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侵攻(される側②

アーク歴1500年 肆の月


ヴェルケーロ領




「いやあ壮観ですなあ」

「そうだね。これがみんな俺を殺しに来てるんじゃなかったら壮観だねえ」

「若のその軽口が聞けるうちは問題ありませんな」


ここはヴェルケーロ領に新たに築いた城壁の上だ。

連合軍が攻めてくるのは分かってたから、この1か月ほどでかなり突貫で準備をした。


元々ヴェルケーロ領には城壁を築いてあったのだが、新領地をもらったからその外側まで大きく囲うように作り直した。山側からぐるんと囲っている。

2重の壁を作った構造になり、某マンガのウオールマリアだっけシーナだっけ?みたいな構造になりつつある。

まあでもその呼び方は付けない。

将来蹴りやタックルで砕かれそうだからな。



当然のことながら作るのは魔法に頼っている…といいたいが、人力にかなり助けられている。

みんな農作業の合間合間にホイホイと岩を運び、土を固めてくれるのだ。


おかげで城壁の高さは村一番の大きさであるトロルのベロザがジャンプしても届かない5m程度の高さに。

そして幅は3mほどもある。もちろん、上に乗って戦う前提で胸壁もつけてある。

そして城壁の外側には堀まである。


堀には川から水を引いてある。

戦いが終わったら農地の方にある人工池と接続して田んぼに水を送れるようにしたい。

この堀に鯉とか放流してもいい。食い物に困ったら食えるし…って戦争中なら敵に食われるな。


「ヴェルケーロの住民に告ぐ!そこにいる小僧は国家を乗っ取ろうとしているの!畏れ多くも大魔王様の遺書を偽造し、さらには大魔王様の直系の子孫であるマリラエール様を篭絡し…」

「お」

「なんかはじまったぞ」

「良くあんなでかい声出せるな」


ある意味感心だ。

本人は豆粒くらいしか見えない程に遠い所にいるのに声だけは届く。

言いたいことがあるならもっと前に来ればいいのに。



まあとにかく、ドレーヌ公爵様の言っている事をまとめると。

俺ことカイト・リヒタールが大魔王の位を簒奪しようとしているらしい。

以前にはアークトゥルス魔王の座をアシュレイを口説き落として簒奪しようとし、今度は師匠を篭絡して大魔王の座を狙っていると。女を利用して地位を得ることしか考えてない俗物だと。


うんうん。なるほどなるほど。

とんでもねえ奴がいたもんだ。



「なるほど。こいつら皆殺しに…いや、まずいか」

「坊ちゃん、私が今すぐ殺しましょう。いえ、殺すより酷い目に合わせまする」

「若、(それがし)に命じて頂ければ、奴のそっ首この槍にて今すぐ刈り取りますぞ!」

「なんかむかむかするからおれがやってもいいぞ?」

「オラがぶっ殺してやるだ!」「オラだってやるだ!」「領主様を馬鹿にしたやつはおらがやってやるだ!」「いーや、おらだ!」「僕だ!」「俺だ!」「私だ!」


「おう、まあ落ち着け」


俺が切れそうになると、周りがもっと怒ってた。

領民たちはみんな泣くほど悔しがってるし、マークスもロッソも顔真っ赤にして怒ってる。

アカもなんだかいつもより怖い。オコだオコ。



「いいか、よく聞け。こいつらを全滅させるのは実は簡単なんだ。お前らが命を懸けたりしなくていい」

「ハッ…」

「でも全滅させたりしちゃうと後の事が困る。だから出来るだけちゃんと勝つ。こっちにも相手にも犠牲を少なくして勝つ。勝てばいいだけじゃないんだ。だからもうちょっと待て」

