閑話 大魔王城にて
師匠視点、短めです
アーク歴1500年 伍の月
大魔王城
マリラエール・ラ・ルアリ
「姫様、次の面会者が」
「通せ」
「ハッ」
一人の男が入ってくる。
中肉中背、人族かエルフか。エルフにしては特徴のない顔。ホブゴブリンやオークでもない…種族が何なのかよくわからない。そんな男だ。
「鷲鳶衆頭領、グン・サザムか。よく来たな」
「ハッ。姫様、お久しぶりでございます。」
「うむ…報告を」
「ではドレーヌ公爵領から…」
先月ヴェルケーロ領へ攻め込んだドレーヌ公爵軍はあっさりと撃退され、さらにドレーヌ公爵本人は討ち取られた。そのため、アル・チ・ウ・ドレーヌ公爵の弟であるザン・チ・ウ・ドレーヌ男爵が公爵位を継ぎ、ヴェルケーロに再度出兵する…と息巻いているらしい。
と、此処までがこの鷲鳶衆こと、大魔王城に大昔から仕える間諜の頭領がもたらした情報だ。
実際、ザン・ドレーヌ男爵からドレーヌ公爵の跡を継ぐとこちらにも連絡があった。
だが、ドレーヌには妻も子もいたはず。
通常ならばドレーヌの長子が後を継ぐべきだ。彼はどうなったのか?との問いには返事もない。
もはや手遅れかもしれんが、一応先代公爵の子らが無残に扱われていた場合、大魔王城の主人として公爵位の継承を認めないと使者には伝えた。
まあドレーヌの子らについてはもう遅いかもしれんがな…
一方でカイトからはドレーヌ本人と捕虜を200名程得たから交渉の仲介をして欲しいと連絡が来ている。
ドレーヌは討ち取られたとするザン男爵と、ドレーヌを捕虜にしてあるというカイト。
私個人がどちらを信じるかは言うまでもないが…。
馬鹿弟子のカイトは、魔族は皆善良でいい者ばかりだと思っているようだが、善良なのは庶民のしかも若い連中だけだ。
何百年も生きているような連中や貴族連中は悪だくみも好きなら着服や賄賂も大好きだ。
貴族どもはそんな連中を集めてさらに煮詰めたような俗物揃いなのだ。
そして俗物魔族の代表のようなのがドレーヌ一族だ。
まあ一族の頭領をしていた公爵は頭が少し足りないだけで、そこまで悪だくみはしていなかったようだが…
その点、大魔王様は実に清廉潔白なお方であった。
収賄や税の不正などお金の問題から奴隷に対する取り扱いなどを法にまとめ、身分を問わず裁判にかけて処分した。大魔王様の治世の初期にはそれに反対するものも多く、『こんな事をやって何になるのか』『田舎者が少し力を持っただけで偉そうに』などと公言するものも多かったそうだ。
だが、その者らには特に何も処分せず。
ただ粛々と不正をしたものにだけを処分した。
そうするうちに民衆の生活は徐々に改善され、今までのように平和な魔界が訪れたそうだ。
…だがまあ、それは主に大魔王様お一人の力によるものだったようだ。
文句を言いたい者も自分たちよりはるかに力で押さえつけられていたから何も言わなかっただけ。
人間界の方も『盟約』が解かれたことを認識しているようだし、これからは厳しい時代になるだろう。
「人間界の方はどうか」
「すでに戦の支度をしているようです。どこに向かうかは未だ解りかねますが、恐らくリヒタールかと…」
「そうか。やはりな…引き続き調べを頼む。」
「ハッ」
最初に戦になるのは、やはりリヒタール領か…
すでにリヒタール領をカイトに代わり代官となっているリバンバイン子爵には戦備をするように通達してあるが、果たしてそれが侵攻を抑えられるかと言えば…どうか。
そしてそのすぐ後ろはアークトゥルス魔王領だ。
あそこはアークトゥルス女王がしっかり治めていると聞いているが。
だが、人族はどのくらいの数で攻めて来るか皆目見当もつかぬ。
カイト…急がなければ間に合わなくなるぞ