合流
ドレーヌ公爵サマは徹夜でラーメン作りをしている。
と言う訳で昼の行軍は常に睡魔との戦いだ。
体が大きく馬だと潰れそうなので大きめの牛に俺の樹魔法でベルトを作って固定してある。
そうしないと寝ぼけて落ちるのだ。
「おい、もう魔王城に着くぞ。しっかりしろ」
「儂はまだ眠いのだ」
「おいもう…あれだ、姫さん?にラーメン食べさせるんだろ?」
「そうだ。仕込みをしなければ…」
「昨日までやってたじゃん。後は麺打ちだけだって言ってたじゃねえか」
「…そうだったか?麺打ちは姫様の前でお見せしようと…」
「そう言って粉こねて寝かしてたじゃん…だめだこりゃ」
いよいよ大魔王城に着くと言う前夜、ドレーヌ公爵はすごく張り切った。
なんせ魔族のお姫様がいて、そのお方に今迄食べた中で最高の料理=ラーメンを捧げるのだと。
ふーむ、お姫様か…
なんとなく、と言うかほぼ確信に近いんだけど。
それって多分師匠の事だよな。
師匠はウチの領地に慣れ親しんでるし、ラーメンも何回かは食べたことある。
むしろラーメン屋やってるアッサムと一緒にアレやコレやと試してた口だ。
どう考えても強敵だぞ…
そんな俺の思いを他所に、無事に城内へと入っていく軍。
道中の日和見してた領主たちも援軍を出し、援軍を出さないところは兵糧やら武器やらを提供してくれている。おかげでいつの間にか膨れ上がった軍勢は2500ほど。なかなか立派な軍になった。
兵の数が増えれば食う飯の量も増えるし、道中のウンコも増える。
勿体ないけどさすがにウンコは捨てる。野営の時はまず穴を掘ってそこに簡易なトイレを作り、出発する時に土をかけて埋める。それだけだ。
肥料にすればいい感じになるとは思うが、さすがに量もえらい事になってるし持ち帰るのも…
まあしょうがないな。
あのウンコがあれば堆肥にもできるし、硝石を作る事も出来るはず。
だからって持って帰るってのはいかにもどうか。マジックバッグにウンコ山盛りに詰め込んで、夢とウンコを詰め込んだ袋に…やっぱりどう考えてもだめだ。それ以降ウンコしか入れる気が起こらない袋になる。アシュレイに殺されるぞ。却下だ却下。
などと兵の食料とウンコについて考察していると、
「待っていたぞカイト!」
と師匠の声が聞こえた。
館の門のところまで出てきてくれていたらしい。謁見の間とかで待ってりゃいいのに。
「師匠、お久しぶりです」
「何だ水くさい!他人行儀な奴め」
「うわっぷ。ちょ、やめてくださいよ」
「ワハハ!久しぶりだなあ!」
師匠がお城の前までお出迎えしてくれた。
んで、いきなりの熱烈歓迎だ。俺の頭をワシャワシャしまくっている。
そしてそれを見て目を点にするドレーヌ公爵
「あ、師匠。ドレーヌ公爵です」
「姫様、アル・チ・ウ・ドレーヌ公爵であります。先日は失礼を致しました」
「あ…コホン、ドレーヌ公爵、これは失敬。だが…貴殿の前回の出兵については、甚だ遺憾であると言った所だな。まあ、こ奴に捕らえられてヴェルケーロ領をよく見ただろう。どう感じた?」
「は。噂に聞くと、自分自身の目で見るとは大違いであるかと。前回の出兵については申し開きのしようもありませぬ」
「分かっているなら良い。だが、此度の出兵については応援しておるぞ。ドレーヌ公爵領では貴殿に付くかそれとも弟殿に付くか、迷うておる武将もたくさんいると聞く。」
「ハッ。不徳の致すところでございます」
どうもそうらしい。
ドレーヌ公爵は捕まって死刑になったとして一時は家中をまとめた弟のザンだが、俺の領地からの手紙が届くと『話が違う』となった捕虜たちの家族から突き上げが酷くなった。
そしてその一部を投獄したり、家財を没収したりして…ますます酷く揉めているようだ。
「…なに我もこれから共に征こうではないか。」
「おお、姫が同行してくださるならこれほど心強い物はありませぬ!」
「師匠は強いですからねえ」
師匠は強い。
ダンジョンでレベルが上がったし、ユグドラシル王国のスタンピードを乗り越えて俺は以前とは比較にならないほど強くなった。と思ったけど師匠の前に行くと大差なかった。
戦闘力5が100になっても、53万の前から見ればどちらも同じなのだ。
あのくらい強かったらアシュレイを蘇らせる事も出来るんじゃないか。
そう思って聞いてみたけど、ダンジョンの報酬による復活では、お互いの関係性がある程度濃い、一緒に戦ったことがある者しか蘇らせることはできないそうだ。
アシュレイと師匠は会って話したことはあるが、その程度の間柄だったようで…
試してみたが、残念ながら復活させることはできなかったと。
ほへー。と思って気付いたことが一つ。
試したって事はつまり師匠はソロでAランクダンジョンをクリアすると言う条件を達成したのだ。
こやつめ、なかなかやりおる(謎の上から目線
クリア報酬で復活を願わなかったという事は師匠は何を貰ったのだろう?
