
遠目に見た者たちも恐怖の余りに金縛りにあった。
彼の前に立ち塞がる者凡てが樹に捕らえられ、次の瞬間黒き炎で焼き尽くされた。
彼の前には黒煙と炭柱しかなく。
隣に並び立つ者も居なかった。
わずかに後方から見守る者のみが居るだけだった。
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