侵攻(される側③
装備はバッチリだが、数は少なく、継戦能力は微妙な部隊を城壁の上に出すと相手はすこし怯んでいるようだ。
おいおい、しっかりしろよ。
そんなことじゃ殺る気マンマンの人族が侵攻して来たら為す術なくぶっ殺されちゃうぞ。
「いざ、疾く参られよ!ん?腰が引けておるぞ?ドレーヌ殿の配下は皆腰抜けか?そのような事でよく魔界を乗っ取ろうとしたものだ!それとも、戦では敵わぬからお友達を連れてお話に参ったのか?」
「ええい!若造が!かかれえええ!」
やけくその様な『かかれ』の声に渋々と言った感じで前衛が押し出される。
さざ波のようだった進軍はだんだんと大きくなり、津波となって城壁に押し寄せてきた。
「撃て!」
投石から弓、クロスボウ、バリスタとそして魔法に大鉄砲に木砲と俺たちが所持する遠距離火力を一斉に大盤振る舞いした。
途端に訪れる砲声と土煙と悲鳴の山。
「撃て撃て撃て!」
調子に乗って5分ほど連射した後、そこに残るのは無傷の城壁と壊滅した先鋒。
そして動けなくなった後陣たち。
「どうした!ドレーヌの手勢はこれで終いか!そこにいるのは木偶の坊たちか!味方を援けようとする者すらおらんのか!」
「おのれ…」
「どうしたどうした!図体ばかりで動こうともせぬ、臆病者のドレーヌ!貴様がそのような有様だから大魔王様も後継者には選ばなかったのだ!さあ、疾く参られい!来ぬのならはよう去ね!お前などの相手より畑の世話の方が大変だわ!」
敵側から怒りの声、味方からは笑い声が上がる。
さあ、もう少し突っ込んで来い。
「ええい小僧!この儂が自ら倒してやるわ!」
ドレーヌが突っ込んでくる。
釣れた。
ようやくというべきか、思ったより早かったというべきか。
1日目で、2度目の突撃で突っ込んできたのだ。思った以上どころではなく早いと思うべきだな。
でもこれで思い描いた理想の通りに終わらせられるだろう。
単純な奴で良かった。
「側近だけ狙え。雑兵には当てるなよ。マークス、ロッソ!出番だぞ」
「応!」
俺の方もリヒタールからの側近を動かす。
マークスとロッソは門からではなく地下に掘った道から50名程を従えて出撃。
相手は3千はいるかと言う大軍だ。作戦をきれいに決めるには上手に誘導しなければならない。
「アカ、火。あの集団のちょっと右」
「おー!」
迫る前衛にレベルが上がって体も大きくなってきたアカのブレスが迫る。
集団の右方向に着弾。
着弾に驚いた部隊はやや左にそれてくる。よし、あの辺だ。
「足止めにもう一回。あいつらの前ね。当てるなよ」
「おう!」
もう一発ブレス。
エルフのユグドラシル王国防衛線では狙いがめちゃくちゃだったが、あの後の猛特訓でほぼ狙い撃ちができるようになった。こういう状況になるかと思って城壁から狙う訓練は何回もやったのだ。
「そろそろだぞ。覚えてるな?」
「おぼえてるぞ!」
こちらの誘導通りに近づいてきてくれる。
真っ直ぐで、防衛する側としては楽だが後々こいつらを率いて戦う事になると思うと不安しかないな…
ってよし、ドンピシャだ!
「今だ!撃て!」
「がおーん!」
アカのブレスがドレーヌ公爵の居る集団の前方に着弾。
すると大きな爆発が起き、ドレーヌ公爵の周囲の地面がボンボンボンボンッと連鎖的に爆発を起こす。
「よし、狙い通り!」
「な、なんだ!?何をした!小僧!」
「罠にはまったって事だよ!オッサン!」
そして公爵の周囲が突然崩れた。
そう、いわゆる落とし穴だ。
ある程度の規模の軍勢が乗っても大丈夫なように強化した支えを置き、その上に土を固めて被せる。
そしてその支えを火薬で爆発すると、地面が崩れるというワケだ。
特にしっかりと支柱を入れたところには魔石を使った爆弾まで仕掛けてある。
まあ、起爆すると魔石はなくなってカネも飛んでいくが、この仕掛けは爆発させなきゃ掘り返せば元が取れるからな。
斯くして巨大な落とし穴が完成し、ドレーヌ公爵とその周囲の兵はかなり深い穴まで落ちた。10mほどの深さの有る落とし穴の下ではマークスとロッソとウチの精鋭部隊が待ち構えており…
「その首頂戴いたす!」
「気持ちは分かりますが捕らえる約束ですぞロッソ殿」
「そうでした。では。」
ロッソの槍は落下してきた敵部隊を蹴散らしてドレーヌをひっ捕らえた。
「敵将捕らえたり!」
「おおおおお!」
土と一緒に落ちた兵とで潰れて死にかねんと思ったが死んでなかったみたいだ。
さすがに公爵クラスの魔族、頑丈だな。
ロッソは朱槍の先にぐったりとしたドレーヌ公爵を釣るし、出撃した地下道を通ってそのまま悠々と帰還。敵はドレーヌを奪還しようと自ら落とし穴に飛び込む者もいたが、その頃にはマークスが土魔法で通路に壁をしてあるので中々追撃が出来ない。
そのまま無事に主犯とその周囲にいた者たちを捕らえたロッソの部隊がぐるっと回って壁内に戻ってきた。
さあ、あとはこの状況でどううまく和解するか。
どうやって後片付けを終わらせるかだ。
あっさりと片付きました。というかあっさり片付けました。
これくらいの配分でいいんじゃないか。ユグドラシル防衛戦はだらだらやり過ぎた感まである。