閑話 裏切者の末路
短めです
アーク歴1500年 漆の月
人間界
「ふう、何とか撒けたようだな」
大魔王に仕え、最終的には宰相の座にまで上り詰めた男、グラニエは窮地に追い込まれていた。
支援していたドレーヌとザンの兄弟がド田舎に飛ばされたクソガキに敗れたのである。
だが、機を見るに敏な彼は、ドレーヌがヴェルケーロで敗れたという報を聞いた瞬間に行動した。
『それがどうした』と言う顔で普段の政務を行い、家に帰ると妻子にも友人にも貴族仲間にも…誰にも告げずに夜逃げした。
勿論、高価な宝石や魔道具、それに魔王国の内部資料などは持ち出してある。
こういう時にマジックバッグは実に便利で都合が良いものだ。
行き先は決まっている。
権力を持つ者は常に避難場所の一つや二つ、確保しておくべきなのだ。
そのうちの避難場所の一つであるエラキス教国、教都へ。
面会申請を出して宿に入る。
後はこれら手持ちのモノを高値で売りさばき、悠々自適の隠居暮らしと洒落込むとしよう。
…そんな風に考えていた。
だが、当然彼にはそのような平穏は訪れなかった。
1年前なら魔族が人間界で平穏に暮らす、そんな未来は簡単に手に入れられたものだが。
馴染みの高級宿にチェックインし、風呂に入って女を手配させる。
一通り楽しんだ後、ゆっくりと微睡んでいると突然ドアが開いた。
「む、何事だ。このような夜更けに…店主!店主!どうなっているのか!」
「煩いケモノですね…店主とはこれか?」
ゴトリ、と投げ捨てられるボールのような何か。
何を投げられたのか、足元を見ると。
鼻と耳をそぎ落とされくり抜かれた目でこちらを見る宿の店主がそこにいた。
「ヒッ!ヒイイ!」
「良い悲鳴だ魔族。もっと鳴け。汚らわしい豚め。」
「きっ、貴様!何者だ!名を名乗れ!」
「名など無い…がまあ良い。我はエラキス教国清浄化軍、第二独立連隊長。ウラキン・ド・ノーヴェ。さて。名乗りも終えた所で…」
「死ね!」
グラニエの手から雷光が放たれる。
幾ら前線から遠ざかっているとはいえそこは魔族。
嘗ては彼とて一流の魔法戦士だったのだ。
必殺の一撃のつもりで放ったライトニング・ボルト。
正に瞬きする間もなく敵を蹴散らす雷は…だがウラキンにあっさりと受け止められた。
「さすがは魔族。名乗れと言っておいて不意打ちとは。薄汚い事が上手いものだ。」
「わ、私のライトニングボルトをあっさり…それにその光は!」
ウラキンの手は白銀に輝いている。
「まっ、まさか勇者…!」
「私は我が兄弟たちの中では出来損ないの勇者だ。だが…たかが魔族一匹を屠る程度の力はあるようだな。では死ね」
「まて、私が死ねば、この袋は「必要ない」ぐあああああ!」
剣は頭蓋骨を突き破り、腰椎を半ばまで断ち切った所で止まった。
「チッ…」
一刀両断といかなかったことに不満げなウラキン。
「まあこいつが確保できただけで良いか。」
グラニエの持っていたマジックバッグは回収され、教会の中枢に運ばれる。
後にこのバッグから教会の手によって取り出される資料、宝石類。
それは新たなる戦いのために十全に使用されることになるのだった。
マジックバッグは契約者しか開けられませーん。無理に開錠すれば破損しまーっす。
ってのが魔界での常識ですが、人間界ではとっくに解析されてます。ノンビリやさんの魔族が千年前と同じ感覚でいる間に人間たちの時間はモリモリ進んでいます…って所を上手く書いて行きたい。
なお、かなり難しい模様。
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