ドロップ品
アーク歴1501年 弐の月
久遠の塔40層
40層のボスは大きな牛だった。
牛さんのドロップは牛肉と牛乳とバターだ。
なるほど、これは素敵な階層である。
ここをひたすらマラソンすれば乳製品に困ることがないんじゃないか。
そう思ってしまうほどの美味そうな肉に新鮮そうな牛乳にバターだ。
つまりあのボスはメスだったという事か。
牛乳を出すという事は仔牛がいたのかもしれん。
悪い事をしたような気がして来るな。
だがまあソレはソレ。コレはコレである。
「どれどれ…グレートホーンの肉?」
グレートホーンの肉 耐久値99
久遠の塔40層の番人、グレートホーンの肉。
非常に美味
「ほう…」
「うまそうだな!くれ!」
「よし、焼いてみようぜ」
「おー!」
こんな事もあろうかと?カバンに用意してある木でまな板を作る。
包丁…は無い。
いつものジジイの爪切り短剣でいいか。せめてもの抵抗に良く洗おう。
しげしげと肉を眺めるが、どこの肉かはよくわからない。
あばら骨が無いブロック肉なのでバラ肉やカルビ…まあ呼び方はどちらでもいいが、アバラ部分ではなさそうだ。
大きさからしてヒレでもないと思うが、そう言えば地球の牛よりだいぶ大きな牛だった。
ヒレ肉の可能性もあるな。
切ってみるとモモでもないし脂の感じからサーロインでもない。
サシはいい感じで回っているがA5牛って程の脂脂した感じでもない。
ヒレか?ヒレなら超大当たりだが。毎回ヒレが出るのか?やばくね?
この感じの肉が毎回?やばいな。
やばいしか感想が出てこない。美味そうな肉の前ではヒトはアホになるのだ。
よし、気を取り直して焼いてみよう。
どうせなら厚めにカットして贅沢に焼こう。
厚さを2cmくらいにしてまず1枚。これはアカの分。
「これアカの分だぞ」
「おおー!うまそう!」
「だよな。次は俺の……おっと、手が滑った」
俺の分も2cmにしようと思ったが、つい3㎝くらいになった。いやあ、残念だなあ。
「おれもそっちがいい!」
「だめですー!失敗作は俺が食べるんですー!」
などとたわいもない事を言いながら調理を進める。
大丈夫。まだ肉はある。
即席で作ったコンロでフライパンを加熱しながら肉の処理。
塩コショウ…といいたいがコショウは無い。
塩を軽く揉みこみ、フライパンの様子を見る。
ニンニクと牛脂を放り込み、ジュウジュウといい感じになってきたところで肉を。
じゅわあああ~と音を出し、表面を焼き固める。
この時点でもう、牛肉の幸せな香りが凄い事になる。
「やべえうまそう」
「うまそう!はやく!」
二人ともあまりの香りの刺激に頭が悪くなる。
仕方ない。肉なんだもの。
ひっくり返す。じゅわわわわあああああ!
「よだれが、よだれが…」
「もうちょっとがまんしろ」
表面が焼けた所で火から離して蓋をし、余熱で中まで火を通す。
「まだ?まだ?」
「中まで火を通すからじっくり待つ。俺だって早く食べたいんだ」
アカの分に火を通してる間にもう一つのフライパンで俺の分を焼く。
同じように塩を揉みこんでじゅわあああ!
「はわわわわ」
「うるさいな!集中したいから静かにしろ!」
アカの方を見たらよだれがボトボトになってる。
いつも生肉貪ってるくせに何なんだ急に。
同じように焼いて余熱で火を通す。
アカの方はそろそろいいか?5分くらい経った気がする。分厚い肉だから微妙なところだけど…
「おい、そろそろ食っていいぞ」
「うほほほほ!」
まあ生で普段食ってんだ。超レアでも何の問題も無い。
「うま!うまま!」
「マジか…俺も腹減ったな」
「にく!すごい!しるがじゅわー!かいと!うまいぞ!」
「そうか」
コッチはアカのよりさらに分厚いステーキだ。
もっと時間がかかるのだ。
「ぬほほ!とける~!やわらかくてじゅーしーだぞ!」
「そうか」
「うまい!こんなにうまいのはじめてだぞ!」
「そうか」
「あーうまかった!つぎのまだか!」
「 」
俺は無言でアカの2枚目を切り、焼く準備を始める。
「いやあ、うまかった。こんどはもうすこしあつくてもいいぞ」
「そうか…」
俺のはまだ火が通ってない。
ぐぬぬ。欲張らずに薄いのをいっぱい焼けばよかったか!
心に少しの後悔と口に沢山のヨダレを抱え、完成を待ち、黙々と焼く。
俺の分のフライパンの横には食べ終わったアカが待機している。
ちょっと待て!これは俺のだ!絶対やらんからな!
唐突な飯テロ回。
ステーキ肉をちらっとネットで見てたら楽○のおすすめが肉一色になってしまった。
そこそこ強い牛モンスターの名前が思いつかなかったので聖闘士○矢から引っ張ってくることに。まあ技名だからセーフ…か…?