自身の強化か、軍勢の強化か。それとも内政的な…ゲームだと畑や漁場、鉱山からの収穫量が翌年からアップしたが、現実だとどうなるのか。毎年ものっすごい豊作になるんだろうか??
そんなことを考えていると、
「おい、そろそろ出発するぞ」
「あ、はい。えーと、大魔王城からも軍勢を出すので…?」
師匠の後ろに見えるのは1000近くの軍勢。こんなにどこからいたんだろう?と思ったけど大魔王様の近くでお城の掃除をしていたメイドさんや、庭師をしていたオジさんの顔がある。
「…あの人たちってメイドさんに庭師さんじゃないですか。よくお世話してもらいましたよ?」
俺も大魔王城にいた時期がある。
親父とアークトゥルス魔王ことアシュレイパパを殺害したという事で容疑者になっていた時だ。
あの時は色々あってそれどころじゃなかったが、よく考えるとかなりお世話になった人たちだ。
また後でお礼のご挨拶しないと。
「そうだ。彼らもかつては騎士だった。」
「え!?そうだったんですか?」
「そうだ。大魔王様の近くにいるものが武芸の素人ばかりだとでも思っていたのか?彼らはかつて騎士団に所属していた者たちだが、引退する年になっても大魔王様の近くに居たいと思う者は多い。そうした者たちを再雇用することで城内は保たれているのだ。まあ、今回の出兵にともに行くものを募集したら彼らが手を挙げたのでな。もちろん、他にも市井の者たちも混ざっているぞ。市井の暮らしに戻った元騎士も多いがな。」
「なるほど…」
なるほどなるほど。
大魔王城には常備軍がほとんどいないと思っていたが、そう言う訳でもなかった。
見えないところで大魔王様を敬愛する者たちが守っていたのだ。
…それにしても今回程度の出兵にこの数は多すぎなんじゃないか。
「でも今回はいうなれば反乱軍をちょっと懲らしめるだけですよ。何なら戦いにならない可能性も割と高いです。人数が多すぎなのでは?」
「私もそう思うが、行きたいものに手を挙げさせるとこうなったのだ。手弁当でいいと言う奴に邪魔だから来るなとも言えんだろう。」
「まあそれは言えませんね」
年寄りだから来るなとか。
言えるわけねえよなあ。
「まあ何人かには年寄りの冷や水と言うから来るなと言ったんだがな。」
「言うたんかい!」
「わはは。昔から世話になっているジジイたちしか言っていないぞ。ところがあいつらはそれを聞くと、『姫様にまだまだわしらも枯れておらんところをお見せしますぞ!』だと。それに追加で何やら言っておったが…何だったかな?まあ良い」
「はあ…」
師匠はこんなにやりたい放題する人だったっけ。
大魔王様が生きてた時は少しネコかぶってたんだろうか。
いや、俺の所ではいつもこうだったか。
アップするためにまとめてて気が付いたけど今回の話は『師匠と合流した』の7文字で済む話だったんじゃないか…!