調略のターン①
援軍に来たライルさんと他1000名近いユグドラシル王国から来た兵の皆さんは宿屋に泊まってもらった。
勿論だがヴェルケーロで普段から開業している宿屋だけじゃ足りないから、みんなの家や工場にも分けて泊まってもらい、それに風呂も新しく作って皆に入ってもらった。
銭湯は以前に作ってあったが、千人規模の援軍はさすがに入りきれない。
と言う訳でついでだから銭湯の二号館を作ってしまう事に。
と言う訳であっと言う間にヴェルの湯二号館の出来上がりである。
マークスに土魔法で地面を掘ってもらい、沸いてきた水を加熱したお湯だ。
残念ながら天然温泉は沸いてこなかった。
天然温泉は鉱山の方に行けばあるんだけどな。さすがにな。水魔法の使い手にダウジングっぽいものをしてもらって掘る位置を決めたので無事に水は出たがさすがに温泉は引き当てられなかった。
いっそ火魔法の使い手にダウジングさせた方が良かったかもしれんが、マグマが出てきたら大変だ。
バケツの水ぶっかけて黒曜石に変えるしかない。
そして黒曜石で四角いゲートを…まあソレはいいか。
「さて、これからどうしようか」
「逆侵攻を掛けるのでは?」
「うーん、それも思ったけどな。あんまり兵は削れてないからな…」
攻め寄せる敵を撃破し、首魁を捕らえた。
ならば次は浮足立つ相手に対し、こちらから侵攻する…と言いたいのだが。
侵攻ルートにあるのは中立の軍だ。素通りさせてくれるかは分からない。
さらに、今回の撃破はあくまで地の利を利用し、あらかじめ仕掛けておいた罠を使ったものだ。
今度はこちらが何があるかわからないところに突っ込んでいくわけで。
防衛時には天・地・人で言うところの地の利を最大に生かしたわけだが、次はあちらに地の利がある。おまけに人数も多い。
人数が多い方が必ずしも強いわけではなく、質的な問題もあるが一般的には数に勝る方が強い。
一人のクソチート野郎がいればそれをひっくり返すこともあるが現実には難しいと思うのだが…うーむ。どうするか…
「普通に考えて交渉かなあ。裁定役がいないところが問題になるんだけど」
通常なら魔界の貴族同士の争いは大魔王様が裁定する。人間界の事は知らん。
でまあ通常であれば。
今回のケースならあちらのトップであるドレーヌ公爵を返し、その代わりに金銀財宝や土地を分割して戦後賠償金として支払う…と言うケースになるだろう。
その量を決めるのはお互いと大魔王様だが。
どうしても支払えない、もしくはもっと貰わないと困る。と言う場合には再戦や代表者の一騎打ちが行われたりすることもある。
その場合は誰に出てもらうか。
親父が生きていれば親父なんだろうけど…俺は嫌だぞ。
どちらにしろ、戦後の処理が面倒なのに変わりはない。
なのにさらに攻め込むと言うのはもっと面倒そうだ。
俺の目的はあくまでダンジョン。なのに最近はダンジョンに通うことすらできない。ほぁ。
どうするか決まらないまま2週間が過ぎた。
その間に色々動きはあったが、とりあえず今すぐ再戦にはならないようだ。
時間があったので畑の休憩時間にドレーヌちゃんと話をした。
最初はうるさく怒鳴りつけて罵詈雑言を繰り返すばかりだったが、爪をナデナデしてから少し大人しくなった。
食事を与えるとなお大人しくなった。
どうも殺されると思ってたみたいで自棄になっていたらしい。
でまあ、落ち着いたドレーヌ公爵には直筆で手紙を書かせた。
マリアたちが調べた結果、今ドレーヌ公爵領ではドレーヌの弟だか何だかが『敵前逃亡した挙句に戦死した先代』の代わりに領主になっているらしい。
なんと美味しいシチュエーションか。
そんなん調略し放題じゃないか。
ドレーヌ公爵の所には名のある武人も内政家もいたはず。
それをぜーんぶ置いて来た今度の出兵はどうなってんだと思うが、とりあえずそいつらに声をかけまくる。勿論声をかけるのはドレーヌ公爵で俺は添え状を出すだけだ。
『弟が公爵の座を乗っ取るためにわざと捕らえさせた』とか、『優秀な部下である貴君を置いて行くように進言したのも弟だ』とか。
俺の事も一応褒めといてもらう方向で書いてもらったが…まあいちいちチェックはしてない。
俺はそれに添え状として、『ドレーヌ殿を捕らえたが明らかに公爵軍の様子はおかしかった。今後はユグドラシル王国軍と連携してドレーヌ公爵を元の地位に戻すために出兵する。協力を頼む』みたいなことを書いてある。
さあ、何人くらいがこちらに付いてくれるか。
お盆の間はほとんど予約投稿だけでした。
まともにPCさわる時間もなく、無事ストックを消費していくのみでした…。