裏事情
「お主は姫とずいぶん仲が良いのだな。大魔王様からもお主に嫁がせると遺言があったようだが?」
ラーメン公爵のドレーヌがじとりと俺を見ながら言う。
どこまでヤったんだ?って顔だ。
「えーっと、師匠は俺の武術の師匠をやってくれてた時期がありまして…」
当然、俺はまだ何もやってないって顔で答える。
だって本当にただの師弟関係だし。
「今でも師匠だろうが。弟子が師を超えるまでは師匠のままなんだぞ」
「マジで?じゃあ永遠に師匠じゃん…」
「そうならんように努力をしろ。また畑ばかりいじっているのだろう?この腕は…思ったより逞しくなったな」
師匠が俺の二の腕をプニプニしている。
以前とは違い、少しづつ引き締まってきたと感じているようだ。
そうだろうそうだろう。
俺とて何時までもかつてのガリガリ君ではないのだよ。
いつの間にやらマッシブな大人の男性に…なっただろ?まだなってはないか?
「まあまだ子供の筋肉だ。父上のようになるのではなかったのか?」
「…アレは諦めました。今はお爺様のような細マッチョを目指しております」
「ふむ…成程。現実的であるな」
俺の中ではかなり筋肉が付いたと思うが、まだまだ。だって背丈もあんまり伸びないしなあ。
体感だとまだ150㎝も無い。
良くて中1男子くらいか。
そこそこ筋肉が付いてきてもおかしくない年だが、まあ成長期にあんまり筋肉を付けると背が伸びないって聞くからな。無茶なトレーニングをして柔らかい骨が曲がったりしてもいかん。
「ほんに仲が良いのう。という事はあの噂は本当のことだったのか?」
「何の噂?」
「お主らが好きおうておるから大魔王様が仕方なくカイトを後継者に指名したとか?」
「んなっ!?」
「ええ?そんな事になってんの!?」
「うむ。大魔王様がお主を跡継ぎに指名したのは姫がもう孕んでおるからだとか、無理やり事に至っただとか、お主は女をたらしこんで悪さばかりするとんでもない奴だとか…色々と噂が流れておった。まあ、儂はその噂の真偽を確かめねばならんとな?」
「はあ。」
「そう言えば弟も出兵をやたら勧めていたな…だがいざと思い戦いに出るとどうなったか。まあ、あっさりと捕らえられてしまったわけだがな。ワッハッハ!」
口をパクパクさせる鯉のようになってしまった師匠と能天気に笑うアホ。
というかこいつ、俺を試すために攻めてきたわけ?
防衛戦が…というか防衛の準備が大変だったし、出来るだけ殺さないようにあれだけの軍を引かせるってミッションはかなり大変だったんだぞ。
ぐぬぬ…段々イライラしてきたぞ。
「…つーかお前そんな事で攻め込んできたの?お前らのが攻め込んできて俺らめっちゃ忙しかったんだけど。あの対策に欠ける時間があればもっと畑広げたりとかさあ…色々できたはずなんだよね?」
プルプルと怒りに震えながらドレーヌを問い詰める。
次回のラーメンのダシはお前の骨で採ってやろうか…?
「む、それについては申し訳ないと言うか…いや、まて。勿論お主を試すためだけではない。道中の日和見貴族どもに強制的に選択を迫ることも必要だったし、軍勢の強化も必要だった。それから勿論だが発展著しいヴェルケーロ領を併呑してこれからの魔王軍の主力を我らが担うための戦いだったのだ。そう、決して物見遊山ではないのだ」
「本当かよ」
急に焦って言い訳をし始める奴は大体クロだ。
そう言っていたのは誰だったか。
姉貴が彼氏に浮気されたときに言ってたんだったっけか。…まあいいか。
「どう思います師匠?」
「いや、その。あのな、私はその、私はまだ孕んでなどおらぬからな!?」
「はあ。」
いきなりドモり始めた師匠。
いやまあ、俺との子はいないの分かってるよそりゃ。
「いやまあ、その。お前にはアシュレイ殿がいると分かっているからな。そのな。それでも別にいいと言うかその。あのな。」
「はあ…?あー…。」
あー…。
つまり師匠は大魔王様の遺言に書いてあった俺の嫁になるとかならないとかを本気で受け止めているわけだ。
あんなのは大魔王様が適当に言ってみただけのことだと思うんだけど。
まあそれ以前に師匠は『俺より弱いやつの所に嫁に行く気はない!』みたいなタイプのはず。
俺はまだまだ師匠より弱い。
これは間違いない。
駄目じゃん。
「まあ俺はまだまだ師匠にかないませんからね…ボチボチ頑張りますよ。」
「む、そうだな。私を娶る資格がある者は私より強い者だけだ。そうだろ?」
「そうっすね。ところで行き遅れって言葉知ってます?」
「うぬぬ…おのれ!私が年増だと言いたいのか!」
「ナハハ」
師匠は今はどう見ても適齢期よりちょっと前くらいのピチピチのお姉さんだ。
まあ実年齢が何歳かは知らん。魔族はその辺ホントいい加減だからな。
アシュレイのとこの伯母さんとかまだまだナンボでもイケそうな年だし…
でもまあそういう事じゃなくって、そんなふうに選り好みしてると行き遅れになるぞって言いたかったんだけど。
「ほんに仲が良いのう…若いのは良い事じゃ。」
「あー。オッサンはどう見てももういい年だもんなあ。奥さんと子供と…子供何人くらいいるの?」
「子供は全部で24人じゃな。嫁は9人ほどおるぞ。」
「マジで!」「そんなに…!?」
「そのうち何人が無事でおるやら…年頃の娘が無事ならば一人どうじゃ?儂似でかわいいぞ」
「アッ、間に合ってます」
オッサンに似た巨漢の娘さんは悪いけど俺のストライクゾーンの遥か上に外れているだろう。
何ならバッターの後ろを通る球かもしれん。無理無理。幾らなんでも打てないよ。
それにほら、怖い視線が…
「良かったな。カイト。公爵の娘たちは美人だと有名だぞ」
「いえ、大丈夫です。間に合ってますから」
顔をヒクヒクさせながら公爵の娘を褒める師匠。
もう怖いからやめてくれ。本当に間に合ってるから。
要するに弟一派に色々と理屈を付けられて出兵することになったという事です。
上手くヴェルケーロを獲れれば弟一派の者が入り、駄目なら公爵家を乗っ取るという策だったのですね。
勿論、周囲をまとめ上げていずれは大魔王城を手に入れ、師匠もゲットするという企みでも有ります。ドレーヌはそこまで考えていません。周りに乗せられて仕方なく出兵したという所です。
早く家に帰ってガンプラ作りたいくらいの感覚でした。今ではラーメンですが
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