「しかし、若。あれほど言われては悔しゅうございます」

「堪えろ。あいつ等はみんなが作った壁にビビってるからあんな事言って挑発してるんだ。出てきたら簡単に始末できると思ってる当たりも何とも言えんがな」


いくら魔族が人間には出来ないような事を簡単にやってのけると言っても程度がある。

水掘りと胸壁を合わせ、高低差は6mを超えるのだ。


「じゃあこっちもやるか。えー、こちらはカイト・リヒタールです。アホのドレーヌくんとそれに協調してる貴族連中に告げまーす」


拡声器はなかったのでメガホンを作った。

錬金術かなんかで拡声器が作れればいいんだけどな。今の俺らの技術じゃこの辺が精一杯だ。

そして俺も負けないように大声を出す。マリアが風魔法でフォローしてくれている。器用だな。


「アホのドレーヌくんは宰相と共謀してすぐバレる嘘をつきました。嘘の内容は『大魔王様がアホーヌ君を後継者に指名した』って大嘘です。

そもそも大魔王様の後継者候補には魔王の種が発現してるはずですよ。こういうの!」


右手を上にかざすと手の甲に聖痕のような何かが見える。

俺はもともと左手にこの痣があった。でも左手は切り取られてしまって、そしてその直後にアシュレイが死んだ時にあいつの痣が俺の右手に宿って…後に大魔王様から魔王の種だと教えられたモノだ。

でも天の声っぽいのでは二つ目だって言ってた。どこか見えないところにもう一つ痣があるのだろう。恥ずかしくないところにしてほしいものだ。


「アホーヌ君にはないでしょ?有るわけないよね?下らない嘘をバラされたからって顔を真っ赤にして逆恨みして襲い掛かって来てるだけなんだもんね。魔王の素質なんてないもんね?」



ザワザワと動揺の声が広がる。

大魔王様を近くで見たことがある者は手の痕も知っているだろう。

傷痕のようなものかと思っていたが、それと同じようなものがあるとは知らなかったのだろう。

俺が調べたら大魔王城の図書館にはこの痣についての記述があったが…まあ興味持って調べなきゃ普通知らんよな。


「出鱈目を申すな!」

「残念ながら出鱈目じゃありませーん。この聖痕…この場合は魔痕かな?は何人かの上位魔族にはあります。その方たちが後継者です。…その存在すら知らないドレーヌは血筋だけで何も知らない、知らされてすらいない者だ!そのような者に従うのならそれ相応の覚悟をせよ。では諸君、いつでもかかって参られよ!」


声と共に装備を整えた兵たちが城壁の上から姿を見せる。

城壁にはバリスタも何機も備えてあり、当然それも何時でも稼働できる状況だ。


弓が届くかどうかって所にいるのは平和を謳歌してロクに武器も持っていない民兵たち。

まあ民兵と言ってもオークやコボルトが主体の魔族兵だから素手でも武器を持った人間なんか引き裂ける程度の強さはあるが。


でもうちの城壁に登った兵たちは数は少ないが黒鋼の鎧に魔族によく効くミスリルの武器を持ち、弓矢もクロスボウも各人好きなように持っている。

大きな筒を持った者もいるが、あれが何の筒かはまだドレーヌ軍の者たちは分からないだろう。

あの筒は大鉄砲だ。

小さい鉄砲は加工が逆に難しかったが、大きなのは出来た。

大鉄砲は弓矢じゃ難しい対大型モンスター用だったんだけど急遽引っ張って来た。

ついでに大砲というか木砲が出来た。


と言うか木砲がマジで簡単に出来たのだ。

成型はイメージすればそれだけでいいし、魔力を流して固まれと思えば鉄より硬いんじゃないかってくらい硬くなった。試しに撃っても10発程度じゃ壊れない。そして俺が横に入ればすぐ修理できる。

もうこれでええんじゃないか?と思ったけどいっぱい撃つとさすがに歪む。

俺が居ない時用にちゃんとしたのも作っておかないと。



木砲は量産できるが、その火砲を撃つための火薬はまだそれほどない。

硫黄は火山だからいくらでもと言っていいくらい採れるが、硝石がないのだ。

一応古土法で採取できるだけは採取した。

でももともと人口が少なかった土地なのでそれほど取れてないし、頑張って硝石丘を作っているもののまだこちらではほとんど採取できていない。


リヒタール時代に作ってあった分はちゃんと持ってきたのでそちらがメイン。

と言ってもあと2樽分くらいしかないから今日使い切ってしまうかもなあ。

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