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交渉


アーク歴1500年 伍の月


ヴェルケーロ領



「ドレーヌ公爵、ご機嫌はいかがかな?」

「悪くないぞ。リヒタール伯爵」


ドレーヌ公爵は最初煩くてしょうがない面倒くさい奴だったが、ウチで作った酒を飲ませると大人しくなった。まあ酒も飲み始めの頃は熟成が足りんだとか、もう少しいい器は無いのかとか。それからツマミについても平民の食う物じゃないか、とかこんな得体のしれん物を…とか。

文句ばかり言ってたが、食ってみると美味いと気づいたみたいでそれからは大人しいものだ。


そりゃ美味いだろ。

出したのは枝豆に唐揚げやら干物やら。

それからトマトとチーズを交互に挟んであるカプレーゼだ。

居酒屋定番メニューを出してみたわけだが、さすがは日本の居酒屋で食うものは上質らしく。

公爵様も大喜びだ。


「まあ機嫌のいい所に悪いニュースだけど…」

「ん?なんだ?」

「師匠…大魔王城からの情報だと、アンタの弟のザンが公爵家を乗っ取ろうとしているか、もしくは乗っ取ったらしい。爵位継承の申請が来ているんだってよ」

「なんじゃとおおお!」


口いっぱいに含んだ唐揚げの油分を俺に飛ばしながら、ドレーヌ公爵は叫んだ。

俺の顔は涎か油か良く分からないネトネトでべっちょりになった。


「…乗っ取りが上手くいってるかどうかは分からん。」


顔をぬぐいながら話す。


「この間手紙を書いてもらっただろ?あれと200人分の捕虜の手紙を今輸送中だ。手紙が届いてから弟クンと生き残ってる家臣たちがどう反応するかは俺にもさっぱり分からん。どう思う?」

「そうだな…この間話していて気付いたが、従軍しなかった連中は儂に近い者が多かった。そいつらが乗っ取りを食い止められていればよいが…もう処分されているやもしれぬな」

「そーなんだよな」


勿論、ドレーヌがいくらアホ公爵でも代々の忠臣てのは居るモンだ。

公爵家ともなれば家臣団も何人じゃなくて、何十、何百もいるらしい。

それと分家もいっぱいいれば寄子の貴族もたくさんいて、まあ大変な勢力で…


産まれが何年早いか遅いか。

それだけでその勢力を差配する身分になるか、それとも只の一家臣になるか。大きな違いではある。

そりゃあ乗っ取りを企てる奴もいるってモンだな。


「と言う訳であんたと弟の派閥間で一戦あるかもしれん。その時は当然出陣したいだろう?」

「勿論だ。まあ吾輩は今は囚われの身であるわけだが?」


そう言って挑発的な視線を送ってくる。

はいはい。

皆まで言わなくても分かってるよね?


睨み合いが少し続いた後、ドレーヌ公爵が口を開いた。


「…解放の条件は?」

「とりあえずは賠償金に同盟。それと反乱軍の討伐支援が欲しい場合は…まあ従属関係になってもらうかな。俺は魔界を統べる気はあんまりないが、人族に魔界を荒らされるのも困る。俺が前に出て戦うなら、後ろにある程度信頼がおけるやつがいないとな。」

「それで貴様の領地を攻めた吾輩を信頼するのか?なんとまあお優しい事で…」


まあ、そう思うよな。

俺だって甘いと思うよ。でも他に手も無いし。


公爵軍を撃退して、事実上の配下に向かえたとなれば俺の発言力も高まるだろうし。つーかそうでもしないと教会の頭おかしい連中や勇者たちを止めることが出来ない。


そう思って捕らえた公爵と側近たちの待遇は悪くしていない。

この2週間ほど、監視はつけているが領地の中では自由にさせていたのだ。


「ウチの領地を見ただろう?どう思った?」

「…悪くない」

「そうだろう。最初は大魔王の野郎トンでもないド田舎に飛ばしやがってと思ってたけど、今じゃあすっかり愛着沸いちゃってさあ…それで…」

「何という事を。大魔王様に向かって野郎などと。やはり刺し違えてでも殺すべきか…」


俺が愛着を語っている間にドレーヌのオッサン一人ブツブツ言ってたが、最初の方しか聞こえなかった。何と言う事を、って言われても。


俺なんて何も悪いことしてないのに、頑張って育てた土地没収されて『明日から君こっちの荒れ地ね』。って言われたんだぞ。農家の人にそんなの言ったらぶっ殺されるぞ。

俺だって反乱してやろうかってチョコっと思ったくらいだ。チクショウ。


「まあ大魔王様についてはもう怒ってもしょうがないから怒ってない。それより、この地と同じように魔族が安心して暮らせる土地を魔界全土に作り上げたいのだ。そのためにドレーヌ公爵にも協力してほしい。お願いする。」


ペコリと日本式のお辞儀をする。

土下座まではしない。

もし駄目だって言われたらドレーヌ領ぶっ潰すぞ!?アアン!?ってしなきゃいけないからだ。


「…分かった。儂が直接行けば疑心暗鬼にとらわれている者共も大人しく従うだろう」

「おお。よろしく頼む」

「さあ、ならばあとは領主同士の話だな。先ほど貴様は領地を富ませると言ったが、まずはこの酒の作り方を…」

「え?でもそれ全部言っちゃうとウチの儲けが無くなっちゃうじゃん」

「そうであるな。では貴様にはロイヤリティーを払おうではないか。我が領地で酒を造り、その上で儲けた金額のうち…そうだな、1割を「3割にしよう」


1割とか冗談じゃない。

ほぼ知識だけ渡して残りは全部取られるじゃないか。コイツアホちゃうかって話だ。

もっとよこせ!


「おいおい、3割はきついだろう。1割2分!」

「2割8分」

「なかなか強欲な。よいか、我が領地で我らの住民が、自分たちで作った作物から酒を作るのだ!1割5分!」

「でもうちの領のノウハウとかもっていく気だろ?2割5分くらいはもらいたいなあ」

「よし分かった。2割だ。もうココまでだぞ」

「しょうがない。2割6分にしよう」

「何故上がる!2割だ!」


漫才のようなやり取りをしたが、まあ現実的に考えて2割くらいのモンか。

材料費から人件費まであっちでやって貰い、俺はアガリの2割をいただくなら上出来だ。だよね?


「…分かった、2割でいい。平和になれば技術者を派遣しよう。他にも農地の開発なんかも頑張った方が良いぞ。酒は2割だから農作物は収益の半分でいいぞ」

「高いわ!!!」


チッ。今なら勢いでイケるかと思ったけどさすがに誤魔化されなかったか。



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